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ビストリタからの旅出

 勇者一行が出発してから七ヶ月と数日。ラザーヌディア王国。カーパティア山脈西側麓、ビストリタ町。


「勇者様、その一行の皆様、本当にありがとうございました」


 ビストリタ町の門の前で、初老の男は深々と頭を下げた。


 彼はこの町の長の準貴族、ファルイ・ビストリタだった。


「私も、この町も…………あなた様たちがいなければ、滅んでいたでしょう。本当に、ありがとうございました」


「当然のことをしたまでです。復興もうまくいくといいですね」


 セヴァンは微笑んで声をかけた。


「ええ。おかげさまで、順調に行くものと確信しております。勇者様が使命を終え、戻ってくるときには、ぜひこの町を訪れてください。この町の住民全員で、盛大に歓迎いたします」


 ファルイ・ビストリタは一歩歩み寄り、セヴァンに手を差し出した。


 互いに手を交わし、二度力強く振る。


「ええ。楽しみにしています」


 ファルイの手に両手を添えて、セヴァンは言った。


 ファルイの後ろには、かつてクリューヴの配下にされていた兵士たちがずらりと並んでいた。全員が最初にセヴァンたちと交戦した者たちだったが、今度の彼らには敵意など微塵もない。


 そして、その後ろに子どもたちもいた。クリューヴに親を消され、殆どが孤児となった子どもたちだった。


「それでは、旅のご無事を祈っております」


 最後に、ファルイは勇者一行にもう一度、深々と頭を下げた。


 その後ろでは兵士たちが一斉に敬礼をした。


 勇者一行は踵を返し、門へと歩いた。門は兵士たちによって開かれ、セヴァンたちはそれをくぐる。


「ゆうしゃさま!」


 呼ばれ、セヴァンは振り返る。


 子どもたちが、兵士たちを横切り、かけてきていた。兵士たちは止めようとしたが、子どもたちを止められるはずはなかった。


 何十人もの子どもたちが、セヴァンたちの周りに群がる。


「ありがとう、ゆうしゃさま!」


「これもってって!」


「みんなこれからもがんばってね!」


「まおうたおしてー!」


 口々にお礼を良い、子どもたちが自分たちで丹精込めて作ったものを手渡していく。


 セヴァンだけでなく、テルンにも、ディエンにも、レーゼンにも。ルチフだけなぜかむらがる子どもが少なかったが、来る子はなぜだか殆どが女児だった。


「ありがとう、みんな。ラトスくん、メラクちゃん、エリクアちゃん」


 セヴァンはしゃがんでそれぞれの子どもに声をかけ、品を受け取っていた。お守りや花束からどんぐり細工に至るまで、様々なものがあった。


 そして彼は会った全ての子どもの名を覚え、呼んでいた。


 レーゼンには男児が多かった。贈呈品には主に花や花の細工品が多かった。それを微笑みながら、それぞれ受け取っていた。


「まほう! まほうみせてよ!」


「いいよ。どんなのがいい?」


「変なかたちのまどだすやつ!」


 それでレーゼンは防御魔法を空中に展開して、子どもたちはそれに乗って遊んでいた。


「みなさん、ちゃんと早寝早起きして、いい子に育つんですよ」


「うん! テルンおじさん!」


「おじ……!?」


 あと五年もすればおじさんな年齢の彼は衝撃を受けながら、子どもたちを笑顔で相手にしていた。


「そんなにおじさんに見える……?」


「わかんないけど、おじさんみたいだし……?」


「エッ……」


 爆弾を投げてきた女の子は、悪びれもなく言っていた。テルンのメガネに衝撃でヒビが入ったように幻覚が見えた。


「ディエンおじさん! もちあげて!」


 一番子供に身長が近いディエンには、たくさんの子どもたちが集まっていた。


「よぉーし、どうだ!」


 子どもたちを両腕に座らせて持ち上げ、その力で遊んであげていた。器用なことに肩や兜の上にも乗っていた。


 強面のディエンだがテルンよりも年上の彼は、何か大人の包容力というものがあるのかもしれない。


 その仲間たちの様子を、セヴァンは振り返って笑い、幸せそうな気配を出していた。


「あの、おにーさん…………」


 仲間に視線を向けていたルチフはハッとした。


 彼の前に立った女の子が、数本の花を手にしていた。


「どうしましたか?」


 ルチフはしゃがんで女の子に目を合わせた。確か、名前はスクルと言ったか。


「あの……これ……」


 と言って花を差し出してくる。


「私に?」


「うん…………」


 なにか恥ずかしそうにしていた。


 ルチフはそれを受け取り、微笑んで見せる。


「ありがとうございます」


 すると女の子が、ぱあっと顔を輝かせた。


「あーっ! スクルちゃんずるい!! わたしも!!」


 ルチフの近くにいた女の子の一人が叫ぶと、他の女の子たちが、こぞって集まってくる。


「おにいさん! これ! おねがい!」


「わたし! わたしのも!」


「まってわたしも!!」


 あっという間に十人近くが集まってきた。その全員が花を持ち、ルチフへと差し出してくる。


 その一人ひとりに対応して、花を受け取り、お礼をいう。


 そうすると、殆どが恥ずかしそうに喜んで見せる。


「ルチフ、女の子に大人気だね」


「はい」


 まだ子どもたちに囲まれながら、セヴァンが腕いっぱいに品物を抱えながら言った。


 その近くにいる女の子が声を上げる。


「わたしはセヴァンさまがいいの!」


 するとまた別の一人が言う。


「ルチフおにいさんの方がかっこいいじゃん!」


「ゆうしゃさまだよ!?」


「わたしはやくしょくとしてじゃなくてルチフおにいさんがいいの!」


 推し論争のようなものが始まっていた。


 実際には十代VS三千代なのだが、セヴァンはともかくルチフに対しての恋は成就しそうにもない。


「あのーわたくしは……?」


 横からテルンが、自分を指さしながらやってくる。


 しかし誰も反応しない。数の外らしかった。


「ははっ、テルンは神父さまだろ? 女の子が良さを分かるにはまだ早すぎるんじゃないか?」


 セヴァンが笑って慰める。

 その気配は心底楽しそうだ。


「慰めになりませんよ……」


 とほほとテルンは身を引いた。


 こうして、子どもたちのあつい送迎を受け、勇者パーティは長く滞在した町をあとにした。


 今はまだ彼らの功績を称える銅像のようなものはなにもないが、その町の人々全員が、彼ら英雄の存在を胸の内で称えていた。



日本語で失礼します。

今回も最後まで読んでくださりありがとうございます。良ければ評価やご感想などいただければ作者は泣いて喜びます。

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