お兄ちゃん
次の日の朝、僕と弟は白鳥さんの家を訪れていた。僕の手には、旅行かばんがある。
「この子は、そこに預かってもらうことにするよ。勿論、ちゃんと了承も得てる。それに、信頼できる所だよ」
「そう。賢明な判断ね。あなたには学校もあるし、それに今年は大学受験もあるしね。子守が忙しくて大学に落ちましたなんて、洒落にならないもの」
白鳥さんは眠そうな顔で言う。寝ていた所を僕が起こしてしまったのかもしれない。だとすると、申し訳ない。
どうでもいいが、逢坂君は東京で泊り込みらしい。高村君もまだ来ていない。
「それと、名前を決めたんだ。白鳥さんから勝手に一字頂いちゃったんだけど、いいかな?」
「構わないわよ。……何て名前なの?」
「和って名付けたんだ。……どうかな?」
「そう、良いと思うわよ」
和やかで平和な日々を送って欲しい、という願いを込めて……。
数時間後、僕と和は電車に揺られていた。窓から見える景色には、長閑な田園地帯が広がっている。
もうすぐ、僕の実家、祖母の家に着く。
目的の駅に着き、電車を降りる。
和と二人で、並んで歩く。
昔、よく散歩をしていた道。
あの頃は悶々と悩みながら歩いていた。
でも、今は穏やかな気持ちで歩いている。
僕の弟と手を繋ぎながら。
「ただいま」
家の奥から、懐かしい声が聞こえる。
その後、数日掛けて様々な手続きをした。幼稚園入学の手続きや養育費の工面などだ。祖母に代わって書類には全て目を通し、間違いが無いように、内容を全て理解した。家族のために、責任を持って。
名残惜しいが、一通りの手続きが終わると、僕は帰ることにした。
「またね、お兄ちゃん」
別れ際。和が言った、自分の口で。
一瞬、何とも言えないような気持ちに襲われる。
「……またね、和」
僕は笑顔を作って、こう返した。
少しだけ、高村君の気持ちが分かった気がした。
そして、家族に温かみに触れることが出来たような気がした。
そんな気がした。
烏丸君が願いを込めて付けた名前、白鳥さんから一字もらって「和」とても良いと思います。
これから烏丸君の精神状態も良くなっていくといいですね。




