少し驚いてしまって
その後、私と高村君は電車通学なので、部活もあり自転車通学の灯とは一旦別れ、例の公園で待ち合わせをすることにした。途中、コンビニに寄り食料を調達し、公園の茂みの中に身を潜め、張り込みを開始した。
「お前、張り込みをはりきってるわりには、あまり徹底してないよな。何だよ、チョココロネと紅茶って。普通張り込みっつったら、あんぱんと牛乳だろうが」
「五月蠅いわね。私は食べたいものを食べるの。それにあなただって、おにぎりとお茶じゃない」
何度か張り込みをしたことがあるけれど、あんぱんと牛乳が揃ったことがない。
「すみません。遅れました」
七時を少し過ぎた所で灯が到着し、自転車を止めて私の隣に腰を下ろした。
「私、張り込みって初めてだから、ちょっとワクワクします。あ、ちゃんと張り込み用の食料も買ってきましたよ~。やっぱり、あんぱんと牛乳ですよね」
刑事ドラマ順守の子がここにいた。気まずくなった私と高村君は、チョココロネとおにぎりを包んでいた袋をそっと隠した。
それから数十分が経った。
「おい、誰か来たみたいだぞ」
高村君が小声で知らせると同時に、私達の間に緊張感が走る。茂みの中にそっと息を潜ませながら、そこに現れた人物の様子を窺う。
その人は灯の言ったように、ベンチに座り物思いにでも耽るように夜の月を眺めていた。
「あ、あの人?」
「はい」
かなり小声で話す。公園には私達以外にいないから、下手をすると聞こえてしまっているかもしれない。
ちら、と横顔が見えた。
背丈は少し高め、眼鏡を掛けており、顔には特に目立った特徴はない。
しかし、その顔には見覚えがあった。
「あーっ」
と、思わず叫んだ。
「そこに誰かいるのかい?」
勿論、気付かれた。彼は私達のいる茂みにゆっくりと向かってきた。両隣の高村君と灯が慌てている。
「灯、ここは任せたわ」
とっさに灯を茂みから押し出す。
「え、あ、ちょっと」
突然、茂みから飛び出してきた灯に驚きつつ、彼は灯に声を掛ける。
「どうかしたの?」
「あ、え、えっと……」
しどろもどろになりながらも、必死に言葉を繋ぐ灯。
どうやら会話は出来たらしい。
「おい、何してんだよ、お前」
ベンチ付近で会話を続けている灯達には聞こえないように、高村君が小声で話し掛けてきた。
「ええ、少し驚いてしまって」
「何に?」
「彼、知り合いだったのよ」
そう、私は彼を知っていた。
そして、彼と共にあの苦い思い出が蘇る。
眼鏡をかけた人物、一体だれなのでしょう?




