表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白鳥さんの黒歴史  作者: 夢水四季
あの空に捧げる回想録
122/229

ちゃんと見えてるから

「今日から宇宙も中学生だね。新たな人生の門出ってやつだよねぇ」


「父さん、大げさ過ぎ。たかが中学校に入学するだけだよ」


 中学の入学式に向かう車の中。


 父の無駄に陽気な声に対し、僕は冷めた態度で応じていた。


「わざわざ仕事休んでまで、僕の入学式に来なくてもいいのに……」


「何を言ってるんだい、宇宙。入学式は大切な行事だよ、仕事なんかよりも、ずっと。……それに僕が行かなかったら、一体誰が行くんだい?」


「…………」


 こう返されると何も反論出来ない。たしか、小学校の卒業式のときも同じように返され、僕はずっと黙っていた。


 僕は父と二人で暮らしている。


 母は、いない。僕が六歳の頃に死んでしまったから。


「こらこら、暗くなるのはNG。入学早々こんなに暗くてどうするの。大切だよ、第一印象は」


 バックミラー越しに、僕の表情を見ながら父は続ける。


「それに、その前髪……。美容院に行けって言ったのに」


 あの頃の僕は前髪が長かった。


 前髪で片目が隠れていた。「鬼太郎」みたいな感じといえば、どんな髪型か分かってもらえるだろう。


「……大丈夫。ちゃんと見えてるから」


 髪と髪の間から視線は通せる。


「いや、そういうことじゃなくて。こっちから宇宙の表情が分かり辛いんだよね、顔の半分が隠れてて。……今日はもう手遅れだけどさ、式が終わったら即美容院に」


「行かない」


 即答である。


 理由は面倒臭いからだ、美容師との会話が。


「美容院が嫌なら僕が……」


「嫌だ」


 さらに強い拒絶。


 昔、父に髪を切ってもらったことがあった。その翌日から、僕が「キノコウチュウジン」というあだ名で暫く呼ばれていたと言えば、拒絶する理由も想像出来るだろう。


「何で、そんなに嫌がられるかなぁ?」


 父にとっては上手くいっていたのだろう。髪をキッチリと揃えられたのだから。


「まあ、髪型がどうであれ、宇宙が楽しく学校に通ってくれるなら、それだけで僕は嬉しいんだけどね」


 父が振り返って、朗らかな笑顔で言った。


「……ちゃんと前見て運転してよ」


 本当に、自分は冷めてるなと思う。




 ふと窓の外を見ると、満開の桜の木に目が留まった。


 まるで、何かを祝福しているかのように咲き誇っている。


 父の言う「新たな人生の門出」を祝福しているのかもしれない。


 別に、祝福なんてしてくれなくてもいい。


 どうせドラマチックなことは何も起こらないだろうから。


 毎日はただ平凡に過ぎて行くだけなのだから……。

鬼太郎スタイルの髪型は作者も好きな髪型です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ