恋をしちゃったみたいなんです!
人の縁とは不思議なものだ。
先日、懐かしい人物に会った。
「彼」と共に、苦い思い出が蘇る。
今回、私が語るのは「彼」と「彼女」の物語。
そんな彼らの縁を結ぶのが私の役目だ。
五月終盤。そろそろ衣替えの季節である。
「美和子せんぱーいっ」
恋愛相談室の扉を勢いよく開け、ポニーテールを揺らしながら元気な少女が飛び込んできた。
「ちょっと落ち着きなさいよ、灯」
「あっ、はい、ごめんなさい。でも、美和子先輩にまた相談に乗って頂けるのが嬉くて!」
向日葵のような笑顔を向けているこの子の名前は、阿部灯。二年生でバレー部所属。素直で可愛い私の後輩だ。
「とりあえず座れよ。あ、俺も一緒で大丈夫か」
「はい、大丈夫です」
助手の高村君が灯を相談者の席に座らせる。
灯には以前、烏丸君の家庭裁判の時に協力してもらったことがあり、高村君とも顔なじみである。
「それで、相談内容は何かしら?」
「私、恋をしちゃったみたいなんです!」
灯は勢いよく椅子から身を乗り出す。一々動きがオーバーな子だ。まあ、そこが可愛いのだけれど。
「みたい?」
「あ、はい、何というか、私自身も恋がどういうものかよく分かってないんですよね……」
「まあ、その気持ちは分からないでもねえよ」
「あら、高村君。あなたには『これが恋なのか分からない。でもこの胸のトキメキはきっと多分、恋に違いないわ~』って悩む乙女の気持ちが分かるってことかしら。とても、そんな風には見えないけれど」
「おい、それどういう意味だ」
「鈍感ってことよ」
「俺だって妹の本棚にあった少女漫画を読んで、日々恋愛の勉強はしてるんだからな」
堂々とカミングアウトしてみせる高村君。
「……ちょっと、あなた妹の本棚覗いてる訳?」
「……高村先輩、それは有り得ないですよ」
二人してドン引いた。
「な、そんな目で俺を見るなよ」
誰のせいだと思っているのよ、全く……。
「まあ、高村君がシスコンなのは、いつものことだから放っておいて、と。さて、本題に入りましょうか。詳しい話をしてくれる?」
「はい、そうですね。ええっと……、何から話したらいいのかな。……えっと、その人との出会いは、私が美和子先輩の家の近くまでランニングに来た時で……」
「ちょっと待って。私の家の近くって、あなたどれだけ長距離をランニングしてるのよ」
私の家と灯の家は二十キロ程の距離がある。往復するとなると四十キロ。フルマラソンだ。いくらスポーツ少女にしたって無茶過ぎではないかしら。
「ああ、いえいえ、さすがに美和子先輩の家から私の家まで全部走ってる訳じゃないですよ。途中までは自転車です。美和子先輩の家の近くがちょうど良いランニングコースになってるんですよ。多分、往復で八キロくらいかな。いい運動になりますよ。あ、そうだ、今度、美和子先輩も一緒にどうですか?」
「え、遠慮しておくわ」
八キロなんて冗談じゃない。一キロでバテそうよ。
「白鳥には無理だって。こいつ体力無いから」
「わ、悪かったわね」
悔しいが反論できない。体育はペーパーテストで何とか点を取ってきた身だから。
「ランニングから話を戻しましょう。それで、その人とどんな風にして出会ったの?」
「えっと、出会ったっていうよりも、実はまだ話したことなくて……。最初にその人を見たのがランニングの時で、通りがかった公園の、って分かりますか?」
「ええ、私の家の近くのあの公園ね」
「ああ、あそこか」
作中に時々登場する、あの公園である。
「そこで座ってたんです。特に何かをする訳でもなく、ずっと座って何か物思いに耽ってる感じで。ほぼ毎日そこにいるんです。それで私も気になっちゃって……。シリアスな雰囲気? ノスタルジック? みたいな感じで何となく惹かれていって……。あ、でもやっぱり、こういうのって、ただ気になるだけでまだ恋じゃないかもしれませんよね」
まあ確かに、ただ気になるだけで恋と断定するのはまだ早いわね。
「そうね。まずは、その彼と話してみる必要があるわね。彼が現れるのはいつ?」
「私が帰る時間だから、夜の七時から八時の間くらいです」
「分かったわ。では早速、今日の夜から張り込み開始よ」
「彼」とは誰なのでしょうか?
今まで出て来たキャラクターの中にいますよー。




