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16.脳筋令嬢の殺意


 時刻は21時に差し掛かろうとする頃、私はキザ男の尾行するべく、バトラーと共に夜の王都に身を潜めていた。

 いつもの変装をした上に黒のローブを羽織り、王都の闇に溶け込んでいる。


「探知魔法はどこを指しているの?」


「どうやら旧市街の方みたいです」


「旧市街って……王族公爵の嫡男がなぜそんなところに……」

 

 王都では旧市街と新市街で分かれている。

 新市街は王政革命後に出来たいわゆる発展の象徴である。


 市場から娯楽施設まで揃い、住まいとしては主に富裕層が済んでいる。


 逆に旧市街はその名の通り、古くから残っている市街地だ。

 新市街とまではいかないが、庶民層や貧民層が多いため、それなりに活気はある。


 とはいえ、旧市街は基本的に富裕層は寄り付かない。

 プライド……という側面もあるが、旧市街の人間が受け付けないのだ。


 特に旧市街の奥に鎮座するスラム街に行った時には恐らく背後から刺されるであろうくらいには富裕層にとっては治安がよくない。


 まぁ……小国にはよくある小競り合いみたいなものが街中でも行われているのだ。


 そういうこともあり、貴族の人間が旧市街に入ることなど旧市街を管轄する貴族家が公務を行う時を除いて滅多にない。

 

 クレストの場合、管轄貴族ではないため、公務ではないのは確実だ。

 ということは、旧市街に赴いているのはプライべートということになる。


 ますます怪しい。


「詳しい場所は分かる?」


「旧市街の……酒場ですかね? そこにいるみたいです」


「酒場……? さっきあれだけ飲んでいたというのにまだ足りないというの?」


 酒が好きなのか暇さえあればワインを飲んでいた。

 それでも飲み足りないということはかなりの酒豪なのだろう。


「そうはいってもわざわざ旧市街の酒場に行くのは不可解ですね。あそこの治安を鑑みると、新市街で飲んだ方が安全でしょうに」


「護衛の騎士もいないみたいだしね」


 さっきまでは各地に張っていた護衛騎士も一切いなくなっていた。

 彼が追い払ったのか分からないが、追い払う理由も分からない。


 そんなに人に見られたくないのか……あるいは……


「とりあえず行ってみましょう。何事も見てみないことには分かりません」


 早速探知魔法に引っかかった旧市街の酒場へと向かう。

 現地につくと、佇まいに優雅さはなく、いかにも平民が通う酒場といった風貌だった。


「なんだかこういう店をみると、落ち着くわ」


 一般的な貴族の場合、こういうのを見ると鼻で笑ったりするのでしょう。

 だが私は違う。


 庶民に憧れがあるからか、むしろ落ち着くのだ。


「入りますよ」


 バトラーが先導し、私も中へ入ると「いらっしゃいませ~」という元気なウエイターの声が響いた。

 中もそれなりに活気に満ちており、最高の雰囲気だった。


「おぉ……まさに庶民って感じね! 最高だわ!」


「お嬢、目的を忘れないでくださいよ。ほら、あそこに……」


「いたわね」


 金髪のイケメンというわけですぐに分かった。

 変装なのか服装も庶民ぽいものになっており、ドミノマスクをつけている。


 それでも私とバトラーにはすぐに分かったけども。


「お客様は二名様でしょうか? お好きな席へどうぞ!」


 ウエイターにそう言われると、私とバトラーは彼と程近い席に身を潜める。


「一人……でしょうか?」


 クレストはカウンターで一人で酒を飲んでいた。

 周りに人がいる気配はない。


「本当に酒を飲みにきただけなのでしょうか?」


「まだ分からないわ。しばらく様子を見てみましょう」


 それから適当な品を頼みつつも、しばらく待っていた。

 のだが……

 

「んんんっ! この肉、とてもおいしいわっ!」


「お嬢、食べすぎですって」


「だって、こんなに美味しいんだもの! しかも今はマナーなんて気にしなくてもいい! はぁ……最高のひとときだわ!」


 完全に庶民の食に心を奪われてしまっていた。

 

 さっきまでの地獄から一変、天国と化していた。

 もう私は誰にも止められない。


 そんな極上な時間を過ごしているか、バトラーの声が脳裏に響いてきた。


「お嬢、どうやら動き始めたみたいですよ」


「そんなことより、この骨付き肉が――」


「見ろ」


「はい」


 一旦冷静になった後、私の目は再びクレストの方へと向く。

 気が付けば隣に見知らぬ女性が相席していたのだ。


 それが時間が経つごとに一人、二人と増えていくのである。

 貴族風の女や平民っぽい女まで様々な女が彼を囲む。


「ほう……」


「どうやらお嬢の勘は見事的中みたいですね」


 まぁそんなことだろうと思った。

 そんな中で耳を傾けてみると、


「本当によろしいのですの? 婚約されたとお聞きしましたが……」


「問題ないさ。相手はまだ成人にも満たない子供……父親同様に脇が甘いから丸め込むなんて余裕さ。今日もちょーっと甘い言葉を囁いたら、リンゴみたいに赤面してたよ」


「まぁ……ちょろいのね」


「ほんと、ほんと! まぁ噂通りの美しさだったからやることはやらせてもらうけどねっ!」


「私は構わないわ。愛人でも貴方と共にいれるのであれば……!」


「わたくしもです!」


「あ、あたしもです!」


「ふふっ、可愛い子猫ちゃんたちだ」


 同調する女たちにあっはっは! とクレストは高笑いを上げる。


 まぁぶっちゃけどうでもいいが、随分と舐められたものである。


「お嬢、どうしましょう?」


「そんなの決まっているでしょう?」


 あんな男、どんなにお金を積まれようが願い下げだ。

 だが、あんな輩にこのままコケにされて終わるのは我慢ならない。


「地獄を見せてあげるわよ。ふふ……ふふふふふっ!」


「うわぁ……目が笑ってねぇ。あいつ、終わったわ……」


 盛り上がる酒場の脇で。

 私はクレストをターゲットに定めると、その時を伺うのだった。

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