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白鳥さんの黒歴史  作者: 夢水四季
あの空に捧げる回想録
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今日は気分が良いのよ。

「なあ、白鳥。前々から気になってたんだけど、この変なぬいぐるみ、何かのキャラクター? 魔法使いの帽子を被ったお化け……。まあ、お前らしいっちゃ、らしいけど。おまけに眼鏡まで掛けてるし」


 私の下僕、高村君が、棚の上に飾ってある「心霊君」ぬいぐるみを見て言う。


「ああ、それ。前にセバスチャンに作って貰ったのよ。何かのキャラクターじゃなくて、オリジナルよ。ゆる可愛いでしょう?」


 デザイン、鷲羽真琴。


「ゆる可愛いって何だよ。……あっ、この眼鏡よく見ると、レンズ割れてテープで補修してんじゃねえか。それにフレームも曲がってるし……」


「どっかのバカ超能力者が曲げたんじゃない?」


「はあ? 何でいきなり超能力が出て来んだよ。これは多分、あれだな。ドッジで顔面直撃したんだな」


 勝手な推測をしているようだけど、はずれよ。


「それよりも、僕はこの眼鏡が誰の物なのかが気になるんだけどね」


 ここに来て、烏丸君の登場である。


「……さあ、誰のでしょうね」


 私は悪戯っぽく笑ってみせた。


 烏丸君が頭を抱えて、ぶつぶつ呟いている。


 彼も変わった。少なくとも、目に見える範囲は。


「……烏丸君」


 少しして烏丸君を呼んでみる。


「ん? 何、白鳥さん」


「いえ、ちょっとね。……あなたが昔の知り合いに少し似ているなあと思っただけよ」


「む、昔の知り合いって誰っ⁉」


「さあ、誰でしょうね」


「もしかして、いや、それは……」


 烏丸君が、更に深く頭を抱え思い悩む。


 正しくは、思い悩む振り。


 多分、彼は心の奥では何とも思っていない。


 彼の秘密、複雑な事情を暴いてしまったのが、私と高村君である。私達と関わったことで、多少の心境の変化はあったでしょうけれど、まだまだリハビリが必要なのだ。人はすぐには変われないから。


 実際、烏丸君と鷲羽先輩はそんなに似ていない。


 顔も性格も仕草も話し方も、丸っきり似ていない。


 ただ、成績優秀、家庭の不和、それに嘘を吐くのが上手い。これらが重なっていた。


 彼の事情を知った時、助けようと思った。


 たとえ、烏丸君が望んでいなくても。


「大丈夫よ、烏丸君。あなたが想像しているような人ではないから」


 まだ唸っている烏丸君に声を掛ける。


 鷲羽真琴は、ただの先輩だ。


「そう。それなら良かった」


 烏丸君が安堵の表情を浮かべる。


 彼は今こうして、私の隣にいてくれている。


 今度は失敗しなかった。




 鷲羽先輩と烏丸君では決定的に違うことがあった。


 それは楽観的であったか、そうでないかだ。


 先輩はいつも、へらへら笑っていて、たまに心から楽しそうに笑うことがあった。対する烏丸君に、それはない。作り笑いはプロ級。嘘を吐き続けながら生きるのに疲れて、自殺を図ったほどだ。


 それに、先輩は人間が好きだが、烏丸君は人間が嫌いなのだ。先輩は世の中には様々な人間がいて面白い。烏丸君は自分を理解してくれる人なんていないから、世界も人間も嫌い。


 烏丸君も先輩みたいな考えが出来たのなら良かったのにと思うが、それは無理だ。それこそ、どうしようもない。烏丸君は、それを受け入れて生きて行かなければならないのだ。




 先輩も橘君も私も、今は別々の道を歩んでいる。


 いつか道が交わるかもしれない。


 その時がいつか来ることを信じて……。




「散歩に行くわよ」


「フィールドワークはどうしたよ?」


「その前に行くのよ」


「行きたくないなら、高村君は来なくていいよ。むしろ来るな」


「いやいや、行くけどさ。……本当、白鳥お前っていつもいきなりだよな」


「今日は気分が良いのよ。ケーキでも買って祝いたいくらいに」


 誰かの誕生日でもないのに、不思議だ。


 もしかしたら、空が綺麗だからかもしれない。



鷲羽先輩と烏丸君は似ているようで違いますよね。

鷲羽先輩は「へらへら」笑い、烏丸君は「ニコニコ(嘘)」笑います。

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