ガーランド王国の悪宰相
ガーランド王国は、もともとアーリエント王国とは兄弟国だった。
5代前の国王が、自分の息子2人に国を割って、長男にアーリエント王国を、次男にガーランド王国を継がせたのが国の始まりである。
兄弟は仲が良く、それまでと何も変わらす誰もが行き来していた。
ところが、5代目の息子は、愚かにも何処からやって来たかわからない男を宰相に据え、国政を任せてしまった。
それ以来、アーリエント王国との国交は途絶え、そればかりか、隣国サーペント帝国への侵略戦争まで仕掛けるようになった。
宰相となった男の素性は不明であったが、召喚された者ではないかという噂があり、物部何某と名乗っている。
<ガーランド王国の宰相執務室>
「税を倍にしたのに、収入が増えないのはどういうことだ。」
「多くの百姓が隣国へ逃げました。国境付近では、村丸ごと消えています。」
「国境を閉じろ。」
「既に閉じていますが、長い国境線の全てに兵を送って見張らせることは不可能です。まして、現在は隣国サーペント帝国に戦を仕掛けている最中です。兵は十分ではありません。」
「百姓の男達を徴集したではないか。」
「その事が、百姓達の逃亡に拍車をかけています。アーリエント王国とサーペント帝国とは長い国境を接しています。多くの百姓が逃げました。殆どの村が働き手不足で、畑を維持できず、食糧不足に陥っています。当然、税収は減ります。」
「女子供を働かせろ。」
「働き盛りの若い女達を捕えるよう、各領主に命令されましたが、そのせいで、若い女達は真っ先に村を離れました。残ったのは老人だけです。」
「ええい、この役立たずが、死んでしまえ。」
宰相は、その場にいた憲兵の剣を取り上げ、側近を斬り殺した。
執務室を出て、王宮の最上階に入り、人払いをすると、
「ネラリ、返事せよ。」
暫くすると、
「何だ、物部か。どうした。」
何処からか声がする。
「どういうことだ。神だというから、召喚されて以来、指示通りに働いてきたのに、何故上手く行かない。」
「酒と女にうつつを抜かすお前がいつ働いた。命令だけして、全て部下に放りっぱなしではないか。あれほど、過激な施策は取るなと申したであろう。光の精霊に知られれば、全てが水の泡になると。」
「知った事か。勝手に召喚しておいて、指示ばかりするな。」
「とにかく、今は大人しく指示を待て。」
「アーリエント王国の国境付近を治める領主への働きかけはどうなっている。」
「押し返すよう指示してあるが、情報漏れを防ぐために大っぴらに動けないようだ。だが、食糧の支援を禁じているので、百姓どもは、直に餓死するだろう。」
「引き続きやってくれ。」
「そちらもな。」
<与平の魔導船>
陸地が急速に近づいてくる。内陸に向かってそのまま進み、魔導船は幾つかの村を飛び超えて行く。
- 街が見えてきました-
「あれが、アーリエント王国の街か。ショボい気がする。」
― どちらかというと辺境の近くの小都市です-
「辺境と言うことは、国境が近いのか。」
- 西はガーランド王国のようです。国境付近に人々が集まっています-
「ちょっと行ってみよう。おや、あれは何だ。」
- 盗賊に馬車が襲われているようです。助けますか-
「当たり前だ。行くぞ。」
魔導船の高度を落とし、盗賊に囲まれている馬車の上空で浮遊固定させると、船上から飛び降りる。
馬車の幌の上にゆっくりと降り立ち、馬車を守っている男達に声をかけた。
男達も盗賊も異様と思えるほど痩せ細っている。とても、戦いをする体力があるとは思えない。
「困っているのか。」
「何者だ。」
「光の精霊と言えば判るか。」
「光の精霊様なのですか。ご覧の通り、盗賊に襲われております。」
馬車を囲んでいる15人余りの盗賊にも声をかける。木刀や木槍 を構えてはいるが、盗賊と言うより、昨日まで畑で鋤や鍬を振るっていた百姓にしか見えない。
「拙者は、助太刀に来た光の精霊だ。降参するつもりはないか。」
盗賊の首領らしき男が与平を睨みつけている。
「何だと、光の精霊だと。黒髪だな。錦国人ではないのか。邪魔すると、殺すぞ。」
『質問』に聞く。
「殺したくない。どうしたらいい。」
- 雷魔術を推奨します。囲んでいる盗賊一人一人を対象に雷を落とします。手加減しないと死ぬ恐れがあります。5%の魔力で十分です。-
「わかった。初めてだがやってみる。手加減が難しそうだな。」
- 本当に5%の威力でお願いします-
突然、空が曇り、稲妻が光った。
その瞬間、15人の盗賊が痙攣して倒れた。
馬車を守っていた男達は、目の前で盗賊達が倒れたのを見て、驚きの声を上げた。
「おおぅー。何が起こった。」
「何か光ったぞ。」
「おい、盗賊どもが倒れたぞ。」
「気絶させた。目を覚ます前に、縛ったらどうだ。」
「精霊様のお力ですか。承知しました。おい、誰か、縄を持って来い。縛り上げるぞ。」
15人の盗賊は縛られ、地面に転がされた。
与平は馬車から降りて、男達に尋ねる。
「何処に行く。」
「行く当てはない。ガーランド王国から逃げて来た。」
馬車の中には、家族だろうか。女子供達が押し込まれている。
「何があったというのだ。」
「ガーランド王国では、新しい宰相が国を治めるようになってから、税が倍になり、男達は兵として徴集されるようになりました。食えなくなり、畑を耕そうにも人手が足りません。だから、多くの百姓が逃げ出しているのです。私達は徴集される前に逃げることが出来ましたが、他の男達は逃げられず処刑されたり、連れ去られました。」
「この盗賊達も百姓のように見えるが。」
「ガーランド王国から逃げて来たが、食えずに盗賊をしている連中です。顔馴染みもいます。だから、手を出せずに睨み合っていたのです。」
「何と言うことだ。悲惨だな。逃げて来た百姓同士で戦うとは。アーリエント王国側の支援はないのか。」
「見て見ぬふりを。」
「食糧の支援もないのか。」
「逆に国境を越えて避難して来た俺達、百姓を国境近くに押しとどめようとしています。入ろうとすると、兵士に押し返されます。まして、食糧支援など全くありません。私達もこの国境線に沿って行ったり来たりで、落ち着ける場所さえないのです。」
「日本でも百姓はいつも虐げられるが、この世界でも同じなのか。憐れなものだ。どうしたものか。」
- 与平殿、百姓達を救わねばなりません-
「出来るのか。」
- 光の精霊に出来ないことはありません-
「まず、どうすればいい。」
- ガーランド王国に侵攻します-
「王国との争いになるのか。それに他の国がどう動くかが心配になるな。」
- 光の精霊に対抗できる国などありません-
「そうかもしれんが、戦争の拡大だけは避けたいものだ。」
- 隣国とは言え、避難して来た百姓達を餓死させようとする国に何の遠慮がいるでしょうか。与平殿も自分に関係なければ、何もしないと言われるのでしょうか。過去、精霊王は民に余りに過酷な生活を強いる者達を滅ぼされてきましたし、一国丸ごと消滅させたこともあります。この世界を作った光の精霊には民を守る責任と義務があります。そのための力です-
「知らなかった。大変なのだな。光の精霊は。」
- 他人事のように聞こえますが-
「そんなことはない。苦しむ民は救わねば。」
男達に話をする。
「ガーランド国に戻ろう。」
「戻ると、捕えられて殺されます。」
「心配ない。私が守る。」
「大丈夫でしょうか。」
「私は光の精霊だ。何でも出来る。」
「・・・」
「このままここにいても餓死するのを待つだけだと思うが。いずれにしろ、留まることが出来ないのであれば、船に乗ってくれ。」
「盗賊達はどうしましょうか。」
「彼らも百姓だ。一緒に連れて行く。」
「お待ち下さい。皆と相談します。」
相談の結果、故郷に戻ることが決まった。行き詰って、藁でも掴む思いだったのか、反対の意見は出なかった。と言うより、行く当てのない逃避に諦めの気持ちが芽生えていたとしても不思議はない。
魔導船を着陸させ、避難民と盗賊達を乗せて、ガーランド王国に向け、船を出す。船内でアイテム空間に貯めていた食糧を取り出し、農民達に振る舞う。涙を流しながらスープや肉串を頬張る女、子供と男達。
「何日ぶりだー。まともな食事をするのは。旨い、旨いなあ。お前もゆっくり食べろ。慌てて食べると、お腹がびっくりして痛くなるぞ。」
「母ちゃん、スープが無くなった。」
「皆、沢山あるからゆっくり食べろ。お代わりは鍋から自分で注いでくれ。村に着いたら、暫く待っていてくれ。アーリエント王国から食料を運んでくる。」
「食料をくれるでしょうか。」
「心配ない。用意しなければ自分たちが亡びるのだから。」
同時に、『質問』の勧めで、大量の岩を取り込んでおく。
国境の岩山が幾つか消えた。




