島のダンジョンとスライム
ガーランド王国は平穏になり、島の探検を続ける。
入った途端、後ろで扉がガシャンと音をたてて閉まった。
壁や天井が薄く光って、意外に明るい。
黒熊の住処の通路と同じだ。
幅4、5m、高さ7、8mはあるだろうか。
明かりを付け、進む。
にゅるにゅると動く透明な何かが現れた。
質問すると、
― スライムです。見えている核を破壊すると死にます。魔獣の中では最弱です。雷魔術で一掃できます―
「それでは、虐殺になってしまう。普通に戦おう。」
核を刀で突き刺してゆく。数が多くて刺しきれない。
火焔を放って、燃やし尽くす。後に何か液体が残っているが気にしない。
かなりの数のスライムを片付けて行くと、小さな広間のような場所に出た。
いた。巨大なスライムがいた。いや超巨大だ。
刀で切りつけると切れるが、直ぐに本体に吸収される。
火炎を放つが、ダメージを受けた様子はない。結界かもしれない。
覆いかぶさろうとするスライムの核を狙うが、届かず、刀を持った腕がスライムの中に引き込まれ。取り込もうとしている。
引き抜いて、結界で囲んで魔力を吸い取る。
少しずつ、小さくなって行く。
魔力が満タンになったので、風刃を連発して、切り取っていると魔石が砕け散って溶けた。
- もう一匹出てきました。スライム最強の個体のようです。用心ください。勝てないと思ったら逃げることを推奨します-
結界で包もうとするが、出来ない。
結界を破壊して魔力を吸収すれば終わるが、それでは面白くない。
風刃を放つ。結界の為、切り取れない。
それでも少しずつ切り取れてスライムが細って行くと思ったが、全く歯が立たない。
風刃を核に連発するが届かない。スライムの中の核に向かって、炎槍を放った。結界は割れず、スライムの核は絶えず位置を変える。
面白い。単なるスライムではないようだ。
風槍を連発するが効果がない。核も目まぐるしく位置を変える。
突然、スライムが縦に長くなり、覆いかぶさって来た。
スライムの後ろに転移して、伸びきって薄くなったスライムの核を狙って、刀で突いたが結界で塞がれ、核も動く。
今度は、試しにと『質問』が睡眠中に注入してくれた光精霊魔術の一つである光の鞭を造り出して、薙ぎ払おうとした。
その瞬間、スライムが地面に広がり、声を上げた。
「ま・て、せ・い・れ・い」
「お前、喋るのか。わかった。知性があるスライムは殺さない。」
「あ・り・か・と・う」
「拙者こそ悪かった。突然戦いを挑んでしまったのだからな。許してくれ。ところで、倒したスライムはお前の番だったのか。」
「む・す・こ」
「息子だったのか。悪かった。拙者は殺戮者になってしまった。」
「もんだいない むすこはかぞえきれないほどいる」
「おや、喋りが良くなったな。」
「慣れた。お主の魔力を吸わせて貰った。」
「知性の高いスライムがどうして、このダンジョンにいるのだ。」
「ダンジョンマスターに連れて来られた。特殊な魔具を使って誘導されたようだ。」
「出してやろうか。」
「自分の力で出られる。今はここでいい。」
「しかし、お前は強いな。」
「元は光の精霊様に仕えていた。強いのは当然だ。雷も落とせたが、やめておいた。」
「やばい。倒すどころか自分が死ぬところだった。拙者は精霊王様に命を救われた者だ。」
「精霊王とは会ったことはない。」
「数年前に日本と言う異世界のことだ。」
「私が仕えていたのは、光の精霊様の実体があった500年程前だった。すると、お主は光の精霊様を引き継ぐ者だな。私と同じだな。」
「ちょっと待て、お前は光の精霊スライムだと言うのか。」
「そうだ。」
「お主は拙者より強いはずだ。」
「当然だ。」
「今回は何故。」
「スライムごときが力を持っていると知られれば、私の子供達が攻撃されるようになる。それは何としてでも避けなければならない。」
「スライムの王は色々と大変だな。」
「世界樹のことは知っているか。そろそろ危ないのだが、私一人だけでは魔力が足りぬ。世界樹はかなり病んでいるからな。」
「行ってみたのか。」
「ああ、転移で時々様子を見に行く。」
「拙者の魔力でも無理か。」
「微妙だな。私の魔力を合わせて足りるかどうか。まず、世界樹に巣食っている悪蛾を始末せねばならぬ。それにも魔力を使う。」
「魔力を増やすしかないな。しかし、お主も光の精霊だとは。敵わないはずだ。拙者は新米だ。納得だ。世界樹を救いに行くとき声をかける。連絡方法は。」
「私の名を呼べ。影太郎だ。」
「拙者は与平だ。また、会おう。」
「ちょっと待て。お主について行っていいか。」
「構わぬが、何故。」
「お主の傍に居れば、魔力を増やせる。それに強い魔獣にも巡り会える。」
「そうかもしれんな。いいぞ。ついてくればいい。」
影太郎は、体を小さくして、与平の懐に入った。
「おや、小さくもなれるのか。」
「お主もなれるはずだ。」
「拙者が小さくなっても、何の意味もない。勘弁してくれ。」
今日のダンジョン攻略はここまでと、与平は転移して温泉に行った。
風呂に浸かっていると、影太郎が飛び込んで来た。
「影太郎も風呂に入るのか。」
「光の精霊様も温泉が好きで、しょっちゅう一緒に入ったものだ。」
「考えて見ると、お主と拙者は精霊から生まれた兄弟のようなものだな。」
「そうかもしれん。」
「お主も命を再生して貰ったのか。」
「ああ、馬車に轢かれて、瀕死の所を拾われた。」
「何があった。」
「何でも、馬車の進行方向に子供が突然現れて、避けるために馬車を移動させたら、そこに私がいたらしい。責任を感じたとか言っていた。でも、再生すると、光の精霊の力を得るけど、いいかと聞かれたので、いいぞと答えた。」
「同じだな。」
「同じか。」
「何でも教えてくれる質問は持っているか。」
「そんなものはない。私は100年以上、光の精霊様と一緒に暮らした。直接、魔術の指導を受けることが出来た。」
「なるほど。質問を付けてくれたのは精霊王の思いやりだったのか。直接魔術の指導を受けたのであれば、強くて当たり前だ。」
「世界樹のこともあり、早く魔術を習得して欲しかったのかもしれないな。」
「大切な樹なのだな。それなら、理解できる。」
翌朝、起きると影太郎がいない。
念話の伝言が残っていた。
「お主から魔力を貰って多少余裕が出来た。世界樹の様子を見に行くから、数日留守にする。」
食事と毎朝の鍛錬を済ませてから、『質問』に聞く。
「魔術の知識は入れてくれたのか。」
- 100%です-
「わかった。」
防御壁を出してみる。
身体強化魔法を試してみる。
自分ではわからないので、探知してみる。
「身体強化」と出た。
攻撃では風槍の方が鋭利だとわかったので、練習を重ねる。
洞窟の壁を穿つように深く刺さった。
砂浜に行き、炎球を作った。家1軒ぐらいの大きさにして、沖の上空に向かっていきみながら発動した。
炎球は、速度を上げて夕空に吸い込まれていき、数秒後、遠くの上空を覆うような花火が広がった。
魔力は問題ないが、体力を使う。
家に戻り、残り物の食事を取って、ベッドに入った。
朝、水瓶の水を飲もうとして、自分の顔が映った。
髷の前の剃り上げた月代に毛が生え、しかも髪も髯も伸び放題で、何ともむさ苦しい。
髷を解き、羽織の紐で、髪を後ろで結んだ。
顔にオリーブ油を塗ってから、寝室にあった鉄の剃刀を使って、髭を剃る。
瓶の水に写してみて、まあまあか。
朝食に切ったカボチャと魚を焼いて、魚醤に浸けて食べ、リンゴを齧りながら、家を出る。食べなくても大丈夫だが、食は習慣であり楽しみだ。
ダンジョンに再挑戦する。
巨大スライムを倒した場所に転移し、先に進む。
下り階段が見えて来た。
降りると、森だ。地下に森とは。ダンジョンとは不思議なものだ。
森の中を歩いていると、猪が現れた。
こいつらは食糧になる。島で遭遇した猪と同じサイズだ。
突進して来た猪を袈裟斬りにする。牙を剥いて威嚇する猪に止めを刺した。
島の猪もここから来ていたのではないか。
予想外に簡単に倒してしまった。
それだけ、魔力が増え、使える魔術が増え、威力が増したからだろう。
いや刀を使っている。身体強化、魔力を纏った刀。これで十分だ。
もう猪の魔獣など怖くはない。
その後も猪が襲って来る。
刀に魔力を纏わせ、切り伏せる。
あっけない。
いや、違う。
猪ばかりか、猪がいた地面も深く抉れている。
不思議な事に刀の刃先が届かない所まで切ったことになる。
以前にも不思議に思ったことがある。後で確かめよう。
2階層には猪しかいないのだろうか。
防御壁にぶつかってくるのを放置していると、数回でふらついて、よろける。止を刺す。その後も数匹狩った。
前方で争っている獣がいる。
近づいて行くと、巨大な蛇がいた。
『質問』に聞いてみる。
- パイソンというA級魔獣です。強敵です-
パイソンを狼の群れが襲っている最中だった。
狼が蛇の胴体に嚙みつくが、固い鱗に歯が立たない。
蛇も尻尾を振り回して、狼を跳ね飛ばし、叩きつける。
少しずつ、狼の数が減って行く。
一番大きな狼が吠えると、群れは巨大蛇を諦め、去って行った。
巨大蛇は、倒した狼を飲み込もうと大きな口を開ける。
1匹を丸飲みすると、次のウルフの方に這って行く。
次のウルフに向かって口を開けた時、与平は転移して火槍を突入させ、火槍が頭を突き抜ける瞬間、刀で首を刎ねた。
外からの攻撃には強いが、内部を攻撃されると一溜りもない。
まだ、蠢いていたが、暫く待つと、動きを止めた。
熊が倒した巨大蛇ほどではないが、それでも、30mは超えている。
『質問』によれば、パイソンと言うA級魔獣とのことであったが、食べられるかわからない。でも、蛇は旨いという話をどこかで聞いたことがある。
収容しておく。
魔獣が近づいてくる気配がする。探知すると、先ほどの狼の群れだった。
余裕が出て来た。どうやって倒そう。
集まってきた狼が、与平を囲む。
襲って来た狼の首を刎ねる。面倒になったので、一振りで3匹、いや後方にいた狼まで斬り捨てる。5匹が倒れた。残る1匹も首を刎ねた。
7匹の狼をアイテム空間に放り込む。
次に出くわしたのはブラックベア。
後ろ足で立ち上がり前足を被せるように襲いかかって来た。立ち上がる間に、2太刀入れて、前足2本を裁ち切った。前のめりに倒れる前に、首を刎ねた。
結界でブラックベアを包み、魔力を吸収すると、萎んでゆき、干乾びた。
力が湧いてくる。
その後も、猪が現れたが、放っておく。
防御壁にぶつかって来て、勝手に倒れる。蹴飛ばす。
食べる分は確保した。
身体強化魔法だけで十分対抗できる。今日はここまでだ。
転移した林の中で、猪を2匹取り出し、家から持ってきたロープで後ろ足を縛る。
木の太い幹にぶら下げ、首を切って、下に桶を置き、血抜きをする。
終わると、解体する。
郷里の実家では、庭先で猪や熊の解体を手伝ったことがあった。
皮を剥ぐのに苦労する。何しろでかい。
内臓と骨は取り出した後、埋める。1匹はそのままにする。
肉を切り分け、一塊だけを残して、残りは樹に巻き付いている蔦を切り取り、肉塊に通して、通した蔦の両端を結ぶ。
持ち帰って、海水に暫く浸してから竈の上に吊るして乾燥させる。
竈に火を起こし、取っておいた塊を厚切りにして網の上で焼く。
途中で、魚醤を塗って、さらに焼く。
郷里の実家で食べた時以来の肉である。齧り付く。
キュウリと焼いたカボチャも口に入れる。デザートはスイカ。
黒熊の家族にも、猪を1匹、御裾分けした。代わりに、子熊が相撲をとってくれた。
魔力を纏わせた刀の威力を確かめるために、林の中に入った。
刀に魔力を纏わせ、1本の樹の前に立ち、一文字斬りすると、振りぬいた範囲の奥行10メートルを超えて届き、7,8本の樹が倒れた。
これは危ない。人間の集団に振りぬいたら、全員の首が飛ぶ。
加減できないだろうか。
これ以上、樹を相手にしていたら、林がなくなってしまう。
砂浜に戻り、砂に向かって何度も刀を振るう。
砂山を等間隔に幾つか作って試す。
そして、やっと判った。
離れた場所から、一番近い砂山を狙って斬る。すると、その砂山には刀が入るがその先の砂山には入らない。
つまり、離れていても切ろうとする砂山を意識すればそこだけを斬ることが出来る。斬る対象を明確にすれば、刀を振るって斬れる範囲が決まって来る。
ではどの位の距離なのか。
距離を取って試す。
距離は関係なかった。見える範囲で対象を意識すればその砂山だけを斬ることが出来た。要するに、意識することが重要なのだ。
刀で風刃を放っているようなものだ。違いは、威力だ。試したものは何でも切れた。しかも100発100中。
人には使いたくない。




