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白鳥さんの黒歴史  作者: 夢水四季
あの空に捧げる回想録
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僕達の声が聞こえていますか?

学校に着いた。


夜の学校に忍び込んだのは何回かある。今回も簡単に侵入出来てしまった。そろそろ本格的に防犯に気を配るようになって欲しい。


僕達は小グラウンドに向かった。前、先輩がミステリーサークルを描いたのは大グラウンドだが、そっちは卒業式に出席する保護者の駐車場として整備されていて使えなかった。


 僕と白鳥さんとセバスチャンさんで手分けして、図面通りに魔方陣を描いていく。前よりもサイズが小さく、セバスチャンさんが驚く程の速さで作業を進めていたので、思ったよりも早く完成した。


「卒業おめでとう」という文字も横に添えておいた。


「これで、私達がやったとバレても『卒業祝いです』と言えば大目に見てもらえるわ。……それに、もう内申書の心配は要らないしね」


 内申書はもう高校に出してしまったから。僕が緑ヶ丘を目指してると分かって、配慮してくれたのだろう。


「ねえ、橘君。魔法も超能力もあるのよ」


 それは強がりで言ったのかもしれない。


 でも、魔法や超能力が存在しないという絶対的な証明だって、まだされていないのである。


 駄目で元々、でも僕は奇跡を信じたい。




 白鳥さんは黒いローブを被り、魔方陣の中心に座った。


「私が一人でやるから、橘君は見ていて」


「ううん、僕も一緒にやるよ。僕だって先輩に言いたいことは沢山あるんだから」


「好きになさい」


 白鳥さんの隣に座る。地面に直接座るんじゃなくて、シートの上に。三月でまだ肌寒いというのに、足元が何故か暖かかったのは、カイロがシートの隙間に敷き詰められていたからだ。ちゃっかりしてるなと思って、笑みが零れる。


「何、笑っているの。さっさと始めるわよ」


 白鳥さんが目を閉じ、手を組み合わせる。


 僕も同じ様にした。


 先輩はテレパシーを送る時、変な唸り声を上げていたが、白鳥さんは何も言わない。ただ静かに祈っていた。




 先輩、鷲羽真琴先輩……。


 


 テレパシーの送り方なんて知らない。


 とにかく、先輩を思い浮かべて心の中で話し掛ける。




 あなたは一体、今どこで何をしているんですか?


 僕達の声が聞こえていますか?


 


 聞きたいことも伝えたいことも沢山ある。




 何で、一人で行ってしまったのですか?


 何で、家のこと教えてくれなかったんですか?


 僕達じゃ力不足なんですか?




 あなたには色々と巻き込まれたけど、結局は楽しかったです。


 このまま、時間が止まれと思ったこともあります。


 でも、そんなことは叶わなくて、あなたは知らない所に行ってしまいました。


 本当は辛いのに、へらへらと笑っていたあなた。


 僕達だって、あなたの辛さをどうにかすることは出来ます。


 受け入れたくない現実を無理に一人で背負い込むことなんてないです。


 時には逃げてもいいじゃないですか。


 夜逃げじゃなくて、僕達の所に逃げて来て欲しかった。


 


 あなたに感謝していることもあります。


 僕はあなたと白鳥さんの前では、ありのままの自分でいられた気がします。


 ……本当に有難うごさいました。





 どれくらい経っただろうか。


 エンジン音がして、先生が学校に来たことが分かった。


「……終わりね」


 白鳥さんの声が聞こえ、僕は目を開けた。


「もう終わり。今度こそ本当に心霊研究会は解散よ」


 冷たい現実を突き付けられる。


 駄目だったのだ。奇跡は起きなかった。


「ねえ、橘君。もう、あのド阿呆超能力者のことなんて、とっとと忘れてしまいましょう。お互いに、前に進んで新しい出会いを待ちましょう」


 きっと今、白鳥さんは泣きそうな顔をしているんだろうな。泣くのを必死で堪えて、強がっているのだ。


「……もう、私とあなたが会うこともやめましょう。もし、偶然どこかで会ってしまっても他人の振りをしましょう」


「……無理に強がらなくてもいいよ。僕達もたまには会って良いと思うよ」


 近所に住んでいるし、お互いの家も知っているから。


「つ、強がってなんかないわよっ! それに……」


 白鳥さんは少し考え込んだ。


「えっと、だったら、条件を満たしたら会っても良いことにするわ。……私には下僕兼使い魔が出来たら。これはすぐに達成出来そうね。あなたには本当の友達が出来たら。……これでどう?」


「……うん、いいよ」


 少し、長くかかるかもしれないと思った。


「それと、セバスチャン。あなたは解雇よ。近い内に荷物をまとめて、イギリスに帰りなさい。……私なら心配いらないわ。一人で生きて行かなければならないもの。強くなりたいのよ。あなたは万能過ぎるから、私はつい甘えてしまうの。だから、あまり有能そうでないけれど、それなりに扱き使えそうな下僕を見付けるわ」


「……承知しました」


 セバスチャンさんは何かを悟ったように言った。


 ……ああ、もうこれで全て終わったんだ。



あまり有能そうでないけれど、こき使えそうな下僕、見つかりましたね。

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