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白鳥さんの黒歴史  作者: 夢水四季
白鳥さんの愉快な日常  白鳥さんと紅葉狩り
178/221

君は何て書いたんだい?



 約一時間後。




 おれは旅館だった部屋の一室で、便せんとにらめっこしていた。




「高村君、手紙書けた?」




 烏丸がおれの手元を覗き込んできた。こいつと薫は、もうとっくに手紙を書き終えている。




「ちょ、見るなって。まだ途中だし……」




 おれは書きかけの手紙に覆い被さる。




「人に見られると困ることでも書いてあるのかい?」




「そういう訳でもないけど……」




「あ、そう。まあいいや、どうせ君のことだから、本当にどうでもいいことしか書いてないだろうし」




 烏丸はおれから離れると、今度は薫に聞いた。




「じゃあ、逢坂君。君は何て書いたんだい?」




 薫は読んでいた本「吾輩は猫である」から目を離す。




「わいかて当たり障りのないことしか書いてへんよ。それに、読むんは十年後のお楽しみやろ?」




 そして、またすぐに本に視線を戻す。




「そういうお前はどうなんだよ、烏丸?」




 おれの方に向き直った烏丸は、輝くような王子スマイルを作って言った。




「ひたすら暗いことしか書いてないよ。それでも読みたいの?」




 ただ、その表情に合う声のトーンではない。暗く冷たい、人に圧力を感じさせる声だった。




「……い、いや別に」




「賢明な判断だね、高村君。あんな遺書みたいな手紙、読んだら自殺したくなっちゃうしね」




「それは笑えない冗談だな……」




 マジで笑えないぞ、烏丸。数ヶ月前、自殺しようとしてた奴が言っても冗談に聞こえない。




「ま、手紙なんてそんなに思い悩むことでもないでしょ。自分の思うように、ちゃちゃっと書きなよ。……じゃあ、君に付き合っているのも時間の無駄だし、そろそろ僕は部屋に戻って寝るよ」




「なら、わいも部屋に帰るわ。秀も一人の方が集中できるやろし」 




 薫は自分の部屋に帰るだけだが、烏丸の言う部屋とは隣の部屋のことだ。おれと烏丸の寝室用として与えられた部屋で、夕食後に見てみると布団が二つ並べてあった。




「ま、実をいうと、高村君にはこの部屋で徹夜して欲しいんだよ。君と枕を並べて寝るなんて気持ち悪いから」




「うわ、ヒドい言われ様。修学旅行の時、お前おれの隣で寝てたよな? 一緒に枕投げをした仲だろ、おれ達」




「ああ、あの頃は猫被ってたからね、僕。仕方なくだよ」




「そうかよ、だったらサッサと寝ちまえ」




「じゃあ、お休み~」







 烏丸と薫が出て行ってから、しばらく経った。




「何で、書けねえんだよ、おれ~」




 このままだと、本当に徹夜しそうな勢いだ。




「あいつらは一時間も経たない内に書き終えたのに」




 十年後の自分を考えれば考えるほど、分からなくなってくる。白鳥や烏丸の言ったことも気になって、十年後が不安になるのだ。




締め切り直前なのに、スランプに陥ってしまった作家の気分……。




「十年後、おれ達はどうしてんのかな?」

烏丸君の遺書のような手紙は太宰治の「人間失格」みたいな感じだと思ってもらえれば……。

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