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白鳥さんの黒歴史  作者: 夢水四季
あの空に捧げる回想録
148/222

薬師如来の仏像(レプリカ)だ!

「では、撮りますよ」


 カシャッ、とセバスチャンがシャッターを切る。


 旅の記念写真だ。


 橘君はピースまでしている。


「……橘君、テンション高過ぎよね」


「ああ、そうだな」


 いつもの橘君を知っている者なら引いてしまう程だ。


「いつもはどんな感じなん?」


 薫は橘君とは今日が初対面だ。


「あれの逆」


「基本は冷めているからな、橘後輩は」


 私と先輩は、はしゃいでいる橘君を苦笑いしながら見ていた。


「あっ、薬師如来の仏像(レプリカ)だ!」


 橘君がお土産屋で何か見付けたらしい。


「ねえ、如来と菩薩の違いって何?」


「えっと、悟りを開いたんが如来、悟りを開く修行中なんが菩薩やったかな」


「……ふーん」


 私は仏像にはさほど興味がない。


 橘君は仏像の何処に惹かれたのかしら……。


「ねえ、橘君。あなたは何故、仏像が好きなの?」


 私は橘君の傍に寄って質問してみた。


「何となくだよ。……好きになるのに、明確な理由なんて必要無いと思うよ」


 普段の橘君が絶対に言わないであろう、少しイイ感じの台詞を聞くことになってしまった。


「…………」


 橘君は、商品が並べられたショーケースの中の薬師如来像を物欲しそうにジーッと見詰めていた。小さく縮小された薬師如来像(のレプリカ)、お値段ウン万円。


「……欲しいの?」


「うん。でも、高いし……」


 そこら辺の中学生のお小遣いで買える額ではない。


「あなたが土下座で頼むなら、買ってあげないこともないわよ?」


「私めに、この仏像を買って下さいまし」


 土下座された。即断即決で、遠慮もなく。


 まさか、本当にするなんて思わなかった。


「……え、あ、ちょっと。顔を上げなさいよ。私の方が恥ずかしいじゃないの」


 店員と他の客が怪訝な顔で私達を見ている。


 ……駄目だ。今日の橘君はテンションが変な方向に行ってしまっている。


「何か土下座しとるで。大丈夫なん、宇宙」


「……橘後輩よ。君にはプライドがないのかね」


 少し離れた所で、先輩が呆れた声で呟いた。




「まさか、本当に土下座するなんて思わなかったわ」


 レストランで昼食を取りながら、私は橘君に文句を言っていた。


「ご、ごめん。……でも、本当にこんな高いもの買って貰って良いのかなあ。何か悪いね」


「即行で土下座してたくせに」


「ま、まあ。ちいとわいの話を聞いてぇな。……ここいらは昔、何だったと思う?」


「平安京か」 


 薫の問いに先輩が間髪を入れずに答える。


「そや。日本の歴史の中でも平和な平安時代に都が置かれていた場所や。貴族は和歌を詠んだりして、気楽なもんやで。わいの好きな『源氏物語』が書かれたんもこの時代や。……で、君らは心霊研究会やろ。夜の平安京はな、百鬼夜行が横行し魑魅魍魎が跋扈してたんやと。陰陽師が正式に雇われていたんやで」


「百鬼夜行?」


 橘君が首を傾げる。


「あなた、鬼太郎みたいな髪型しているくせに、百鬼夜行も知らないのね」


「そうだ、勉強が足りんぞ、橘後輩。百鬼夜行とは、多くの妖怪が練り歩くことだ。……此の際に言ってしまうが、君は前髪が長過ぎではないかね。それでは、鬼太郎と言われても文句は言えまいよ。そろそろ切ったらどうだ。視界が良好になるぞ」


 今まであまり言及はしなかったけれど。


「あなたって、隠された眼を開眼すると何かの力を発動させるキャラに似てるわね、髪形だけ」


「……力は発動しないし、髪もまだ切らない」


 一瞬、いつもの橘君に戻った。




 旅行は楽しいものだった、ある一時を除いては。


「これを見ると、嫌でも現実を突き付けられるわね」


「白鳥家之墓」と彫られた、真新しい墓石。


 ここに私の父と母は眠っている。


「……あなたまで来ること、なかったのに」


 薫の切なそうな表情を見て、私は言った。




 現実を見ろ、それを受け入れろと彼は言った。


 その言葉は、自分自身にも言い聞かせた言葉だったのかもしれないと、後になって思う。


 今更分かっても、もうどうにもならないけれど。



仏像欲しさに即行で土下座する宇宙君です。

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