『質問』に質問
魔法訓練です。光の精霊にできないことはありません。
黒熊を黒蛇から救出した与平は浜辺の方向に向かう。
林が途切れると砂浜だ。眩しくて顔の前に手を上げ太陽の光を遮る。
やっと見えてきた。
太陽に照らされてキラキラと光る砂浜と波の飛沫。
遠くの海も輝いている。
草鞋を脱いで手にすると、熱い砂の上を海に向かって走る。
足の裏が熱くてたまらない。
浜辺に着くと、打ち寄せる波に飛び込んで足を冷やす。
波打ち際で暫く佇む。
遠くの海面は濃い群青色をしており、手前になるほど薄くなる。
足元は水色である。
波打ち際から沖の岩場まで遠浅になっており、魚が泳いでいるのがみえる。
透明度が異常に高い。故郷の海でも見たことがないほどだ。
波打ち際に足を出して座り、足に打ち寄せる波の感触を味わう。
喉の渇きを覚えると、掌から水を出して飲む。
欲しい物は思い描けば手に入る。
《探知と鑑定を使えるようにしておく。己に》
という精霊王の言葉を思い出した。
自分自身を探る。要するに、鑑定してみた。
「鑑定！」
すると、何と言うことか、目の前に画面が現れた。
名前 光の精霊
性別 男（現在）
年齢 20歳
レベル 上限達成
全魔力量 上限なし
残魔力量 5,000
属性 全属性
加護 なし
スキル 万能
質問
何が何だかわからない。
『質問』があったので、ポチってみた。
― 質問にお答えします―
声がする。一瞬たじろいだが、
「お主だったのか。色々教えてくれていたのは。良かった。これからどうしようかと途方に暮れていたところだった。よろしく頼む。」
－ 面倒だな。いえ、承知しました。何でもお聞きください－
「魔力量とは何だ。」
― 再生後の魔力量は5,000でしたが、昨日、亜空間を創造した時に殆どを消費しました。最初に創造する時は魔力を相当量消費します。それ以降の使用には消費量は殆ど発生しません。魔力は空中のマナを取り込むことにより回復します。現在は、回復して5,000です。光の精霊は、魔力を持つ人間あるいは魔獣を己の結界で包むことにより、魔力を吸収して、増やすこともできます。―
「魔術を行使するには魔力が必要でその最大量と残量ということなのか。結界とは何だろう。」
― 己の魔力を出して周りを囲み、防御のイメージを持つと、防御シールドあるは結界になります。この結界で相手を包み、魔力を吸い上げるイメージを持つと、魔力が己に移ります―
「そうだ、拙者は光の精霊だった。魔獣をその結界というもので囲めば魔力を吸収して増やすことが出来ると聞いていた。」
－ 精霊王は光の精霊で、全ての精霊の頂点になります。与平殿は光の精霊で精霊王と同格となります。聞いているはずだ。失礼しました－
「一般的な人間の魔力量はどの位だ。」
－ 全ての人間が魔力を持っているわけではありません。持っている人間でも1,000以上の魔力を持つ者は稀です。平均で500位です－
「拙者の魔力量は異常に大きいことになるのか。もう一つ教えてくれ。レベルと言うのは。」
－ 強さの段階を示す数値で、数値が高ければ、より威力の高い魔術を使えるようになります。魔力を持っており、10以上のレベル持つ者は僅かです。10を超えると魔術師と呼ばれます－
「拙者は桁外れなのか。」
－ 光の精霊だから当然だろう。失礼しました－
「光の精霊の加護とは違うということか。」
－ そういうことだ。出来ないことは何もない。失礼しました－
試しに炎球を出してみる。その球を、見つめてさらに魔力を込めてみる。
少しずつ膨らむ。
蜂の巣大になり、慌てて海面に放つ。
辺り一面、沸騰し、暫くして、小魚が浮いてきた。
「凄い。これが魔術か。質問がいればこの世界で何とか生きていけそうだ。それに、魚だ。食い物だ。」
透明な水面に走り込んで、かき集めて浜辺に放り上げて行く。
30匹ほどが浜辺で砂まみれになった。中には30㎝を超える魚もいる。豊漁だ。
魚を集めたが、どうやって運んだらいいのか。
『質問』に聞く。
「何か物を入れる魔術があればいいのだが。」
－ アイテム空間を推奨します。この空間は時間停止しており、空間には限りがありますが、入れた食料等の劣化はありません。しかし、作成時に一定の魔力が消費されます。作成後の開閉及び維持には魔力は消費されません。一度しか言わないぞ。しっかり覚えろ。失礼しました－
画面を出して見ると、アイテム空間と表示されている。ポチると、『アイテム空間作成』と出た。
集めた魚に手を置きながら取り込むことを思い描くと、消えていった。
取り出すことを考えると中に入っている収容物が頭に浮かぶ。
選ぶと魚が現れた。何とも便利だ。当面の食い物も何とかなりそうだ。
「食糧確保の目途がたった。今日はいい日だ。」
ついつい顔に笑みが零れる。
誰かが見ていたら、きっと不気味な笑顔だと思う。
ここは、無人島。気にする必要はない。まだ、確かめたわけではないが。
行きたい場所がある。気になっていた右側の岩場。
人工物があるのではと思った岩場である。
