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山の向こうの町

勇者一行が出発してから六ヶ月と三週間。ラザーヌディア王国。カーパティア山脈西側麓。


勇者一行はカーパディア山脈を越え、すっかり雪も溶けた林の中の獣道を歩いていた。


渡り鳥たちが帰ってきたのか、林の中では鳥のさえずりが聞こえ、暖かい季節の到来を感じさせる。


木々の隙間から差し込む日光は暖かく、レーゼンもようやく防寒着を脱げるようになってきた。


「ここらへんに村があったはずだよ。龍がいた町と比べれば随分と小さいけど」


果たして何十年、何百年前の情報か。平然とレーゼンは言うが、人里が魔物や自然災害によって潰れるというのは別段珍しい話ではない。


魔王がここを通りかかったときには、その村は存続しており、二百年程前と比べて数倍の規模になっていた。


「あ……あれかな」


レーゼンが林の隙間の向こうに見えるものを指差す。

背の高い石の塀と、そこからのぞく建物が見える。


「村にしては、随分と規模が大きいんじゃないのか?」


先頭を歩くレーゼンに、セヴァンが後ろから聞いた。


「百年以上前の情報だからね。村の一つや二つ、町にもなってるでしょ」


「エルフの感覚はまだ難しいね……」


半ば諦めたように言うセヴァン。それにレーゼンは言葉をかける。


「人間ってさ、思わぬところで発展が早いんだよね。魔法の質とかは魔族や他の種族にはまだ劣る面があるのに、研究開発、改良の速度は驚くほど速いんだよ。それにこの町も……私が生まれた場所は何十年経っても変わらなかったのに、ここはたった百年程度でこんなに大きな場所になった」


林を抜けると、ちょうどその石塀の入口の方に出たようだった。見張りらしき人間が、大きな金属の門の両側に立っていた。鉄の甲冑と槍を装備し、直立不動で警備をしている。


林を出た勇者パーティの姿を認めると、一人が「止まれ」と粛々と言い、近づいてくる。


その前にセヴァンがレーゼンの前に出、門番と相対する姿勢を取る。


背の高い、睨めつけるような表情をした男だ。身長は一九〇センチ近いかもしれない。


「名乗れ」


睨めつけるような顔で、門番が言い放つ。


「カルラーム王国の勇者、セヴァン」


セヴァンが粛然と答える。


すると門番の眉がぴくりと動く。


「証明するものは?」


セヴァンはベルトに付いた巾着から、冒険者手帳を出して広げ、門番に渡した。


門番はそれをしばらく見つめ、セヴァンに手渡す。そして、ゆっくりと口を開いた。


「勇者セヴァン。申し訳ないが、少し待ってもらうことになる。よろしいか?」


「もちろん」


門番は踵を返し、門へ向かい、そのまま町の中へと入っていった。


「随分と厳しいですね」


テルンがセヴァンに耳打ちする。


「仕方がないよ。門番としては良い姿勢だ」


セヴァンが言うと後ろからディエンが口を挟む。


「待合室くらい用意してほしいものだがな」


久々の辛口だった。


しばらくして門番が戻ってきた。後ろに何十人もの鎧の兵士を連れて。


「何だ」


セヴァンだけでなく全員がそれに警戒する。


そしてそのまま、門番を中心として、勇者一行に向かい合うように展開した。


「セヴァン――」


なにかに気づき、レーゼンが言おうとする。


「やれ!!」


遮るように、門番が叫んだ。兵士全員が剣を抜き放つ。


もう疑いようもない。向こうには敵意がある。


突撃してくる兵士たち。しかしセヴァンは剣に手をかけたまま、止まっていた。


「セヴァン!」


レーゼンが呼び、セヴァンの顔がそちらに向く。その顔は、動揺と恐怖の入り混じった表情だった。


「みんな――」


とっさにセヴァンの喉から声が出るがそこで止まる。

人間を傷つけたくない。だから攻撃しないでくれ。

それが言いたかったことだろう。


後ろを向いたセヴァンの背に、兵士の一人が来襲する。


とっさに振り返り、剣を抜いてそれを受け止める。


金属のぶつかり合う澄んだ音が響く。


しかし相手は一人だけじゃない。横から何人もセヴァンを斬ろうとやってくる。


兵士の剣を力で押し返し、体制を崩させ、剣を振って手から武器を弾き飛ばす。そして横から迫りくる兵士達の剣を高速の剣さばきで捌き、体制を崩させる。さすがは勇者と行ったところか。しかし敵はあと何十人もいる。


「なんなんだ」


ディエンがハンマーを片手に、後ろにいる自分たちを狙う兵士たちと相対する。


「ふっ!」


兵士が剣を振ると同時に、ディエンはハンマーをより速い速度で振り抜き、剣を側面から叩いた。兵士の手から、他が吹き飛んで柄だけになった剣が一瞬遅れて飛んでいく。


「どうするセヴァン!」


次の兵士の相手をするために、ディエンが一歩前に跳ぶ。


「この兵士たちの目的はわからないっ……!」


セヴァンが一番多くの兵士を相手にしていた。


前の兵士五人が一気に同時に剣を振る。しかし一瞬、セヴァンの剣がぶれたかと思うと、相手の剣が全て手を抜けて明後日の方向に飛んでいく。


「でも傷つけたくない!」


セヴァンが鞘に手をかけ、素早い動作でそれをベルトから外し、一気に振り抜く。


ガンッ、と音を立てて、左の二人の兵士が後ろへ倒れる。返す鞘の振り抜きで、残りの三人もあっという間に倒される。


しかしきりがない。敵はまだ向こうから向かってくる。


必然的に少しずつ後退し、林の中まで戻ってしまう。


「みんなありがとう! 大丈夫か!?」


全員、セヴァンの意を汲み、兵士に重大な傷ができないように戦っている。


「大丈夫じゃありません!!」


一人、弱音を吐いた男がいた。テルンだった。彼だけ唯一攻撃手段らしい攻撃手段を持っていなかった。


その声に反応してとっさにセヴァンが振り向くと、三人の兵士がテルンに迫っていた。


兵士の一人が剣を上から振り下ろすと、テルンが反応して右へ体を反らして避ける。そして体を大きくひねり、膝蹴りを兵士の左脇腹に打ち込んだ。


「いったああっ!!」

なかなかに武闘派な聖職者に感心する間もなく、テルンは鎧に負けた自らの右足のために叫んだ。


しかし食らった兵士は蹴り飛ばされて地面に伏している。


そして他の二人の兵士に体を向ける。


テルンがなかなかに動けることは全員わかっていたが、対人対戦で見るのは初めてだった。


「大丈夫そうだね」


レーゼンは実践用魔法杖を手に、兵士を相手取っていた。流石に千年生きたからか、動きは滑らかで見ていて安心感があった。


複数人の兵士に囲まれそれを相手取っているが、今まで見せなかった対人間用の戦法を取っていた。


自らの周りに、手のひらほどの大きさの対物防御魔法陣を三つほど展開し、そこにある・・魔法を組み込んでいた。


兵士が剣を振ると、レーゼンはそこへ魔法陣を移動させ、剣を受け止める。


するとその瞬間、剣がまるで打ち返されたように弾き飛ぶ。警戒していなかった兵士の剣が手から離れて飛び、宙を舞った。


そしてその隙に他の魔法陣が兵士の腹へと移動し、魔法が発動すると腹を殴られたかのように後ろへ吹き飛ぶ。


「フフッ」


魔王は思わず小さく笑った。


それはレーゼンにルチフが教えた魔族の魔法の一つで、レーゼンが自分用に改良したものだった。


その名前は〚デフィカ〛。ちょっとものを小突く魔法だが、レーゼンの場合は少し様相が違うようだ。どちらかというと魔王が龍を足止めした時に使った〚リウォルト〛に近い用途となっている。〚リウォルト〛の場合は撃ち落とす魔法だが。


ルチフは体術で兵士を相手にしていた。相手は三人。一人が剣を振ると、ルチフは自分の右腕の黒い鎧の前腕部分でそれを受け止め、流れるように受け流す。

そして返す腕で兵士の兜を殴りつける。高い音が響き、兵士が後ろへ倒れ込む。


ルチフの黒い鎧は軽装で、関節部分も大きく空いている。体の要所要所の部分を覆っている程度だ。守るための鎧と言うよりは、戦術的に扱うための鎧のようだ。


もう一人の兵士の振る剣を、側面から右腕の鎧で叩き、ヒビを入れる。さらに右足のすね当てで蹴りを入れ、剣を叩き割る。


横からもう一人の兵士が援護に入り剣を振り上げる。それを軽く横に動いてかわし、拳を首に打ち込む。鎧が拳の形にへこみ、兵士は後ろへ倒れた。


剣を叩き割られた最後の一人は拳を振り上げて襲ってきたが、向こうの拳が繰り出される前に首元に拳を入れて気絶させた。


今のところ追加の相手はいない。ルチフは一番後ろで戦っていたため、兵士も他の仲間に足止めされて後ろまで来ない。となるとやはり一番前のセヴァンが一番多くの敵を相手にしている。ひどい時で七人同時だ。いくらそれを綺麗で素早い技でさばけたとしても、相手を傷つけないという条件下で気を張っている中、体力はあまり長くは続かないだろう。


(動ける敵はあと二十六人)


気配で残りの敵を察知する。そのうちセヴァン達と戦っているのが十五人。残りの兵士は門の近くで待機している。


ルチフは足に力を込め、木の枝を突っ切って空高く飛び上がった。眼下には木々と、その先に町が見える。ほとんど要塞のように高い石塀で囲まれた町だ。その入り口の門の前で待機している兵士と最初の門番が小さく見える。


町はかなり大きかった。眼下の視界の六割をその町が占めている。カフレゲル町の数倍の規模はあるだろう。町の中心に見える、堀と塀に囲まれた背の高い城があり、そこにこの町の領主が住んでいるものと思われる。そこを中心に町が展開しているわけだが、ずいぶんと様子がおかしかった。


誰も外に出ていない。家の中に人間の気配はちらほら感じるが、そもそもそれが家の数からしても圧倒的に少ない。


あの龍のせいだろうかと思ったがそうではない。家は一つとして壊れていないしそもそも魔力の残穢は感じない。


「まだこんなに内地だというのに」


魔王はつぶやくと、そのまま飛行魔法を展開して門の前の兵士たちの頭上まで飛んだ。


そして魔法を解除し、下へ降下する。


異変に気付いた兵士の一人が上を見て叫び、他の者たちが剣を抜く。


兵士たちはルチフの着地地点を予想し、それを中心に取り囲むように展開する。


ルチフが膝と手をついて着地すると、その瞬間に兵士が一斉に襲いかかってきた。


魔王は口角を少し上げて微笑むと、一番最初に自分にたどり着いた者が振った剣を、左手の人差し指と中指の間で挟んで止めた。それと同時に右手で剣の柄をつかみ、奪い取る。


さらに右足で兵士に蹴りを入れ、後ろへ吹き飛ばし、後続の兵士たちに突っ込ませた。


他の兵士たちが左右と後ろから剣を振り上げ襲いかかってくる。


ルチフは自分に三方からの剣が届く直前、奪った剣をひと撫でした。


次の瞬間、ルチフに届くはずだった剣が、全て根元からポキリと折れた。兵士の剣は柄だけになり、虚しく中を搔いた。


折られた剣の刀身が地面に音を立てて落ちる。


剣を折られた兵士たちは動揺で足を止めた。


その後、突如として膝から崩れ落ちる。


それに動揺した後続の兵士たち。


また、同じように地面に倒れふす。


ここにいる残りの兵士は、剣の届かない範囲にいる数人のみ。


「何だ――――」


動揺する門番の声が聞こえる。


ルチフは三度目の、目にも止まらぬ速度の剣を振った。残りの兵士も、ガシャリと音を立てて地面に伏す。


ルチフは顔を最初の門番の方に向けた。彼の周りには三人の兵士ともう一人の門番しかいない。


びくりと最初の門番が肩を揺らす。


「魔族か?」


魔王は聞いた。いつの間にか、門番の後ろに回り込んで。


「なっ――」


動揺する門番の背に手を当てる。


「振り返るな。答えるんだ。魔族か?」


「まっ――魔族じゃない! 俺は、魔族じゃない」


他の兵士や門番たちも振り返らずに前を向いている。


「あの町に何が起こっている?」


「それは――――」


そこで門番は言葉を止めた。


「どうした」


門番は答えなかった。


「何か言ってみろ」


するとふるふると門番は首を横に振った。


「なるほどな」


魔王は手を下ろし、口端を上げた。


「寝ていいぞ」


門番の体から力が抜け、ぐわん、とバランスを崩して倒れた。他の兵士たちと門番も同時に同じようになっていた。


そしてその頃には、セヴァン達は他の兵士を倒し終わり、ルチフの方に駆け寄っていた。


「ルチフ……」


「どうかしましたか」


「それも魔法かい?」


セヴァンは不可解そうに眉を少し寄せていた。


「半分魔法。半分技術です」


「すごいね……この数を一瞬で倒してしまうなんて」


その顔からはまだ疑問の表情が消えていなかった。


ルチフはそんな勇者を安心させるために口を開いた。


「大したことはありません。少し魔法で眠らせただけです。殺傷力は一切ありません」


セヴァンには強力な魔法を使ったと思われているかもしれない。しかしそんなことはなく、剣に気絶させる魔法を乗せて振っただけである。剣を折ったのは技術なので、半分魔法半分技術というのは何も間違っていない。


それにセヴァン達に実力を見計られないように、認識を阻害する魔法を弱く使っていた。動体視力にたけたセヴァンやディエンでも、魔王の剣を見破られないように。


レーゼンには魔法を使ったことがばれる可能性があるので、その阻害の魔法は気絶させる魔法の同系統のものを使用し、気絶させる魔法に織り込んで発動していた。それでバレたとしても相手を妨害するために使ったと認識されるだろう。


レーゼンがセヴァンの横から話しかける。


「私には教えてくれなかった魔族の魔法だね。それに認識阻害の魔法も使っている」


どうやらバレていたようだ。


「魔法を教えていたのかい?」


セヴァンが驚いた顔をする。


認識阻害の魔法についてはお咎めなしのようだった。


「それでルチフはずっとレーゼンの部屋に行っていたのか」


あの部屋では魔法の研究解析や開発もしていた。魔法使いならばその部屋からの微弱な魔力の気配を察知して何をしていたわかるかもしれないが、セヴァンにはわからなかったようだ。テルンは分かってもよさそうな気がするが、本人は何も言わない。


「今そんな話はどうでもいいだろう。それよりなぜこいつらが襲ってきたかだ」


ディエンの発言に皆は気を引き締め直した。


「この門番を眠らせる前に話を聞きました。おそらく魔族が関係しています。本人はそれを口にすることはできませんでした」


「どういうことだ」


セヴァンは眉根を寄せて真剣に聞いた。


「あの町に何が起こっていると聞いてもその門番は答えませんでした。そしてその後何か行ってみろと言ったところ、私は何を言えとも説明していないにもかかわらず、彼は首を振りました。何者かに魔法か何かで操られているものと思われます」


「魔族の魔法は人を支配することすらできるのか?」


セヴァンは深刻な表情で聞いた。


「今回の場合はただ裏から何かを制限しているだけのように見えます。身体の動きを直接操っているというわけではないようです。どちらかというと脅されていて動いたかのように見えます。それに加えて、あの町から感じられる人間の気配は町の規模と比べてひどく少ないものです。その点で見ても、魔族か何かが関わっていると推測します」


「行こう」


セヴァンは即座にそう言った。そして門に向かって歩き出す。


「待って、セヴァン」


レーゼンがずんずんと歩いていくセヴァンの背に呼びかける。


「なんだい」


セヴァンは振り向いて聞いた。


「一人で行かないで」


レーゼンのその言葉にセヴァンはハッとした表情をした。


「龍の村の時もそうだったよね。一人で とっさに走って行った」


その声にこもった感情はいつもと変わらないように聞こえたが、どこが諭すようだった。


「私を誘った時なんて言った?」


セヴァンはレーゼンに目を合わせ、そして視線を落とした。


少しして、再び目を前に向けた。


「ごめん、レーゼン。行こう、みんな」

I'm so sleepy and comfortable......=-O


And Merry Christmas!! (Little earlier)



2024/01/07

最後の方の場面の


「行こう」

セヴァンは即座にそう言った。そして門に向かって歩き出す。


の部分から下を新しく追加しました。


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