僕の話を聞いて欲しいんだ
次の日。
僕は一日中、弟と一緒にいた。誰かの助けを借りることなく、二人だけで過ごした。
昼頃に、僕はある所に電話を掛けた。久しぶりに声を聞いた。懐かしい声、穏やかで優しい声。「新しい孫が出来た」と言ったら、それはもう驚いていたけど。
「僕の話を聞いて欲しいんだ」
寝る前、僕は弟と向き合って、こう言った。
「多分、君は僕の言ってることはよく分からないと思う。だけど、聞くだけ聞いて欲しい」
弟は無表情のまま、こくりと頷く。
「僕にはね、心が無いんだよ。人の気持ちが分からないんだ。だから、僕は君の考えてることもさっぱり分からないし、君のことも分かってあげられない。きっと愛情も注げないだろうし、ちゃんと育てることも出来ない」
僕は語る。僕自身のこと。両親のこと。兄のこと。大切な人のこと。嫌いな人のこと。今までの人生のこと。
弟は、途中で寝そうになりながらも、懸命に目を開けていようとしている。僕の話に耳を傾けてくれている。
延々と、思い付くままに語る。僕がどんな人間で、どのように生きてきたのかを。
君の兄、烏丸凛について、聞いて欲しいんだ。
僕が語り終える頃には、弟は眠っていた。
その愛らしい寝顔を見て、僕は囁く。
「君の名前を決めたよ」
烏丸君が電話をかけた相手は……。
烏丸君の嫌いな人は高村君ですね。




