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ほとりでの朝

 カンカンカンカンカーン――――!


「おらー! 全員――! あさだぞー!」

「なんだなんだなんだ!?」


 セヴァンは毛布を引きはがしながら跳び起きた


「ディエン!?」


 視線の向こうでは、全員が寝ている中の中心部で、鍋の裏をおたまで叩きまくっているディエンが居た。


「おきろ! 飯の時間だ!!」

「確かに何かいいにおいがします!」


 操舵手――改めルーロンは、寝起きのその瞬間にその言葉を発した。


「何ですかディエンさん!?」


 テルンが眼鏡をかけながら、体を起こしている。


「これもドワーフの風習かなんかですか!?」

「違う! なんとなくテンションが高いからたたき起こしてるだけだ!!」

「なんなんですか!?」


 朝からいつもの二人の問答が繰り広げられていた。


「おはようございます」


 ルチフは全く動じない様子ですでに起きていた。この中で一番静かな起床だった。


「さー! 飯だ! 朝いちばんの飯はうまいぞ! なかなか食べられんからな!」


 全員の中心に立つディエンの足元には、すでに湯気を立たせる。あつあつの鍋が置かれていた。


「まあ昨日の残りに新しく作ったのを混ぜただけなんだがな!」

「ホントにドワーフっていうのはノリと勢いで生きてる種族なんです!?」


 テルンが毛布をたたみながら言う。


「じゃあテンション高かったらどうすんだ? テンション高いのに陰気臭くおきねえといけんのか?」

「もうちょっとおしとやかに……」

「男だろうが! 男ならテンション高かったら踊るだろ!」

「別に踊るとかの話してませんよね!?」


 テルンと激しい論争を繰り広げながらも、ディエンはてきぱきと、皿にそれぞれの分の料理を盛り付けていく。


「ありがとうディエン」

「いっぱい食え!」


 とセヴァンに。


「ありがとうございますディエンさん!」

「女ならたらふく食え!」


 と操舵手に。


「ありがとうございます」

「そういえばなんだかんだお前が一番食ってるなルチフ」


 とルチフに。


「……ください」

「男なら楽しく食え!」


 とテルンへ。

 こうして、一人を除き、全員に出来立ての魚煮込みが渡された。


「ん……? レーゼンはどこ行った?」

「あ、そういえば……」


 テルンがスプーンを手にしながら疑問に言う。

 それにセヴァンが答えた。


「夜見回りが終わったときに帰ってきたときは、猫と遊んでいたけど……」

「ねこ? なんでそんなもんが?」


 ディエンが最後に自分の皿に料理を盛り付けながら聞いた。


「昔ねこと遊んだことがあるとか言っていたかな……」


 セヴァンはうーんと考えた。


「ルチフさん、分かりますか?」


 テルンが聞いた。


「はい……いました。……百メートルほど離れたところにいます」

「どうしたんだろう」

「こちらに向かっています。猫を連れていますね。昨晩戯れていたねこかと」

「エルフの猫、ということですかね?」


 テルンが言った。


「知ってるのか?」

「なんですか、それ?」


 セヴァンとルーロンが聞いた。


「伝承によると、人間が大昔犬を飼いならしていたように、その対としてエルフは猫を飼っていたそうなんです。それを思い出しただけです。どこまでがほんとか分かりませんし、彼女も猫に興味を示していたようなことはなかったと思いますが……」

「ごめんね。遅れたよ」

「にゃー」


 木々の向こうから、レーゼンと猫の声がする。


「おーい早く! 飯が冷めるぞ!」


 ディエンが口の横に手を当て、声を張り上げる。

 するとレーゼンが気持ち小走りになった。


「ごめんね、このこと遊んでてさ。やっぱり、何か懐かしいんだよね」


 鍋を囲む全員の一角に入りながら、レーゼンは言った。


「にゃー」


 猫がその足元に寄り添い、足に頭を擦り付ける。


「随分とスリムな猫ですね?」


 テルンが興味深そうに言った。


「ルチフがエルフの猫って言ってたよ」

「へえ。そうなんですね」


 ルーロン(操舵手)がやっぱり、と言った。


「じゃ、食べようか」


 起きてからおおよそ一〇分ほどで、食事が始まった。


「その猫、名前はなんていうんだ?」


 ディエンが最初の一口目を咀嚼して飲み込んで言った。


「んー。あいよ」

「ないよ、だそうです」


 相変わらず口にものが入った状態で喋るレーゼンを、ルチフが補足した。


「レーゼンが早起きしてまで一緒にいる猫というぐらいですから、すでに名前でもあるのかと思いましたが」


 テルンが飲み込んでから言った。


「あいよ。別に、わあいのえこっていうわけあないし」

「私の猫っていうわけじゃないし、だそうです」

「まあ普通、こういう所に野生の猫は居ませんよね」


 テルンはスープを一口すすった。

 ディエンの料理に文句を言いながらも、それを口に含んだ彼からは美味だとしっかり感じている気配がする。


「普通は魔物に容赦なく狩られるからね。野生で生きていられるのは原産地の砂漠の国ぐらいのものだと思うよ」


 レーゼンの言う砂漠の国というのは、かつて魔族の大陸の北東端にあった、当時としては五本の指に入った王国のことだろう。今は魔族や人間との戦争によって衰退し、最終的に魔族の領域となってしまっているが。しかしそれもそれなりに最近(とはいってもエルフ感覚で)の話なので、レーゼンはそれの事実を知らない可能性がある。

 その砂漠の国、マスリーは猫を国家規模で好む国だった。その国で好まれた野生の猫の原種が家畜化され、現在大陸中で一二を争う愛玩動物である猫になっている。

 猫は魔物ではないし小型の動物なので、人間によって守られた領域でネズミを狩るぐらいしかできない。野生に出ても魔物や大型動物の脅威から逃げながら細々と同じくネズミを狙いながら生きるしかないために、警戒心も強い。

 レーゼンに近寄ってきた猫は、おそらく誰かによって飼いならされ、脱出してきた猫だと考えられた。

 それもたいした怪我がないのを見るに、最近脱してきた猫なのだろう。


「あいよ」


 レーゼンの皿を受け取り、ディエンが大盛にさらに盛り付ける。

 ディエンの料理が出るようになってからは、レーゼンはそれなりの大喰おおぐらいになっていた。


「ディエンさん、私も御願いします」


 ルーロンが皿を差し出し、ディエンが盛り付ける。


「質問してもいいですか?」


 ルーロンが皿を受け取ってから聞いた。


「なんだ?」

「ディエンさんって、どこから来たんですか?」

「ん? どういうことだ?」

「その、仕事柄ダヌビウス川の端から端までを行き来するんですけど……そのなかでドワーフの方をなんどかお目にかけたことがあるんです。ですが、ディエンさんのような雰囲気のドワーフは初めて見たというか……」

「ああそういう事か。俺はこの大陸のドワーフの出身じゃないんでな。このダヌ何とか川も初めて見たぐらいだ」

「では、もしかしてそのハンマーはやはり……ウーツ鋼ですか?」


 彼女はそこら辺の木に立てかけてあるディエンの戦斧ウォーハンマーを指さした。


「そうだ。よくわかったな」

「一応交易船にも乗ったことがあるので……でも、かなり珍しく貴重な斧であると聞きます。その分性能も素晴らしいものだと聞きますが……」

「ああ」


 ディエンは立ち上がり、立てかけられたハンマーを手にする。

 ゆっくりと持ち上げた。

 それをひと撫でして見せる。


「こいつは龍にも傷をつけた代物だ」

「龍をですか!?」

「ああ。二度もな」

「すごいです……!」


 ルーロンがスプーンを持った左手をぶんぶんと振った。最初よりかは控えめだった。

 どうやら興奮すると手を振るくせがあるらしい。

 肉体的には二〇を超えているはずだが、精神的には幼い所があるようだ。


 ディエンは戦斧を元に戻して、再び鍋の前に座る。


「それを買ってくれたのは仲間たちだ。それに龍を仕留めたのはセヴァンで、そのきっかけを作ったのはテルン。俺たちが駆け付けるまで龍を弱らせてくれたのが、レーゼンとルチフだ。俺だけの力じゃない」


 そう言ってディエンがスープを口にする。


「流石勇者パーティ……! すごいです!」

「ははっ、やっぱり素直にうれしいね」


 セヴァンが嬉しそうに笑う。


「ルーロンさんは、どこから来たんです?」


 セヴァンが聞く。


「あんまり聞かない名前の響きだけど」

「あ、やっぱりそう思いますか?」


 口に近づけていたスプーンをおろす。


「私、実は多分ディエンさんよりも東の出身なんですよね。顔は西側ですけど」

「多分っていうのは?」


 セヴァンは煮込みを一口食べた。


「両親の片方が西の大陸で、もう片方が東のナントカっていう国の出身らしいんですよね。あんまり話してくれないから分からないんですけど、一応東の大陸の血が入っているらしいんです。私はその一人娘なんですけど、名前は東の大陸の出身の父親がつけたんです。意味は知りません」

「ディエン以外に東の大陸の出身の人に会うのは初めてだ。行ったことはあるのかい?」

「生まれは東の大陸らしいんですけど、記憶にはないですね。物心ついてからずっとダヌビウス川の流れに生きてます」


 ふふん、とルーロンは鼻を鳴らした。うまいこと言ったぞ、という気分なのだろう。


「にゃー」


 ねこが鳴いた。

 何やら物欲しそうな気配を漂わせて、レーゼンを見上げている。


「ディエン、これねこに食べさせてもいい?」

「うまそうに食うならだれでも構わんぞ、と言っただろ、レーゼン」

「そういうわけじゃなくて、猫に食べさせて悪いものとか入ってる?」

「魚に毒が無い限りは大丈夫だとは思うが」

「猫の分も盛り付けてくれる?」

「あいよ」


 ディエンが渡してくれた料理を置くと、猫がそれに近づき、様子をうかがい始める。

 鼻を近づけて匂いを嗅ぐと、おそるおそる舌を伸ばし、汁を舐める。

 それを味わい、異常なしと見定めたのか、今度は遠慮なく口を開けて食べ始めた。


「どうやら俺の料理は猫にも通用するらしいな。え?」


 ディエンはテルンの方を見た。


「……なんですか。今日はもうおかわりいりませんよ。朝はそんなに入りませんし」

「猫すら素直に俺の飯を食う。文句もないみたいだ」

「…………」


 テルンは華麗にスルー(無視)した。


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