暗く陰鬱なものであります。
時には、昔の話をしましょうか。
こう唐突に始めてみたものの、どのように語れば良いのか、まるで検討が付きません。
そもそも、なぜ僕がこんなことをしているのかといえば、彼女に言われたからなのです。
「自分の思っていることを言葉にしてみたらどうかしら。そうしたら、何かが見えてくるかもしれないわ」と。
こんなことをしても、何も変わらないとは思います。
しかし、彼女の言葉を無視する訳にもいきません。
彼女は僕にとって、絶対的な存在であります。僕を救ってくれた、女神のような存在であります。気高く、美しく、尊ぶべき方なのです。彼女を賞賛すれば切りがありません。
彼女について語りたい気持ちは山々ですが、そうも行きません。其方の方がどんなにか楽でしょうが、今回は敢えて止めておきます。
今回、僕が語るのは自身の事です。醜く、汚らわしい、偽りだらけの僕自身の事です。
ただ誰の目に触れるかも分かりませんので、僕自身も含め一部、名前をぼかさせて頂きます。他人行儀な敬語で語ることにもご了承下さい。
僕は童話のような夢物語は勿論のこと、彼女達がいつも語っているような明るく愉快な話をすることは出来ません。
僕が今から語る話は、暗く陰鬱なものであります。
この章は「彼」の回想録であります。
太宰治の「人間失格」を意識しました。




