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13.脳筋令嬢の婚約相手


「待たせたわね」


 シャワーを終えた後、私はラフな服装に着替え、部屋に戻った。

 ラフな服装といってもパジャマだけど。


 普段着とかゴワゴワ、ヒラヒラしててあまり好きではないのだ。

 ぶっちゃけ、下着一丁の方がマシまである。


「おかえりなさいませ。ご希望の紅茶を用意しておきました」


「ありがとう」


 私は机に向かうと、クソ親父から貰った資料を開く。

 

「クレスト=フォン・アゼルバード……まさか相手がアゼルバード家の人間だったとは」


「知っているの?」


「逆にご存じないのですか? 実は一度王家主催のパーティーでお会いしたこともあるのですよ」


「覚えてないわ。だって興味がないもの」


「貴方って人は……」


 バトラーは呆れた表情を見せる。

 

 仕方がないじゃない。本当に興味がないのだから!


「アゼルバード家は正真正銘の王族公爵ですよ。序列こそ下位ではありますが、王位継承権を持った良家中の良家です」


「ほえ~」


「本当に興味なさそうですね」


「なさそうというか、ないの」


 嘘じゃなく真実である。

 バトラーが言うに王族直系の公爵家が今回のお相手らしい。

 

「王族公爵からの申し出はすごいことですよ。臣民公爵からの申し出はあれど、逆のパターンはそれほど前例がなかったはずです」


「ほえ~」


 我が家も公爵家ではあるが、功績によって王家から爵位を賜った成り上がり貴族なので臣民公爵という位置づけになる。

 まぁ簡単にいうと公爵家でも王族直系かそうでないかで区別されるというわけだ。


「どうでもいいけど、次のページに移るわよ」


 次のページを開くと、婚約相手の写真とプロフィール的なものが載っていた。


「見るからにスカした男ね」


「スカしたって……」

 

 綺麗な金髪に透き通るような蒼い瞳、爽やかな笑顔で写っているその男は見るからに好青年といった感じだった。

 年齢は私よりも8個上の25歳のようで、現在は王立魔法大学の研究員として籍をおいているらしい。


 私の経験上だが、怪しい匂いがプンプンする。


「王立魔法大学を飛び級で卒業の後、騎士博士を取得。その後、その腕を教授に認められ同大学の騎士研究院に入学……ですか」


「ほえ~優秀なのね」


「そんなこといってますが、お嬢も似たような道を辿ってますからね」


「そんなのもう古の記憶だから忘れたわ」


「古って……あと椅子の上で胡坐描きながら鼻をほじらないでください」


「いいじゃない。他に誰もいないのだし」


「本当に貴方って人は……」


 他にも色々見てみるが、とりあえず優秀な経歴を持ったすごい人だということが分かった。

 

「これはフェランド様もお認めになるのは当然ですね……相手がアゼルバード家ともなると尚更です」


「ふん、どうだか。こういう男に限って裏でコソコソやってるどうしようもない男の可能性が高いのよ」


「とてつもない偏見ですね」


「あら、私の直感を結構あたるのよ?」


「まぁそれも否めませんが、とりあえずまずはお見合いパーティーを越えなくてはいけませんね。それは避けては通れないので」


「はぁ……めんどくせぇ」


「お嬢、言葉遣いが悪いですよ」


「めんどくせぇ……ですわ」


「いや、直すのはそこじゃないんよ」


 そんなこんなでとりあえず一息つくために紅茶を飲もうとした時だった。


「我が愛しの妹よぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 廊下からドスドスドスという音と共にバタンを勢いよく扉が開くと、兄のオリバーが入ってきた。

 

「おい、ノックくらいしろや」


「お嬢、裏が出ちゃっていますよ」


「あら、いけない。うふふ」


 バトラーの耳打ちで訂正するが、クソ兄貴の耳には入っていないようだった。

 それくらいに慌てている。


「お兄様、いきなりどうなされたのですか? そんなお顔までされて……」


「どうしたもこうしたもない! 妹よ、婚約するという話は本当なのか!?」


 肩をガシッと掴まれる。

 こいつが実の兄じゃなかったら、今頃殴り飛ばしているところである。


「本当ですよ。お父様からお聞きしたのですか?」


「いや、母上がそんなことを言っていたものだから……そうか、これは父上が持ってきた婚約だったのだな」


 そう聞くと、少し冷静になったのか暴走が止まった。

 するとクソ兄貴の目線が婚約者の資料の方へと向いた。


「む? こいつが我が愛しの妹の婚約相手か!」


「ええ、そうみたいです」


 いちいち「愛しの」ってつけるのやめてほしい。

 しかもこいつ、外でも平然と言うから恥ずかしくて仕方ない。


「見るからにスカした男だな」


「ふふっ……お兄様ったら、お口が悪いですよ」


 その点は激しく同意する。

 同時にやはり兄妹なのだということを知って、軽くがっかりしたけども。


 脇ではバトラーが「お前が言うな」と言わんばかりの視線でこちらをじーっと見てくる。

 とりあえず視線はそらしておこう。


「クレスト=フォン・アゼルバード……どこかで聞いたことがあるような。あっ!」


 クソ兄貴は何かを思い出したのか、ポンと手を叩いた。


「そういえば、魔法大学に在学していた時の後輩にそんな名前のやつがいたな。王族公爵という身分でありながら、平民とも分け隔てなく接していたという人格者だったらしい。その上、優秀なものだから人気だったと学友から聞いたことがある」


 しかし兄貴は不穏な表情で続けた。


「だが、それに反して悪い噂も聞いたことがあったな」


「悪い噂ですか?」


「なんでも女癖が悪かったらしい。平民貴族関係なしに多数の女性を誑かして遊んでいたってな。ただ証拠もない噂だったから誰も信じなかった。優秀な彼をやっかんだ者の根も葉もない噂だということを学友は言っていたよ」


「そうだったのですね……」


 その話を聞くと、余計に疑いが増した。

 やはり……注意をしておくべきだろう。


「とはいえ、キミの過去の状況を鑑みた上で今回の婚約を父上が許したのであれば、ボクは信じるほかない。愛しの妹に男ができるのは大変虫唾が走るが、こればかりは仕方ないことだからね」


「そう……ですね」


「ま、仮に婚約してアゼルバード家に嫁いでもボクは毎日会いにいくから心配しなくて大丈夫だよっ!」


「いえ、それは結構です」


「まさかの拒否!?」


 やめてほしい。

 そんなことしたら私の尊厳も失われるし、バルク家も色々な面で疑われる。

 そうなると、クソ親父が黙っていないだろう。


 負の連鎖で面倒なことになるのは必然だ。


「ま、まぁ……突然の婚約で不安になるのは分かるけども、ボクはいつでもキミの味方だからねっ! この美しい胸毛に――」


「お兄様、また執務室送りになりたいのですか?」


「すみません」


 汚いブツが出てくる前に止める。

 今の機嫌でそんなもんみたら、多分ぶっ飛ばしてしまうだろうから。


「とりあえずボクは陰ながら見守っているよ! じゃあね!」


 そういうと、クソ兄貴は逃げるように去っていった。


「オリバー様も相変わらずですね……」


「全くよ。この家の男たちは変人しかいないのかしら」


「変人……」


「あ、貴方だけは別よ! 貴方にはその……昔から迷惑をかけっぱなしだったし……」


 隣でしゅんとするバトラーを宥める。

 これは嘘ではなく本心だ。


 彼には本当にお世話になっている。


「いつもありがとうね、バトラー」


 そういうとバトラーは眼孔が開き、驚くような表情を見せてきた。


「珍しい。あのお嬢が素直にお礼を言うなんて……」


「あ?」


「すみません、出過ぎた口を叩きました」


 一言多いところはアレだけど、心から感謝していることは変わりない。

 彼がいなかったら、今頃色んな男の毒牙にかかっていただろうし。


「とりあえず、今のクソ兄貴の話が本当なら要警戒ね。うまいこと証拠を突きつければ婚約破棄まで持っていくことも可能だろうし」


「先ほどの話を聞くと……少し注意をした方がいいかもしれませんね」


 そうなると俄然やる気が出てきた。

 闇に一筋の光が差したかのような感覚だ。


「そういうわけでバトラー、貴方にも協力してもらうわよ」


「承知致しました」


 そんなわけで、私はバトラーと共にパーティーに向けて準備をするのだった。

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