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白鳥さんの黒歴史  作者: 夢水四季
高村君の憂鬱
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シスコンで何が悪い



 烏丸の部屋は、おれの予想通りだった。




 机とベッドとテレビ、あとは制服やカバンなどの学校関係のものしかない。それ以外は何もない。ゲームもマンガもプラモもない、本はあっても全て教科書類だ。




「つまらない部屋でしょ。僕、趣味とかないからさ」




すっきりとし過ぎていて、男子高校生の部屋としては、かなり異常だった。




「そこら辺に適当に座ってよ。楽にしてとは言わないけれど」




「ああ、分かった」




 正座した。結局は、正座も土下座もすることになってしまった。だが、この話は正座で話した方が良い。




「あれ、正座? 本当に改まっちゃって……」




「ああ。おれは今、江戸城無血開城の交渉に臨む勝海舟の気分だぜ」




「じゃあ僕は西郷隆盛になるのかな。まあ、そんなことはどうでもいいんだけど。……それよりも、さっさと本題に入ってくれるかな。ここまで来るのに長過ぎる」




 ……だよな。烏丸の家に入ってから座るまでに、どれだけかけてんだって話だ。




「じゃあ、本題に入るぞ……」




 本題っていうのは、おれが烏丸に向かって叫んでいた理由だ。悩みの原因についてである。その悩みについて談判というか相談に来たのだ。




どう切り出すか迷うが、順を追って話していこう。




「お前ってさ、モテるじゃん?」




「は?」




 予想外の切り口に烏丸はきょとんとする。




「ほら、お前ってさ、イケメンじゃん、老若男女にモッテモテじゃん。白鳥のとこに恋愛相談に来る女子の約四割がお前狙いだし、古典の山本先生(多分六十代、女性)も数学の木村先生(多分五十代後半、女性)と、職員室でこの前『烏丸君がイケメン過ぎて辛い』とか言ってたし、それにそれに、同じクラスの野宮(男)だってお前に告白してただろ、やんわり断ったらしいけどさ。いやあ、ホント羨ましい限りだぜ」




 早口で烏丸のモテ伝説を語るおれ。




「……うちの学校がこんなのなら、生徒会長として何かしらの改革をしたい所なのだけれど。で、何? 君は僕がモテることを褒めたい訳じゃないだろう」




 もちろん、そんなことはない。




 おれはマジメな顔と低い声のトーンで、こう言った。




「それで、お前の許容範囲は何歳からだ?」




「許容範囲……、って、何の?」




 烏丸は話の流れが掴めていないようだ。まあ、おれの話に流れも何もあったものじゃないのだが。




「だーかーらー、お前の恋愛対象は何歳からだってことだよ。小学生も全然OKなんて言ったら、ぶん殴る」




「いきなり何を言い出すのかと思えば、話の脈絡ってものを完全に無視してたね、高村君は。……始めに言っておくけど、僕はロリコンじゃないよ。それに恋愛対象も何も、僕の思い人はただ一人だけだよ。はっきりいって、他はどうでもいい」




「本当だな?」




「一応そういうことにしてるんだけど。人を好きになる、恋をするってことがよく分からないからね。……でもまあ、もし恋をするなら、白鳥さん以外は有り得ない」




 これを野宮達、烏丸に恋しちゃった奴らが聞いたら泣くぞ。でも、こういう台詞ってイケメンが言うからカッコいいんだよな。おれが言ったら非難殺到だもん。




「その言葉が聞けたなら安心だ。じゃあ、本当に今から本題に入るぞ」




「えっ、まだ本題に入ってなかったの⁉」




「うん」




「君さあ、話をまとめるの下手でしょ。語り部とかには絶対向いてないよ」




 さらりと。この物語の根本に関わる問題を言いやがった。これ以上そこに触れるのは危険なのでスルーしよう。




「今回、おれはお前に相談があって来たんだよ。おれの妹の恵美がさー、お前のこと好きなんだってー」




「ふーん、そうなんだ」




 妹の恋心をこんなにフランクにバラしている、最低な兄の姿がここにあった。




 補足説明をすると……。おれの妹の恵美、高村家の末っ子で小二が、烏丸凛、烏丸家次男で高二に恋をした。年の差、約九歳。以下、その経緯。数ヶ月前に烏丸が向かいのマンションに引っ越して来た。ある事情により、一人暮らしである。コンビ二弁当やらレトルト食品やらと、ロクなものを食ってなさそうだったので、時々おれの家に招いて夕食を一緒に食べた。烏丸は表向きだけは優しいので、優(次男)も勝也(三男)も、もちろん恵美も懐いた。おまけに、おれの両親にも好印象。それで、優しくてイケメンな「凛お兄さん」に恵美は恋しちゃった、という訳。




「で、恵美の気持ちを自然と他のものに向けさせるにはどうしたらいいと思う?」 




 おれの問いに烏丸は即答だった。




「じゃあ、僕が恵美ちゃんをバッサリと振るってのはどう? 高村君の妹だし、別に良いよね」




「良くねえよ。おれのことはいくらぞんざいに扱っても構わないけど、家族には手を出すな! 自然とって言っただろ、恵美を傷付けるのはダメだ」




「他の子を好きになってもらうのは? 同じクラスの男子とか」




「小二の男子にロクな奴はいねえ」




「それは、とんだ偏見だね。いや、とんだシスコンというべきだね」




「シスコンで何が悪い」




「開き直るな。……思うんだけどさ、高村君は恵美ちゃんが本気で僕に恋をしてると思ってるようだけど、それがそもそもの間違いじゃないのかな。ほら、アイドルを見て『カッコいい』というのと同じレベルだよ。それに、恵美ちゃんにとって、僕は単なる『イケメンで優しい近所のお兄さん』であって、決して『恋の相手』ではないんだと思うよ」




 それは客観的な、至極もっともな意見であった。




「そう言われれば、そうかもな……」




 おれが勝手に考え込んでいただけだったのだろう。




「ま、僕には本当にどうでもいいことなんだけどね。誰が僕に恋しようが、本当にどうでもいい。何故、僕のことを好きになるのか理解出来ない。人の気持ちが分からない。心が無いから当然だよね」




 さらりと、本当にさらりと言ってくれる。




「……あのさ、そういうのあんまり軽く言わない方が良いと思う」




 烏丸の「心が無い」という告白は以前、重い過去と共に聞いている。告白を聞いた後も一悶着あったけど、結果的には烏丸を救えたはずだと思っていた。秘密を知っているおれや白鳥、薫の前では毒舌も言えるようにはなったけれども、問題が全て綺麗に解決した訳ではない。




「人間はそう簡単には変われない」と白鳥が言っていた。




 その通りで、烏丸は根本的に変わってはいない。烏丸を取り巻く環境が変わっただけで、烏丸自身はほとんど変わってはいないのだ。




 でも、いつか烏丸が心から笑える日が来ればいいな、と思っている。








 後日談。




 その日の夜、悪夢を見た。




 恵美が彼氏を家に連れて来たという最悪な夢だ。しかも、その彼氏がイラっと来るくらいチャラかった。「お兄ちゃんは、そんな男認めねーよ!」と叫んだ所で目が覚めた。




 

その後、恵美と烏丸君は、程よい距離感で接しています。

結局、烏丸君への気持ちは恋ではありませんでした。

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