ただ雑草のように
「ねえ、双葉。本当に、本っ当に高村君が好きなの? 顔も成績も運動も平均点、少し料理が上手なだけで、他に何の取り柄もない男よ? ただの下僕男子なのよ? そんな男を好きになるなんて、気の迷いよね? それに、双葉にはもっと相応しい相手がいるわ、絶対。例えば、そうバスケ部の麻生君とか。一年前の双葉は麻生君にメロメロだったじゃない。今こそ、その時の情熱を取り戻す時だ、って私のタロットも言っていたわ」
次の日の朝。登校するとすぐに、私は双葉を女子トイレの個室に連れ込み、こう一気に捲し立てた。ちなみにタロットのお告げというのは嘘だ。
「ちょっと、落ち着いてよ、美和ちゃん」
双葉が私の肩に手をおいて、なだめようとする。
「それよりも、私のタロットによると……」
「一旦、タロットの話は置いて、私の話を聞いて欲しいんだ。いいよね?」
私とは反対に、妙に落ち着き払った様子の双葉。そんな彼女の言葉に、私は自然と頷いていた。
「あのね、美和ちゃん。私は本当に高村君が好きだよ、気の迷いでも何でもなく。高村君には高村君の魅力があるんだよ。確かに彼は特別優れているって訳じゃない。でもね、彼がいるとなんとなく安心するんだ。なんて言うのかな? ただ雑草のように、ずっとそこにいる安心感って感じかな。上手くは言えないけれど、私はそんな高村君を好きになっちゃったんだよ」
穏やかな口調で幸せそうに話す双葉。気の迷いなんかじゃない、本物だ。本物の恋心だ。
だったら、私が邪魔出来る訳がない。下僕を取るか、友人を取るか。そんな二択、悩むまでもなかった。答えは明らかじゃないか。
「分かったわ、双葉の気持ちが本物だってこと。……だったら、いつも通り私が全力でサポートするわ、たとえ相手が高村君であっても」
「ありがと、美和ちゃん。……それじゃ早速、高村君ってバレンタインに何貰ったら一番喜ぶかな? ビター派? それともスイート派? トリュフ派? それともフォンダンショコラ?」
「彼は特にこだわりもないようだし、本命チョコなら何貰っても喜ぶと思うわ」
去年のバレンタインでは「妹からのチョコが宝物だぜ」と負け惜しみを言っていた。
「う~ん、だったら分かりやすいように、大っきなハートのチョコケーキにしよっ」
「そうね、良いと思うわ。彼は鈍感だからストレートな方が効果的よ」
こんなアドバイスまでして、双葉に協力すると決めたのに……。それなのに、何故か胸がもやもやする。
「雑草のよう」って褒め言葉なんですかね……??




