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異世界転移再生

定番の異世界への転移物語です。楽しんで頂ければ嬉しいです。


幕末の剣豪、金山与平は異世界の絶海の孤島に転移再生し、光の精霊となった。万能のスキルと莫大な魔力、異世界を牛耳る力を得た与平ではあったが、食うに困らない慎ましい生活であれば十分であると考えていた。悪魔に執拗に狙われ、強くなることを決意した与平は空の王者ギガントイーグル、海の王者クラーケンとシーサペントを倒すほどまでに強くなった。精霊王に託された世界樹の回復のため魔力を蓄え、カーナ国に向かう。


草と土の匂いが鼻に纏わりつき、息が苦しい。

堪らず仰向けになる。呼吸が楽になり視界も開けた。

太陽の光が樹々の間から射し込んでいる。


少しずつ手足の感覚が戻ってきたので、体を起こし座り込んだ。

周囲を見回していると、林の中から獰猛そうな魔獣が覗いているのに気づいた。慌てて立ち上がり刀の柄を握る。

「今だ。行け。」何処からか声がした。


同時に、

- 地獄の魔獣ケルベロスです。再生したばかりですので、安全の為結界で包みます-

と声がした途端、飛びかかって来たケルベロスが透明な何かに弾かれ、「グギャー」と声をあげている。


獅子のような鬣を持つ獰猛な犬が3匹。いや違う。一つの体に3つの頭が生えている。ケルベロスは立ち直るとそのまま、鋭い爪で透明な、多分結界だろう、を引っ搔き始めた。

与平は腰を落として刀の柄を握ると、一閃する。前足が飛び、血が噴き出した。ケルベロスは後ずさる。

何とかなったと与平が安堵の息をついていると、ケルベロスの足が修復再生されてゆくのが見えた。

与平は小走りに近づき、さらに一閃する。ケルベロスの頭一つが落ちた。


― 胸にある魔石を狙ってください。他はいくら切っても再生します-

「あの赤い石のことか。頭が防御している。厳しいかもな。」


だが首が落ちた所為か、再生が止まった。

林の中に黒い渦が現れ、ケルベロスはそこに吸い込まれ、霧散した。

「逃したか。」

- 異空間に逃げたようです。いつまた現れるかわかりませんが-


「助かった。お主は?」

- いずれご挨拶します-


これが異世界。

「こんな獰猛な魔獣が住む世界なのか。」

額が汗ばんでいるのに気づき、腕で額を拭う。



この世界で生き抜くには生半可な覚悟では足りない。そのことを知っていたらこの世界に再生することを望んだのだろうか。

何でもできるという精霊王の言葉を信じたが、実際の今の自分は何と無力なのだ。京にいた頃は、どんな相手でも負けることはなかった。

今回ケルベロスに怪我を負わすことは出来たが、止めは刺せなかった。修復再生すれば、再び襲ってくるに違いない。もっと強くならなければ、生き残れない。


再生すれば元通りの体になるとの光の精霊の言葉を思い出し、改めて体を確かめてみる。見た目は変わらないようだが、以前より体が軽く、力が満ちている気がする。何より、空腹感がないのがいい。再生前より強くなっている気がする。


刀を抜いて、前後左右に動いて何度も振り抜いてみる。力強くなり、素早い動きが出来る。刀を振ると、空気を引き裂くような音さえする。

頗る体調も良い。若返ったというより、俊敏で強い新品の体に生まれ変わっているのは間違いないようだ。


まず落ち着くために、心形刀流の形を繰り返す。

居合表裏各6本、組太刀の大太刀と小太刀各6本、二刀全部。

以前は終わると疲れで座り込んだものだが、今は息切れさえもない。

形を終える時間も短くなった気がする。それもかなり。

周囲を見渡すと、無数の樹々に刃跡痕がある。直接切ったわけでもないのに。威力が増しているのか。


足を組んで精神統一をする。

周囲には人気もないが、小鳥の鳴く声もしない。静寂の中で、己の息音だけが聞こえる。

この瞬間は事態が緊迫していないとわかり、少し落ち着いてきた。



樹々の間を隈なく見ていくと、僅かに勾配がある。登り勾配の方向を見定めるためにさらに視線を下げる。

起き上がり、間違いないと確信した方に歩き出す。

歩くことが新鮮だ。川に飛び込んでからどの位時間が経っているのかわからないが、久しぶりだ。


林の間を縫って歩く。次第に勾配がきつくなってくる。距離と時間の感覚が曖昧になるほど変化のない景色が続く。

精霊王から言われた事を思い出す。精霊王の跡を継ぐという事を。しかし、一体どうすればいいのか。

魔術は使ったことがないし、魔力とは何なのか、わからないことだらけである。これでは精霊王の代わりなど出来るはずもない。今は、この世界で生き抜くことに集中しよう。余裕もない。



やっと林を抜けたと思ったら、身長を超える鬱蒼と繁った草木の薮が行く手を阻んでいる。これを切り開いて進むのはとても無理そうだ。

それでも刀を抜き、意を決して薮の中に入ろうとした時、何か嫌な予感じがして足を止めた。この薮の中を無闇に進むのは危険だ。強い殺気。抵抗を許さない圧倒的な力。


ザザッ、ザザッと微かな音が近づいてくる。

何かが薮の中を掻き分けながら移動している音。次第に大きくなってくる

与平は刀を構える。緊張が高まる。


目の前の薮の中を白い鱗を纏った巨大な蛇の頭が現れ、その後を胴体が続く。有り得ない大きさだった。直径3m近くはある。長さまではわからないが大きさが尋常ではない。


刀を構えたまま足が竦んだ。超巨大な白蛇が通り過ぎて行った。震える手に気づいて刀を鞘に収めた。今は使える気がしない。前進も後退も出来ず、白蛇が通り過ぎるのをただただ眺めていた。

通り過ぎたと安堵したその瞬間、背中に悪寒が走った。ゆっくり後ろを振り向いた。

ぱっくりと口を開けた超巨大白蛇の顔が急速に近づいてくる。しかも、いつの間にか、その巨大な胴体が周囲をとり囲み、逃げ道を塞いでいた。


気づくべきだった。この島の生物密度は極端に低い。この島で生きている生物は常に餌を求めて徘徊しているはずだ。何か反応があれば、そこへ目掛けてやって来るのが当たり前なのだ。


与平は死を覚悟した。後悔が積み重なる。

護衛は常に周囲の気配から殺気を見分け、命を守る為の最善の動きをする。

だが、再生してからいきなりケルベロスに襲われた動揺を抑えられずにいた。それにしても遅きに失した。

どこからか、「これでお終まいだ」と言う呟きが耳に入った。覚えのある声だ。そうだ、再生した途端襲われた時に聞こえた声と同じだ。


しかし、与平は突然頭の中に響くもう一つの声に呼応した。

- 何を躊躇っているのです。この弱虫に思い知らせなくてどうするのです。-

「そうなのか。弱虫なのか。やってやる。」


白蛇が何かにぶつかって頭が跳ね飛んだ。あの時結界とか言っていた透明な壁だ。また、守ってくれた。白蛇の頭から煙が立ち上っている。


結界が閉じると、巨大白蛇が再び襲ってきた。与平は飛び上がってその攻撃をぎりぎり避けた。

巨大白蛇は囲みを狭めてくる。与平を圧死させようとしている。

与平は再び飛んで囲いの外に出た。そこ白蛇の尾が振り下ろされた

- 与平殿、刀を-


与平は剣を下から振り上げた。

深い傷を負った尾が逃げる。もう一閃、今度は袈裟切り。

白蛇の尾がずるずると退いてゆく。

それに向かって足を滑らすようにして近づき、剣を何度も振り下ろすと皮が裂け、赤い肉があらわれた。

そこに思いっきりに剣を叩き込んだ。尾の先が切断された。


切れた尾の向こうに白蛇の頭が見える。

与平は走り寄る。白蛇は胴体をくねらせる。だが、尾を失ったせいか与平の動きについてゆけない。何度かくねる胴体を避け飛び越え、白蛇の頭に接近すると、いきなり下顎を蹴り上げた。


巨大な白い頭が空中に跳ね上がった。与平は巨体の真下に走り、落ちてくる頭をさらに蹴り上げた。数回蹴り上げて、渾身の力で蹴り上げた。

頭と巨体がそのまま青い空に舞い上がる。そのまま上昇して行き白い糸のようになって消えていった。


「どこまで昇るんだ。竜になったのか。でも良かった。命拾いした。」


空を見上げながら、恐怖で怯えていたことを忘れていた。

その時、もう一つの巨大な魔力が急速に近づいてくるのを感じた。

「もう1匹いるのか。面倒だな。」と思った瞬間、視界が変わった。

林の中で一人佇む自分がいた。視界の変化で少し眩暈がする。



何が起こったのか。眼を下に向けると見覚えがある。そうだ、再生から目覚めた、最初の場所だ。

ケルベロスと戦った血の跡があり、剣を振るって付いた足跡で付近が荒れている。周囲の樹々に刀跡痕もある。間違いない。

時間が戻ったのか、移動したのか。

- 転移完了しました。いつまで面倒を、いえ失礼しました-


転移? 一瞬で違う場所に移動?

これが光の精霊の能力なのか。危険な時は転移できるのか。不安な気持ちが多少軽くなった。

だが、今は休んでいる時ではない。前に進もう。じっとしているとまた魔獣が寄ってくる。それに今なら気配を感じ取れる。

海岸線に行こうかとも考えたが、まずこの島の全容が知りたい。

この島の高台に転移できないだろうか。

- 行ったことのない場所には転移出来ません-


そうか。確かに行ったことのない場所に転移するのは危ない気がする。

周囲の気配を探り、巨大な殺気の方向とおよその距離を計る。その殺気と一定の距離を取るようにして、林の中を歩き回り、巨大白蛇に襲われた場所からかなり離れた帯状の藪の前まで何とか辿り着いた。

その切れ目を探して藪に沿って歩く。体力の消耗が激しい。


夕暮れが迫っている。

この林には巨大な生き物がいる。超巨大白蛇だけとは限らない。

安全に眠れる場所を探そう。寝ている間に襲われては一溜りもない。


- 安全に滞在できる場所を確保しましょうかー

「頼む。」


と言った瞬間、目の前が裂け別の景色が現れた。驚きの余り腰砕けになった。


- 亜空間に作られた避難所です。ゆっくりと休め。このダメ男。いえ失礼しました-


あの声がした。誰だかわからないが、これまで何度も危機を救ってくれた声である。他に方法はない。今はこの声に縋る以外に方法がない。


恐る恐るその空間を覗くと、見覚えのある木造の一軒家が見えた。

覚悟を決め、思い切って中に入り込んだ途端、後ろで裂け目が閉じた。

安全圏に入ったことを実感した。何故なら・・・そこにあったのは生家だったからだ。

与平が生まれ、幼い頃を過ごした慣れ親しんだ実家である。


間違いない。与平の記憶にある家と寸分違いがない。幼い頃に木刀を振って付けた壁の傷跡まで全く同じだ。


周囲を見回して再確認する。間違いない。


家の引き戸を引くと見慣れた光景があった。土間に足を踏み入れる。

右側に竈や流し、前方に板間があり、左側には障子戸があり、開けると畳間という幼い頃に馴染んだ光景。

板間を見ると、膳の上に汁、米飯、めざし、たくあんの皿が乗っており、御櫃と汁鍋も傍にある。お櫃を開けると湯気が上る。


子供の頃、家人がいつも用意してくれていた膳がある。安堵の気持ちと同時に懐かしさが込み上げてくる。


与平は草鞋を脱ぐ早々、板の間の箱膳の前に座り、茶碗にお櫃からご飯をよそって、箸を持つと味噌汁を吸いご飯をかきこんだ。漬物を噛みしめる。気が付くと、お櫃は空になっていた。

ここが現実の空間ではないことは理解しているが、それにしても寛ぎ過ぎだ。

これも精霊王から授かった何かの能力に違いない。


流しの下には酒まであった。水屋箪笥から湯呑を取り出し、酒を注いで、膳の上に置いた。

めざしを魚に酒を舐めていると、懐かしい家族一人一人の顔が浮かんで来る。

久しぶりの酒のせいか、酔いが早い。睡魔が襲って来た。

今日は色んな事があり過ぎた。本当に色んな事が。本当に。障子戸を開けると布団が敷かれていた。与平はそのまま倒れこんだ。



目を覚ますと、子供の頃に見慣れた天井がある。そうだった、ここは避難所だったことを思い出した。起き上がり、障子戸を開けて板の間に出る。

土間の草履を履いて家を出て、裏の井戸の釣瓶で水を汲み、顔を洗う。見知った家である。腰に手を当て、空を見上げる。落ちない太陽がある。


実家を後ろにすると裂け目が現れた。裂け目を出ると、昨日最後にいた場所だった。

- 出口は任意で設定できます。今回は昨日いた場所にしました。これで十分だろう。失礼しました-


いざとなれば逃げ込める場所があると思うと気持ちが落ち着いてくる。

だからと言って、あの空間でのんびりと一人暮らそうとは思わない。

この世界に人間が生きているのなら、会ってみたい、話してみたい。一人ぼっちは寂しい。



突然、周囲に違和感。何かに囲まれている。強い殺意も感じる。

腰を落とし、刃を上にして、刀の柄に親指を当て鯉口を切る。

声がした。説明してくれている。

- 木の魔獣、トレントです。根を足のようにして動きながら、枝を手のように振り回してきます。この島には生息していないはずですが-


トレントは根を足のように動かし、与平に襲い掛かってきた。後方に飛び下がると、幹のように太い枝を振り下ろしてくる。横に動いて避けると、

- 逃げ回ってばかりでは倒せません-

「そうだな。」


振り下ろされた太い枝を逆袈裟斬りにすると、ギャと小さな悲鳴がしてボトッと落ちた。そのまま上から、本体を袈裟斬りにすると斜めに二つになり、叫び声がして動かなくなった。

次のトレントを左一文字斬りにすると、2匹目が上下に別れた。

他のトレントがずり下がって行き、視界が開ける。

- 放って置くと、トレントは増殖します。この島の生き物に大きな影響がでます。全て討伐してみろ。失礼しました。ちなみにトレントは硬くて強く高価です。魔法空間に貯蔵するのをお勧めします-

「ならば、狩り取ってしまおう。」


逃げるトレントを追いかけ、斬り倒してゆく。逃げ足は速いが攻撃はして来ない。今の与平は素早く動け、体力も十分である。トレントに逃げ場所はない。

10本ほど斬り倒すと動く木はいなくなった。さらに一振りする。


「ちっ、また駄目か。ウァアー。」

頭に角のある男が血を流して倒れ、霧となって消えた。

「影から覗けば安全だと思うのは大間違いだ。」


- 良くやった。失礼しました。地獄の悪魔のようです。亜空間から覗いていました-

「自分は動かず魔獣を使うとは何と卑怯な奴だ。あの世で反省しろ。」

- 消え去ったという事は本体ではありません。分離体だと推測します-

「そうか。残念だ。」



枝を払い、丸太になったトレントを亜空間に仕舞う。

心配になり刀の刃を確認すると、欠けがないばかりか、白く輝いている。


「大丈夫だったか。」

- 与平殿は、無意識のうちに刀に魔力を纏わせています。強い魔力を纏った刀の刃は強靭になり、刃が欠けることはありません。剣の達人になると魔力を纏わせた刀を振りぬいた方向の人や物を魔力残滓で傷つけることがあります-

「刀の長さを超えて相手を切ることが出来るということなのか。お主はいいやつだな。色々と教えてくれて感謝だ。」

- またのお越しをお待ちしています-


まだ超巨大白蛇の気配がする。急がなければならない。



いきなり悪魔が狙っていました。弱気の与平に更なる苦難が。強くならなければ生きていけない。

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