超天才型め。
◆
カラスは漢字で「烏」と書く。
鳥という字とよく似ているが、一本足りない。
カラスは鳥として、何かが欠けているのではないか?
僕もカラスと同じで、人間として何かが欠けているのではないか?
彼女は白い。
自分に自信を持っており、正義を掲げる。
僕は偽物だが、彼女は本物だ。
本当に、清らかで美しい。
ハクチョウは白くて、美しい。
カラスは黒くて、汚らわしい。
どうして、こうも違うのか?
僕がどんなに、白く見せようと化粧をしても、元の黒さは変わらない。
仮面をどんなに被っても、僕の本質は変わらない。
彼女の白さが妬ましい。
雪のように白い肌も、聡明な瞳も、輝くような本物の美貌も、正義の心も、妬ましい。
彼女の全てが、妬ましい……。
◇
「僕、実は幽霊が見えるんだ」
いきなりのカミングアウトだ。
明日が終業式という日の帰り道、烏丸が突然、言った。
「はあ、いきなり何だよ?」
「だから、僕、実は幽霊が見えるんだよ」
「幽霊が……、見えるう?」
「君たちは恋愛相談よりも、本当は心霊相談を求めてるんだよね? だったら、僕が力になれると思うんだ。……僕を救ってくれた恩返しのつもりなんだけどな。ダメかな、白鳥さん?」
白鳥を懇願の眼差しで見詰める烏丸。
「……本当に見えるのね?」
念押しだ。
「うん。今まで、誰にも言えなかったんだけどね。君たちに秘密は無しかなと思って」
あの秘密に比べれば、軽いもんだしな。
「……分かったわ、烏丸君。心霊相談の時は宜しくね」
恋愛相談も手伝うのは無理だ。
だって、本人目の前だしということになる。
「僕も、白鳥さんの下僕ってことでいいよ」
「えっ、いいのかよ⁉」
烏丸、もしかしてドMなんじゃねえの?
「あなたを下僕に使うなんて出来ないわ。立場的には、私の同僚で良いわ」
おれは平気で扱き使えるのか。
「わー、ありがとう、白鳥さん」
烏丸は少し大げさに喜んだ。
「で、幽霊が見えるというあなたから見て、近場の心霊スポットは何処かしら?」
少し考えてから、烏丸は言う。
「駅前から少し離れた、人通りのほとんどない所にある廃病院なんてどうかな?」
「目の付け所がいいわね、烏丸君。私もいつかまた調査に行こうと思っていたのよ。……そうだ、早速、今日行きましょう」
「今日? いきなり過ぎだろ。明日も学校あるし」
昨日はホストクラブ潜入で、ほぼ徹夜だったから、今日はゆっくり寝ようと思っていたのに。
「なんとなく行きたい気分なのよ。それに、どうせ明日は終業式と掃除くらいしかないわよ」
「あと、通知表も返って来るね」
烏丸が嫌なことを思い出させる。
「どうせ、お前はオール5だろ」
「さあ、どうだろうね」
余裕の笑みだ。
「そういえば、烏丸君。あなた、夜はホストクラブで働いていたのに、よく勉強する時間が取れたわね。特別な記憶術でも使っていたのかしら?」
「そういやそうだ。どんな勉強法をしているんだ?」
「特に何もしていないよ。宿題だけはやったけど」
「予習は?」
「予習なんかしなくても、ほとんど答えられるから。僕、物覚えはいいから、特に勉強しなくてもテストはそれなりに取れるみたいなんだ」
「くそっ、超天才型め。おれなんか、勉強しても点取れねえんだぞ!」
こんな奴が学年トップクラスかよ。
白鳥も、烏丸の「僕、勉強してないよ」発言にショックを受けたのだろう。
白鳥も勉強しなくてもそこそこ点が取れる天才型なのだが、さすがにテスト週間には勉強していた。
同じ天才型でも、烏丸の方が格上ということだ。
勉強しなくても良い点が取れる烏丸君。
羨ましい限りです。




