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恋⁉
しずかとしょかんを出た後も、浅羽さんのあの笑顔が頭にしっかりと焼き付いて離れなかった。
いつもは心の中で文句を言っている電車内でのおしゃべりも、全く気にならなかった。
電車から降り、家に向かって歩いている時も、何だか呆けたように、浅羽さんのことばかり考えていた。
家に着き、玄関のドアを開けると、香ばしい匂いとともに、「おっかえり~」という妙にテンションの高い声が響いた。
「今日のご飯はシチューだよん」
父が何かを言っているが、僕の耳には届かなかった。
「あれ? どうしちゃったの、宇宙?」
父が僕の顔を覗き込む。
「ん? 宇宙、顔が真っ赤だけど……」
すると、父は独り合点するように言った。
「あっ、そうかぁ。宇宙も、そんなお年頃かぁ」
嬉しそうに顔をほころばせる父。
「恋っていいねぇ。青春だねぇ」
コイ? 鯉? ……恋⁉
そんなリア充の代名詞みたいなこと、ある筈がない。
宇宙君の、この感情は果たして「恋」なのでしょうか。




