洞窟に住居
衣食住の目途がつくのか与平。さらにこの孤島を探検する。
砂浜から飛び、草原の台地に降りる。
海側に暫く進むと、岩場に押し寄せる波の飛沫が見えて来た。飛沫の向こうは深緑の深い海の色。
周囲の海の中は崖のように切り立っていて、この島だけが垂直に伸びている気がする。海底火山の爆発でできた島かとも思ったが、島には溶岩は見当たらない。不思議な島だ。
飛沫の無い場所が確かにある。しかも岩場が切れている。
岩場に降りて先端に向かう。
あった。岩場の間に飛沫のない場所が。
両手両足を使って岩場を辿る。慎重に岩場の切れ目まで行き覗き込む。
中が暗くて良く見えないが奥まで続いている。
洞窟の続く方向を見定めて、台地に戻り、林の方角に向かう。
台地の表面はなだらかで起伏は少ない。台地から林の手前まで下ると、
予想した通り、下り坂の途中が一部途切れている箇所がある。
その下に洞窟があった。やはり、通じていた。
まさに、人工的に作られたのかもしれない。わくわくとする一方、不安もある。
林の手前に回り込み、用心しながら洞窟の中に入る。
洞窟の中は真っ暗で、進むのを躊躇うほどだ。
しかし、中に入って行くと壁が薄明るく、歩くのに支障がない。
さらに歩を進めて行くと、前方の奥が明るく光っている。
ちゃぷちゃぷと波の音も聞こえて来た。
何と洞窟内に岸壁があった。
洞窟の左側が急に開けて水路となり、奥は海に繋がり、日差しが見える。
水路の中程はかなり広くなっており、中央に波けしのためか岩が積み上げられ、打ち寄せる波を受け止めている。船は波けし岩を迂回してこの岸壁に接岸するのだろう。良く出来ている。
水路の右側は、岩が平らに積み上げられてまさに岸壁である。
小舟、いや中型船までならば、余裕で着岸できるだろう。
まさに人工の岸壁だ。
故郷の漁港も石を巧みに積み重ねて作ってあったが、この岸壁も引けを取らない。
右手をみると薄暗い中に何かがある。な、なんと家があるではないか。
待望の住処だ。人気はない。
岩を積んで平らにした基礎の上に木造の家が建っている。
屋根に瓦はない。
洞穴に雨は降らないから、必要かと言われれば必要ない。
岸壁から岩で組んだ階段を下りて、右奥に進み、階段を上がり、扉を叩いて暫く待つが返答はない。
あるとは思ってはいなかったが、それでも胸をなでおろす。
扉を開けると、ギィーと音がして開いた。蝶番が錆びている。
中は暗い。
『質問』に聞いた。
「照明が欲しい。」
― 生活魔術の明かりを使ってください。他に、清掃術の浄化、飲料用の水、着火用の火を使うことが出来ます。やれやれ素人が。失礼しました-
明かりと呟くと、天井に明かりが灯り、家の中が明るくなった。
テーブルに椅子、右奥に薪を燃やした後が残る竈があった。
正面、奥にもう一部屋あり寝室のようだ。
長く使われていなかったのか、埃が凄い。
浄化と呟く。
家の中の埃が消え、雑巾で拭いたように綺麗になった。
何かが頬を伝う。涙か。
1昨日は恐怖の1日を過ごしたが、今日は食べ物と住処を見つけた。魔術も質問の助言があれば何とかなりそうである。何とかこの島で生きる目途がついた。張り詰めた気持ちが緩むのは当たり前かもしれない。
寝室に入り、浄化と呟いた途端ベッドに倒れ込んだ。
眠いのは魔力切れではなく体力消耗だ。お休み。