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白鳥さんの黒歴史  作者: 夢水四季
あの空に捧げる回想録
155/228

あまり私を見くびってくれるな

 ある日の昼休み。


 先輩が放送で呼び出しを食らっていた。


「三年二組の鷲羽真琴君。至急、職員室へ来なさい」


 この放送を聞いた時は、また何かやらかしたのかと思っていた。先輩は、成績は学年トップ、見た目だけなら真面目そうな顔をしているのに、行動が滅茶苦茶なのだ。


 グラウンドに自作のミステリーサークルを描いてみたり、宇宙人との交信をしようと屋上で念を送ってみたり、悟りの境地を開くとか言って突然瞑想を始めたりと、上げたらきりがない。本人は実に楽しそうにやっている。


 とにかく、常人の考えの斜め上を突っ走る変人である。




「どうしたんですか、その怪我!」


 先輩は左頬を大きなガーゼで覆い、右目に眼帯を付け、その上に眼鏡を掛けた姿で現れた。痛々しい。


「誰かとケンカでもしたの?」


 この怪我の具合からして、誰かに殴られたと思われる。


「ああ、これか。説明するとだな……」


 先輩の話はこうだ。


 昨日、学校から帰る途中で、中学生が高校生にカツアゲされている現場を見てしまった先輩は、その中学生を助けようと思い中に割って入った。それでケンカになって怪我を負ったとのことだ。


「それで、ボコボコにされたって訳ね」


「いや、どちらかといえば、私の方が優勢だった。高校生は二人いたが、私も負けていなかった。相手に渾身の蹴りを食らわせてやったら逃げていったぞ」


 見た目だけなら大人と大差ないが、先輩はまだ中学生である。高校生相手に本当に優勢だったのか。


「意外ですよね。先輩がケンカ強いなんて」


「勉強は出来るけど運動はダメそうなのにね」


 実際、先輩は運動神経が良い。体育祭のリレーの選手にも選ばれていたし、借り物競争ではブッチ切りだった。


「あまり私を見くびってくれるな」


 勉強も運動も出来る、顔だって多少大人びているだけで別に悪くはない、むしろ良い。これで、あの性格じゃなければ絶対にモテるのに。残念だ。


「でも、眼帯って素敵よね。何か発動させそう」


「何、馬鹿な事を言っておるのだ。これを取った所で青痣が出てくるだけだ」


「青痣、痛そうね……」


「それで呼び出し食らって、事情聴取ですか」


「ああ。青春していた、と言っておいた。場所も河川敷で丁度良かったからな」


「……どこの漫画の青春ですか」


「しかし一つ残念だったのが、カツアゲされていた中学生が私を身代わりに逃げたことだ。二人で協力して撃退しようと思ったのに。夕日を見ながら『やるじゃないか』『お前もな』ごっこをしたかったのに」


 かなりベタだけど、青春といえば青春。


「僕だったら逃げますね。高校生相手にケンカしようなんて馬鹿げてる。怪我なんてしたくないですし」


 橘君はケンカも弱そうよね。


「相変わらず冷めてるわね、橘君。……それで、その高校生と中学生の顔は覚えているの?」


「実はあまり良く覚えておらん。中学生はすぐに逃げて行ったが、あの辺りならウチか青山西の生徒だろう。高校生の方は……。どの高校がどの制服なんて知らんからな、何処の高校かも分からん。しかも、眼鏡を真っ先に割られてしまい、顔を覚える時間もなかった。ちなみに今掛けている眼鏡はスペアだぞ」


「ってことは、あなた、その状態でケンカしていたの?」


 先輩は目が悪い。眼鏡を取ると視界がぼやける、と前に言っていた。


「ああ。でも輪郭は分かるから、それ目掛けて蹴りを食らわせれば良い」


「……ある意味凄いわよ、その根性」


「彼らは金目的でカツアゲをしていただろうから、私は財布だけは死守しようと必死だったのだ」


「自分の身をもっと大切にして下さい!」


 先輩は家庭の事情もあり、貧乏性なのだ。


「それにしても、今時カツアゲなんて、ねえ」


「しかもウチの校区で、珍しいよね」


 犯罪発生率は極端に低いのに。


「まあ、そんなこともあるだろうさ」


 自分が当事者であるのに、楽観的である。


「……先輩、そんな時期に大丈夫なんですか。……受験生だし」


 内申書のことを心配しているらしい。


「私はカツアゲを止めようとしたのだぞ。逆に褒めてもらいたいくらいだ」


「高校生を蹴ったくせに」


「それに、色々問題行為を起こしてますよね」


「君達もな」


「うっ」


 その通りである。計画を練るのは主に先輩だが、ほとんどの活動に私と橘君も加わっている。


「私は現在、無遅刻無欠席、もうすぐ皆勤だ。成績だって申し分ない。おそらく先生方もそこは考慮して下さる。内申書は大丈夫だろう」


 先輩は普段の生活は至って真面目なのだ。


「それに筆記試験なんて余裕そうですしね」


 何しろ、不動の学年トップだから。


「そういえば志望校は何処なの? あなたの成績なら緑ヶ丘も余裕かもしれないわ」


 緑ヶ丘高校は、県内でも上の方の学校だ。ここからなら少し遠いけど、先輩にとってはベストではないか。


「ああ、言っておらなんだか。……私は県外受験をする予定だ。母君が実家の青森に帰ることになり、高校もそっちで通うことになった。卒業したら引っ越す」


「……そうなんですか」


「……もうあなたも卒業なのね」


 もう卒業なのかと思うと、少し、本当に少しだけ寂しいような気がした。




 先輩の数々の問題行動に巻き込まれながらも、私が心霊研究会を辞めなかったのは、結局は彼らといるのが楽しかったからだと思う。


 きっと、それは橘君も先輩も同じだったはずだ。

鷲羽先輩は運動神経もよく、喧嘩も意外と強いです。

告白されたことはあるそうですが、全て断わっています。

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