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進路希望調査
「僕の前に道はない
僕の後ろに道は出来る」
じゃあ、おれの未来の道はどうすればいいんですか?
と、同じ苗字のよしみで詩人の高村光太郎さんに聞いてみる。勿論、答えは返って来ないし、自分で考えなくてはいけないことだとも、分かってはいる。
「はあ……。どうしよっかなあ……」
おれは未だ白紙の「進路希望調査」を見詰めながら、深い溜め息を吐いた。
五月半ば。おれは教室の隅っこの自分の席で、人生について思い悩んでいた。
「何、溜め息なんて吐いているのよ」
「ん、ああ。これだよ、これ」
おれの顔を覗き込んできた白鳥に、例の紙を差し出す。
「ああ、進路希望調査ね。そんなもの、ちゃちゃっと書けばいいじゃない。何をそんなに悩んでいるの?」
「色々あるんだよ、おれにだって」
机の上に突っ伏し、ふて寝の姿勢をとる。
「全く、らしくないわね。……次、移動教室よ。早く準備しなさいな」
そう言って、教科書の端で俺の頭を小突いた後、白鳥はスタスタと教室を出て行った。
「確かに、らしくねえな」
三年生の春、そろそろ真剣に進路を決めないといけません。




