ちょっと、出掛けようか
春休みの四日目。
午後六時頃、突然メールの着信音が鳴った。差出人の名前を見て、思わず笑みが零れる。メールの内容は若干意味が分からないものだったが、すぐに返信した。とりあえず指示に従うことにしよう。
「ちょっと、出掛けようか」
その言葉に「彼」は黙って頷いた。
三十分以上もかかってしまった。白鳥さんを待たせるなんて、したくはなかったのだけど「彼」を家に置いておくのも憚られた。だから、連れて来てしまった。「彼」を自転車の前カゴの中に入れ、自転車を押して歩いてきた。超安全運転で。
ショッピングセンターの駐輪場に自転車を止め、店内に入る。そしてエスカレーターで二階に昇る。後から来たメールによると、白鳥さんはフードコート付近にいるそうなので、そこに向かう。「彼」は僕の後ろに隠れるようにして付いて来ている。
遠目からフードコートが見えた。歩きながら、白鳥さんを探す。……発見。クレープを食べてるみたい。可愛いなあ。あれ、隣に誰かいる。誰だっけ、あいつ。……あ、高村君か。そういえば、一緒にいるんだった。何かデートしているように見えなくもないし。邪魔だなあ、本当に邪魔だなあ。死なないかな、高村君。
さすがに、それは冗談だけど。こんな感じでいいんだよね、明るく語るのって。
「白鳥さん」
と、彼女達がいるテーブルの傍まで行き、声を掛ける。
「あら、烏丸君。意外と遅か……」
白鳥さんの言葉が止まる。彼女の視線の先には、僕の後ろに隠れている「彼」の姿があった。
幼稚園児くらいの小さな男の子の姿が、そこにあった。
「あ、この子? 僕の新しい家族だけど」
我ながら、さらりと、本当にさらりと言った。
「え?」
「は?」
表情が固まる白鳥さん、と高村君。
「って、嘘っ⁉ え、でも、それは……」
混乱する白鳥さんも可愛い。
「え、マ、マジかよ。お前が産ん……って、んな訳ねえ」
高村君は、うざったいけど。
「そう、そんな訳はない。……この子はさ、僕の弟だよ。つまり、烏丸家三男。ちなみに三歳」
落ち着いた口調で言ってはいるけれど、僕自身もまだ事実を受け入れ切れていない。これを知ったのは、ほんの数時間前のことだ。「彼」を「この子」や「僕の弟」と呼ぶのに、抵抗やためらいを感じている。
「お、弟っ⁉」
「ちょっと、何、大声出してるのよ。また怒られるわよ」
驚きを隠し切れない高村君を、白鳥さんが咎める。また怒られる? 僕が来る前に何があったのだろうか。
「烏丸君、場所を移しましょう」
「そうだね。あまり騒がれて目立っても困るし、詳しい事をこんなオープンな場所で話す気もないからね」
何処で誰が聞いているか、分からないのだから。
烏丸君に弟が!?
どういうことなのでしょう……。




