死ぬ気で頑張れば
「それで、あなたは何処の大学志望なの?」
遠慮なしに聞いてくる白鳥。
「…………き、北川大学」
搾り出したようなか細い声で答えるおれ。
「えっ、北川大学⁉ って、私と同じ所じゃない」
「そうだよ、悪いかよ」
おれは恥ずかしさで、白鳥から顔を背ける。
絶対バカにされるよな。「高村君ごときの学力で私と同じ大学を受けるなんて笑っちゃうわね。無理よ、落ちたわね。私が学力アップ祈願をしてあげても無理ね」とか言われるに決まってる。
「何でそこにしようと思ったの?」
「えっと、それはまあ……、お前と一緒の所だからだよ。その方が色々と便利だし」
「えっ、それは……」
ん? 絶対にバカにされると思ってたんだけど、白鳥の反応が意外だぞ。心なしか顔が赤らんでいるような……、ああ、夕日のせいか。それで赤く見えるのか。
「どうしたんだよ?」
「ど、どうもしてないわよ? 無理に私に合わせなくてもいいのよ。あなたに合った大学を選んでくれて構わないのよ?」
「そりゃあまあ、おれには高過ぎるレベルかもしれないけどよ、挑戦はしてみようと思うんだよな。おれはお前の下僕だから、なるべく近いとこにいた方がいいだろ?」
「そ、そんなに重く捉えなくてもいいのよ?」
「一生、下僕になれって言ったのはお前だぜ、白鳥?」
「そ、そうだけど……」
白鳥が俯く。
何でこいつおれの言葉に一々動揺してんだ……。
「おーい、どうした、白鳥?」
俯いたままの白鳥に呼びかける。すると、ハッと何かを思い付いたかのように白鳥が顔を上げた。
「志望大学まで決まっているなら、別に悩む必要ないじゃない。進路希望調査に『第一志望 北川大学』って書けばいいじゃないの」
ピシッと俺を指差す白鳥。
「いや、この前の模試で北川大学の合格判定がEに下がっちゃったんだよ。どうせ北川って書いて出しても、先生に志望校変えろって言われそうだしな」
「E判定! ちょっと、あなたもっと頑張りなさいよ。私、北川はAかBしか取ったことないわよ。ちなみに、烏丸君は東大B判定よ!」
「そりゃ、すげえな!」
感心してる場合じゃなく、おれが勉強しろってことなんだよな……。勉強してるつもりだけどな……。
「おれとお前達との差って何なんだろうな……」
「元々の頭の出来」
「もうどうしようもねえ!」
酷過ぎるぜ……。
「でも、まだ日はあることだし、あなたが死ぬ気で頑張れば何とかなると思うわ」
「えっ、ホント?」
「まあ、この私が勉強を教えてあげてもいいけど?」
「マジか、助かるぜ、白鳥」
「みっちり指導してあげるから、覚悟しなさいよ」
「おう!」
いつもの白鳥に戻ったみたいだな。
「あ、もう一つ相談なんだけど」
「何よ?」
「希望大学の下に、大学卒業後に就きたい仕事を書く欄あるじゃん。あれも悩んでるんだよな」
子どもの頃の将来の夢はサッカー選手だったが、現在帰宅部、中学の頃は補欠だった奴がなれるはずもなく、まあそんなことはおれ自身が一番よく分っている訳で。かといって、白鳥の下僕と書いてしまうのも気が引ける。
「確かに、将来就きたい職業・下僕って、頭大丈夫かしらって疑うレベルよね」
「そりゃそうだ。って、心を読むな」
いつの間にか読まれてるもんだから、油断ならないぜ。
「下僕を良い感じに言い換えられないものかしら」
「執事とかどうよ?」
「もうセバスチャンがいるじゃない」
ランク上げはなしらしい。
「家来とか部下とか、下僕よりは響きいいけど、おれ的には下僕が一番しっくり来るんだよな」
「あなた、ドMなの?」
「そうかもしれねえな」
「そこは開き直らないで頂戴。……あ、なら私が探偵って書くから、あなたは探偵助手と書きなさい」
「は? 探偵?」
「何よ、将来の夢・探偵って何か格好良いじゃない」
色々ツッコミたい所はあるけれど。
「ま、いっか」
おれは白鳥に一生付いていくのだから。
後日談。
進路希望調査に「探偵」「探偵助手」と書いたおれ達二人は、仲良く職員室に呼び出しを食らったのであった。
めでたくねえ。
北川大学は英語に強い大学です。
頑張れ、高村君。




