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エルフVS老魔五柱

 紅玉の頭環髪留めクンネータがきらりと輝く。


 展開された五門の魔法陣。


 老魔五柱ハメーシュエ・シャドクリューヴは、腕を伸ばして交差させ、妖しい笑みとともに、魔法を行使した。


 魔法の詠唱はなされぬまま、魔力の奔流が顔を出す。

 陣は、勇者一行のそれぞれを捉えていた。


 レーゼンは防御魔法を行使しようとする。今となれば、その元・魔族の防御魔法は十分に実践レベルで使えるほどになっている。

 だがしかし、横に五メートル以上の範囲で浮遊している全員を包み込むには、まだ荷が重かった。


 レーゼンはとっさに、自らを含める近くの――セヴァン、ディエン――には防御魔法を貼り、テルンを飛行魔法で横へ吹き飛ばした。自衛手段を持つルチフは言うまでもない。


 一瞬前にテルンが居た場所を魔力の砲撃が過ぎ去り、防御魔法には直撃した。


 テルンに対して、魔法陣は深追いはしなかった。しかし、捉えた相手の魔法陣には、容赦はしなかった。


 バリバリと、積層展開されたレーゼンの防御魔法を、魔族の魔法が表面から引っぺがしていく。

 レーゼンの魔法はオリジナルのものとは少し様相が違う。根本的な場所、魔法理論や構成はおおむね同じであったが、魔族の物が手のひらを広げたほどの六角形と五角形の組み合わせで展開されるのに対し、レーゼンの物はより細かいもので構成されていた。そしてその形も無造作で法則性がないように見える。


 だから次々に、当たった場所から軽くはがされていく。


「ルチフ、みんなを」


 珍しい若干の険しい顔でレーゼンが言う。防御魔法にほとんど全力を裂く片手間で、なんとか飛行魔法を行使し、全員(どこかへ飛んで行ったテルン除く)を自分のもとへ集めようとしていた。

 ルチフはその意をくみ、自らで防御魔法を展開して攻撃を受けながら、レーゼン目的の補助をする。


「っ……!」


 仲間を近くに集めるにつれて、魔法陣もそれに合わせて集中していく。攻撃の威力はさらに増していく。

 ディエンとセヴァンを、レーゼンの後ろへと移動させる。そのころには、レーゼンはもはや防御魔法の行使に精いっぱいになっていた。

 霊前の代わりにルチフが全員に飛行魔法をかける。


 防御魔法を曲面展開にし、勢いよく表面からはがされていく防御魔法を内側からどんどんと新しく生成していき、また表面へと移動させていく。サメの歯が生え代わるような過程だった。


 クリューヴの行使している魔法は〚ラハドエラヴ〛。レーゼンが苦戦しているのは、彼女の実力不足でも防御魔法の不備でも欠陥でもなんでもなく、その貫通魔法の性質によるものだ。


 杖を前に押し出し、五門の〚ラハドエラヴ〛の威力を持つもはや極太の砲撃と化した魔法の奔流と、全力の押し合いをしている。


 生成、崩壊、生成、崩壊、生成、崩壊、生成。


 気の遠くなるほどの複雑な術式の防御魔法を、気の遠くなるほどの速さで、気の遠くなるぐらいに生成を繰り返す。


 たったの一瞬でも気を抜けば、ギリギリで保たれるこの均衡は、一瞬にして崩れ去るだろう。


 しかし限界は近い。レーゼンの展開する防御魔法がどんどんと端から削られ短くなっていっている。相手はこのまま押し切るつもりのようだ。

 ルチフがレーゼンの横へ移動し、削られ短くなった防御魔法の端から〚ラハドエラヴ〛が漏れ出ぬよう、レーゼンの防御魔法の端を取り囲むように六角形を展開させ、補強する。


 クリューヴのその顔には、美しく妖艶な笑みがたたえられていた。


吹き飛びなさいプラーエウェー


 その言葉を理解することが出来たのは、ルチフだけだった。


 一瞬、砲撃が強化された。

 ほんのちょっと力を込められた、その一瞬。

 ぎりぎりの綱引きが崩壊した。


 魔力砲が、ほんのわずか。防御魔法の中心部、握りこぶしほどの大きさ。ついに、貫いた。


 エルフに、それが届く。

 ルチフが空いた穴を修正したころには、もう遅かった。


「――――レーゼン!!」


 勇者の絶叫が響く。


 レーゼンの左横腹が、半月のようにくりぬかれていた。

 彼女は、セヴァンとディエンに魔法が当たらぬよう、一瞬で杖を振り、飛行魔法で全員を散開させていた。

 そのおかげで、彼女以外、誰も傷つかなかった。


「ルチフ――――」


 彼女はルチフを読んだ。首だけで振り返ってそれを見る。

 その目は苦痛に歪んでいるかと思いきや、しっかりと見開かれ、何かを伝えようとしていた。


「はい」


 ルチフはほとんど崩れかかったレーゼンの防御魔法を受け継ぐように、自分の防御魔法を展開する。

 すぐにレーゼンの防御魔法がすべて吹き飛ばされ、ルチフの防御魔法に、〚ラハドエラヴ〛は貪欲に襲い掛かった。

 レーゼンの時と変わらず、六角形は表面からまるで薄紙のように吹き飛んでいった。


 ――――なるほど。そういうことか。素晴らしい。


 魔王は独り心の中でレーゼンを称賛すると、左手を後ろへ向けた。


 全員に飛行魔法をかける。そして、その方向は全員でたらめだ。


 一瞬のち、ルチフ除く全員が、風を切る音だけを残して急速に遠くなり、小さくなっていった。飛行魔法はある程度継続するようにかけられている。おそらく数百メートルどころか数キロは飛ぶだろう。


 後に残ったのは、二つだけ。


 魔王と、老魔五柱ハメーシュエ・シャドクリューヴ。


 なおも〚ラハドエラヴ〛を放ち続けるクリューヴに、魔王は語り掛けた。


「君の意図はくめたかな?」


 魔王はにやりと笑って見せた。


「想像を上回りましたわ」


 魔法越しに答えるクリューヴは、心底楽しそうに、微笑んだ。


じゃあエン吹き飛ばしてくれプラーエウェーメ


 魔王が言うと、クリューヴがうなずき、体の横に直径二メートルを超える魔法陣を展開する。


それではサーハー


 直径二メートルの強力な魔力砲により、魔王は防御魔法ごと飲み込まれる。

 魔力砲は何十秒と放たれ続け、魔王の眼下を目で追いきれないほどの速度で大地が流れて行った。


「楽しみだ」


 魔王は吹き飛ばされながら微笑んだ。


 彼の背後には、堂々と壁のように屹立する、数時間前にようやく超えたばかりのカーパティア山脈があった。

Sleeeeeeeeeeeeeeeeepy!!!!

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