私に感謝しなさい。
かなり、長い時間が経った。
「……僕は、虐待を受けていました」
烏丸が掠れるような小さな声で言った。
「と、いうことよ。烏丸君はこれからも私の保護下に置かしてもらうわね」
裁判でいう所の勝訴ってやつだろう。
「で、これからのことだけれども。烏丸冷奈さん、私に感謝しなさい。……虐待のことは警察には言わないでおくわ。勘違いしないで欲しいけれど、これは烏丸君のためなのよ。まがいなりにも、実の母親が逮捕される所なんて、見たくはないでしょうから」
白鳥なりの優しさである。
「それと、これ」
そう言うと同時に、セバスチャンがアタッシュケースを持って来た。
「あなたの逃亡資金の一千万円よ。一生遊んでは暮らせないけど、仕事を見つけるまでは何とかなるでしょう」
うわ、マジかよ……。あの中に一千万あるのか。
それを普通にあげちゃうのか……。
「……何で、そんなことするの?」
烏丸母も唖然として尋ねる。
「私ね、国家権力って嫌いなのよね。だから、このまま警察に引渡しっていうのも気に入らないのよね」
何だよ、その自論……。
だったら、公立学校辞めろや。
「まあ、そのお金で何処か旅行にでも行って、綺麗な景色を見て、その腐った性根を洗い流して欲しいのよ」
「……ふ、ふん。こんな町、さっさと出て行ってやるわ」
そう行って、本当に出て行ってしまった。
何か、悪役みたいだ。いや、悪役なんだけど。
悪役にも一千万をポンと渡してしまう白鳥さん、優し過ぎやしませんかね。




