1 涙の朝と幼なじみ
「ん……お母さま……?」
目が覚めると、そこは見慣れた自室の天井。
また、あの夢を見ていたのかしら。遠い、雪国での話。そんな場所、生まれてこの方、行った事無いんだけどね。
起き上がると、目から何かポタポタと垂れてきたのは涙だった。
私、また泣いていたのね。
手で涙を拭い、立ち上がる。
部屋のカーテンを開け、窓を開けて朝の空気を肺に取り込む。
なんて良い天気なのかしら。
私は机の上にあった鏡を手に取り、自分の顔をみると、目元がまだ潤んでいる。
私は鏡凪彩。
誕生日は10月1日の天秤座。O型の現在17歳。
私立、聖北学園に通う高校3年生だ。
身長は160センチ。体重は秘密。
髪の長さはセミロングで黒髪。今日も内巻きに髪型がきまっている。
自分で言うのも何なのだけれど、クラスでも、いや学校でも結構可愛い分類に入っているのではないかと思う。
パッチリとした目に二重まぶた。鼻筋は通っていてどの角度から見てもカメラ写りも良い。
肌は白く透き通っていて艶がある。
「うん……相変わらず可愛いわね、私」
決して自惚れではない気がする。
私は鏡で自分の顔を見つめ、色んな角度から眺め見てはうっとりとしていた。
すると、そんな朝の気分を台無しにするひと言が、隣から聞こえてきた。
「そんなゆっくりしてると遅刻すんぞ、鏡」
そう、声の主は私の隣の家に住む幼なじみ。
天草 蛍火。
誕生日は12月2日の射手座。A型の現在17歳。
私立、聖北学園に通う高校3年生。私と同じ学校で隣のクラスの男子。
身長は170センチ。体重は知らん。
髪は刈り上げていて短髪の黒髪。ツンツンとした髪は寝癖なのか何なのか。
私から言うのも何だけど、コイツは何故かモテる。女子からも、男子からも人気が高い。
気怠げそうに話すし、口数も多い方ではないけれど何故か周りには人が集まってくる。幼稚園の頃からのコイツを知っているけれど、現在モテているのは納得がいっていない私。
まぁ、確かに?
顔も整っているし、周りでキャーキャー騒ぐのも分からないでもないけれど?
「なによ、蛍火。もう昔みたいに凪彩ちゃんって呼んでくれないの?」
昔は近所でお隣の家同士という事もあり、よく一緒に遊んでいた。
私の後ろを黙ってついてくる、可愛い男の子のはずだったのに………いつの小間にかこんなに身長も伸びて、身体つきも良くなりやがって。
おまけにちょっとだけ生意気になった気がする。
月日とは、こうも人間を変えてしまうものなのか。
「俺らはもう高校3年なんだぞ?いつまでも名前でなんて、呼べねぇだろ………。って、おい。いつまでこっち見てる気?………制服に着替えたいんだけど、俺」
そう言うと蛍火は上を脱ぎ出そうとする。
いや、別に蛍火の上半身なんて見慣れていて、何なら小さい頃なんか一緒のお風呂にも入らされていたし?
別に何とも思わないけれど。
まぁ、蛍火が言うように私たちももう既に高校3年。いつまでも、昔のままではいられないのかもしれない。
お年頃ってやつなのかな。
私は黙って、レースのカーテンを閉めた。
*****
俺は天草 蛍火。
俺は朝っぱらから、おかしな光景を見ていた。
それはカーテンを開けて、窓を開けた現在。目の前には鏡で自分の顔を見つめてニヤニヤと笑う、幼なじみの姿があった。
頬に手を当てたり、色んな決めポーズなんかをとったりなんかして。俺は朝から何を見せられているんだろう。
俺はそんなのんびりしている幼なじみに向けて、ひと言言ってやった。
「そんなゆっくりしてると遅刻すんぞ、鏡」
すると、ちょっとムッとしたような顔で振り向く幼なじみ。そんな顔も可愛いんだから、世の中どうにかしている。
そして、そう思う俺もどうにかしている。
こんな自分大好きナルシストが、学校では密かにモテているんだから。世の中終わっているな。
「なによ、蛍火。もう昔みたいに凪彩ちゃんって呼んでくれないの?」
なんて、頬を膨らませてむくれる。
そんな顔もハムスターがひまわりの種を隠しているようで、とても可愛らしい。絶対に口に出しては言わないけどな。いや、怒るか?
しかし、可愛いと言ったら言ったでコイツは調子に乗るタイプなので、その後の行動もどうなるのか目に見えていた。自慢じゃないが、付き合いだけは無駄に長いので、そのあたりの行動パターンは嫌でも読める。
名前で呼んでくれないのって?
普通に呼べるわけないだろ?
俺らだってもういい歳なんだぜ?いつまでもいつまでも、子どものまんまじゃいられないんだよ。俺はそれを口にして伝える。
「俺らはもう高校3年なんだぞ?いつまでも名前でなんて、呼べねぇだろ………。って、おい。いつまでこっち見てる気?………制服に着替えたいんだけど、俺」
そろそろ着替えて、学校に行く準備をしないと乗る電車がギリギリになってしまう。
俺は余裕をもって家を出たいんだよ。のんびりやの幼なじみと違って、な。
時計を見て時間を確認すると、納得したのか、黙ってレースのカーテンを閉めた幼なじみ。それでいいんだよ、と思ったのも次の瞬間吹き飛びかけた。
「!???」
なんとハタハタとはためくカーテンの向こうで、向こうも着替え出したではないか。しゅるしゅると擦れる衣擦れのような音が、妙に臨場感を高まらせる。
それに、閉めたのはレースのカーテンのみのせいで、あいつの着替えるシルエットがぼんやりと見えてしまうし。
俺はこれ以上耐えられなくなり、自分の側の窓とカーテンを勢いよく閉めた。
「何であんなに無防備なんだっっ…… 凪彩のやつ……」
俺は火照る顔を手で隠しながら、壁にもたれ掛かってズルズルと腰をおろした。
何で俺の方がこんなに振りまわされているんだ。
俺は悶々としながら着替えを済ませ、学校に行く準備を整えた。




