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14.脳筋令嬢のお見合い


 クソ親父より婚約の話をされてから早くも一週間がたち、パーティー当日を迎えた。

 時間帯は夜18時から、場所は王都にある王家御用達の舞踏会場で行われるとのことだ。


「なんでパーティーってパジャマでいっちゃダメなのかしら?」


 パーティー用のドレスの着付けが終わり自室に待機している間、私はいつものようにバトラーに愚痴をこぼしていた。

 バトラーもいつもの如く、呆れた表情をしている。


「それはパーティ―だからですよ。一人だけパジャマで来る公爵令嬢がどこにいるんですか」


「ここにいるわ」


「そういう問題じゃないんだよ」


 そうはいうが、一度着てみたら分かる。

 ドレスって本当に動きづらいし、蒸れるし、最悪なのだ。

 この機能性を度外視し、見た目にステータスを全振りしたような服装がどうにも好かない。


「それになに! このやたらと丈の長いドレスは! 歩かせる気、ないでしょ!」


「歩きにくそうなのは否定しませんが、それを立派にこなしてこそ公爵令嬢なのですよ」


「じゃあ私は一生平民でいいわ」


「即答ですね」


 そんな会話をしている中、3回のノックが部屋に響き渡る。


「フィオ、準備はできたか?」


 クソ親父の声だ。


「できました。いつでも出発できます」


「では、いくぞ。先方を待たせるわけにはいかない」


 そんなわけで私は外で待機していた馬車に家族と共に乗る。

 周りには見慣れない騎士たちが待機していた。

 恐らくアゼルバード家が寄越した護衛騎士だろう。


 馬車を走らせること1時間ちょっと、私たちは何事もなく王都に到着した。

 王都には何度か来たことがあるが、前に見た時よりも更に活気に満ちている気がした。


 当然ながら民衆の目はこちらに注がれている。

 今日もみんなのフィオレンティナとしてスイッチを入れなければならないということだ。


 しばらくすると、馬車は王都の中心部で止まった。

 同時に紅のカーペットが馬車の元へと敷かれる。


「バルク家の皆様、ようこそお越しくださいました」


 馬車を降りると、一人の男が早速迎えに出てきた。

 隣には写真でみた顔が並んでいる。


 おかげで奴が婚約相手だということは一目でわかった。

 ということは隣にいるのは父親だろう。

 

「こちらこそ、本日は――」

 

 社交辞令がかわされるなか、私も挨拶を交わす。

 いや、本当にずっと笑顔でいるのって辛い。


 こういう行事が行われる度にそう思う。


 それから私たちはパーティー会場へと案内された。

 他にも招待された人がいるみたいで、既に会場は盛り上がっている。


「フィオレンティナ嬢、ご婚約おめでとうございます!」


「フィオレンティナ嬢!」


 私が到着するや否や、色々な人間に絡まれる。

 こういうのが嫌なんだよなぁ……


 面倒だし、言葉選びも怠いし、何より少しでも仲良くなりたいという魂胆が見え透いている。

 こいつらの腹の中を開けてその黒いモノを暴いてやりたいといつも思っている。


「フィオレンティナ嬢」


 今度はなに!? と思って振り返ると婚約相手の男が立っていた。

 名前は……クルトンだったっけ?


「これはこれはク……様」


 とりあえずバレない程度に濁すと、彼は「はははっ」と笑いをあげた。


「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。僕のことはクレストと気軽にお呼びください。未来の妻にそう様付けで呼ばれるのはいささか悲しいので」


「申し訳ございません、あまり慣れていないもので。ですが、今はまだクレストさんと呼ばせてくださいまし」


 クレストは「分かった」と頷く。

 こいつはもう私と婚姻を結ぶ気満々みたいだ。


 ま、流れ的にほぼ決定事項みたいなものなのは確信した。

 こんな大々的なパーティーにしているのだから明白である。


「ところでどうなされたのですか?」


「いや、用があるというわけではないのだが君とお話がしてみたくてね。よかったらバルコニーの方にいかないかい?」


「もちろんです」

 

 ……と、心にもないことを言うと、彼と共にバルコニーに出た。

 そこからは王都の中心部が一望できる絶景が広がっており、無数にある街灯が街を彩っている。


「ここはいつ見ても綺麗な街だ。君もそう思わないかい?」


「そうですわね……」


 彼はワインを含みながら、感傷に浸っていた。

 やはりスカした男である。


「まぁ、君の美しさと比べれば比較のしようがないけどね」


「嬉しいですわ。そこまで言ってくださるなんて……」


 うえぇぇぇぇ、吐きそう。

 なんでそんなセリフが恥ずかしげもなく言えるのか理解に苦しむ。


 そういうのはクソ兄貴だけで十分なのよ。

 あと、なんか少しずつ距離感近くなってきているし……


 何なの? もう酔ってるの?


「本当に綺麗な瞳だ。多くの民が君に魅了されるのも頷ける。そんな姫君の夫になれるなんて至極光栄なことだよ」


「うふふ、クレストさんはお世辞がうまいですわね」


「世辞なんかじゃないさ。なにせ初めて会った時から僕は君に魅入っていたのだからね」


 初めて会った……そういえばバトラーが前にも会ったことがあるとか何とか言ってたな。

 私の記憶には綺麗さっぱりないけど。


「覚えているかい? 初めて会った時のことを……」


「ええ、もちろんですわ」


 嘘である。


「その時の君も麗しかったが、大人になるとこうも変わるものなのだと驚いたよ」


「褒めすぎですわ。照れてしまいます」


「ふふっ、分からないかい? 照れさせているんだよ。未来の妻の初々しい婚前の姿を目に焼き付けたくてね」


「げほっげほっ! ごほっ!」


「ふぃ、フィオレンティナ嬢? 大丈夫かい?」


「え、ええ……大丈夫ですわ。お見苦しいところを見せてしまって申し訳ございません」


 やっべ~、マジで今のは吐きそうだった。

 しかも私の頬に手を添えてきたから、悪寒が全身を駆け巡っている。


 寸止めしてなかったら、今頃は男の服に今朝食べたパンの嘔吐物が降りかかるところだった。

 

 あれ、よくよく考えてみればそれもありだったかもしれないのでは?


 そんな地獄のような時間を消費しつつ、私は彼と親交(笑)を深めた。

 それからご両親との挨拶などを経てパーティーも終わりの時間を迎えた。


「お嬢、パーティーの方がいかがでしたか?」


「もう吐き気しかない。今すぐ帰ってトレーニングで浄化しないと」


「だいぶダメージを負っていますね……」


「あら、残念ながら致命傷よ」


 あんなキザ男に数時間付き合ってたら、頭がイカれてしまう。


 雰囲気や話し方はクソ兄貴と似たりよったりだが、自分に酔っている分、兄貴よりもタチが悪い。


 とりあえず気分は底をついている。


「フィオレンティナ嬢」


 と、ここで元凶の男がやってきた。


「クレストさん、何かございましたか?」


「いや……もしこの後、お時間あれば君と王都を回ってみたくてね。ご両親には許可は取れたのだが、君はどうかなと思ってね」


 クレストは少し照れくさそうに答える。

 そんなの速攻で拒否……したいところだが、そういうわけにはいかない。


「謹んでお受け致しますわ。私もクレストさんとより親交を深めたいと思っておりましたの」


 またも心にもないことを言う。

 今日だけでハゲるんじゃないかってくらいストレスがたまりそうである。


「それは良かった。では後ほど噴水広場で落ち合おう」


 クレストは嬉しそうにそう告げると、足早に去っていった。


「はああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


「お嬢、ここでのクソデカため息は控えてください」


「大丈夫よ、誰も見ていないのだし」


「万が一ってこともあるじゃないですか。この前の魔物騒動のように」


「うっ、そう言われると言い返せないわね……」


 でもため息もつきたくなる。

 あの地獄の時間に延長戦が追加されるわけなのだから。


「こうなったらこの状況を利用させてもらうわ。あの男の化けの皮を剝いでやる」


「そうはいいましても、実際どうだったのですか? 彼と話してみて」


「最高に気持ち悪かったわ。総評すると、自分に酔ったただの変人ね」


「変人ならむしろお嬢と相性が良いのでは?」


「あぁん?」


「ナルシスト過ぎるのもよくないですよね」


「だろ?」


「イエス」


 とりあえずこの状況をフルに活用しよう。

 

 それに、私の勘が言っているのだ。

 奴は危険だと。


「バトラー、貴方は証拠を押さえるための準備をしておきなさい。徹底的に調べ尽くしてやるわ」


「承知致しました」


 そんなわけで、私はバトラーと共にキザ男の調査に移るのだった。

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