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勇者パーティ&魔王VS龍

 夕暮れ時の赤みがかった雲に、赤黒い火柱はよく映えた。


「とてつもない魔力……!」


 テルンが驚愕に声を上げる。


 火柱は少しずつ細くなり、雲の上に消えていった。


 熱に吹き飛ばされた雪の下から、飛び出る赤黒い龍。


「あれが……!」


 セヴァンが見上げ、声を上げる。


「紅鱗龍じゃない……!? 鱗の色が黒い……!」


「いや、あれは紅鱗龍だよ。龍の魔力が鱗に染み込んで変色している」


「来るぞ!!」


 レーゼンの説明を遮ってディエンが声を張り上げた。


 龍が翼を大きく振り上げ、大きく振り下ろす。ぐんと龍の体が前に押し出されるように加速する。


「速い!」


 セヴァンが剣に手をかける。


「あの龍は音速近い速度で飛んでいたよ。流石にこの距離だとそこまで加速できないだろうけど」


 レーゼンが杖を構えながら言う。


 それでもここから龍との距離は一キロ程度しかない。龍の姿がぐんぐんと大きくなっていく。


「龍の体が赤く!」


 テルンが声を上げた。


「火炎放射が来る! ルチフ、あの防御魔法だせる?」


「出せます」


 龍の口から赤黒い炎が放たれる。


 距離があるため威力が分散されるが、代わりにその範囲が広がっていく。


 炎が五人全員を巻き込んで、周囲ごと飲み込む。そして一瞬遅れて爆発が起こる。


 広範囲の爆発によって地面が大きくえぐられ、吹き飛ぶ。


 しかし勇者一行はルチフの球形に展開された防御魔法によって守られた。


「なんて威力……!!」


 思わず声を上げるセヴァン。


 防御魔法が解除され、全員が向かってくる龍へ向けて走り出す。


 前衛のセヴァン、ディエンに続き、ルチフ、その後ろにレーゼン、テルンと続いた。


 この三ヶ月でこの陣形は既に確立されたものとなっていた。


「あれをどうやって倒す!?」


 セヴァンが走りながら声を張り上げる。


 龍との距離はもう百メートルもない。


「レーゼンの全力の魔法でも倒せないなら……」


「また来るぞ!」


 ディエンの警告によって、全員が散開する。


 元いた場所に炎の球が着弾し、爆発する。


「当たればただじゃ済まない!」


 陣形を立て直しながらセヴァンが言う。


「前からくるぞ!」


 ディエンが叫ぶ。


 龍が一気に高度を落とし、突っ込んでくる。


「全員避けろ」


 龍と衝突する直前、ディエンが背のハンマーに手をかけ、前に跳び出す。


 全員が呼応するように、各々が龍の両側へ跳ぶ。


 ディエンは横に思いっきりハンマーを振り抜いた。


 鉄を殴ったかのような音とともに、ハンマーは龍の顔を捉えていた。


「ゴアアアアアァァァッッッ!!!」


 苦痛の叫び声とともに、龍が殴られた方へと吹き飛ぶ。


 その巨体を全員が身を屈めて回避した。


「よし」


 地面を削りながら滑っていく龍を見ながらディエンが言った。


 セヴァンたちがディエンの方へ駆け寄ってくる。


「あんなに吹き飛ばせるとは」


 セヴァンが龍に視線を向けながら言う。


「手応えはあったが倒せてはいない。だが顔にヒビぐらいは入った」


「やるね」


「ゴオオオオオオオッ!!」


 龍が雄叫びを上げ、こちらを睨みつけるように顔を向ける。


 その顔の横には、ハンマー型の凹みとそこから広がるヒビが、確かに入っていた。


「龍の顔が一撃であんなになったの初めて見たよ」


 レーゼンが陣形の後ろから言った。


「死ぬかと思いました……」


 テルンは弱音をはきつつもしっかりと陣形を組んでいた。


「龍は賢い生き物だ。同じ失敗は二度犯さない」


「同じ攻撃はできないってことだな」


 レーゼンの説明をディエンが解説する。


 龍が四つの足で地面を蹴り、肉薄する。


 五人が身構えた瞬間、突然龍は上へと飛び上がる。


「なんだ――――」


 龍が頭上で大きく翼をはためかせる。


 何百トンあるかもわからない巨体を浮かせるほどの風が、真下の勇者たちを襲う。


「うわっ――――」


 踏ん張ることもできないほどの風に足元を掬われ、雪と共に巻き上げられる。


 予想外の事態。


 ルチフとレーゼン以外は対応できずに乱雑する思考に頭が支配される。


 回転する視界に集中を奪われ、再び突撃してくる龍に気がつかない。


「ルチフ!」


 飛行魔法で早々に体制を立て直したレーゼンが同じく体制を崩していないルチフを呼ぶ。


 龍はすでにこちらに向かって突撃してきている。


 加えてその口元は赤黒く光っていた。


「これだけ広範囲の防御魔法は無理です」


 吹き飛ばされた各々の距離は離れすぎていた。


 実際はそれだけの防御魔法の展開は可能だが、実力を見せすぎてしまう。


 炎が放たれるまであと数秒もない。レーゼンの防御魔法では心許ないだろう。


 しかしレーゼンは前へと飛び出す。


 杖を前に出し、巨大な防御魔法を展開する。そしてそれを前に移動させ、また同じ防御魔法を展開する。それを高速で繰り返して合計五層の防御魔法陣が展開された。


 龍の炎が放たれる。


 炎が魔法陣に激突する。レーゼンは魔法杖を前面に押し出して対抗する。


 魔法陣に防御され横に逃げる炎は、なおも激しい熱量を持っていた。


 五層の魔法陣でようやく龍の炎の魔力を中和し押し合うことができる。しかし残った炎は魔法陣を焼き、少しずつ壊していく。


 一番前の魔法陣が限界を迎え、砕けて霧散していく。


 しかしそれだけの時間があれば、全員が地面に着地するのに十分だった。


「レーゼン!」


 龍が起こす風と火炎放射の熱量を腕で防ぎながら、勇者が大声をあげた。


 龍の標的は完全にレーゼンに向かっていた。防御魔法陣がまた一つ消えていく。


 勇者が地面を駆ける。鞘に手をかけ、龍めがけて跳び上がる。


 さすが勇者と言ったところか。十メートル近い高さを軽々と跳び上がり、龍の首めがけて剣を抜き放った。

 澄んだ音が響き渡る。


 龍の鱗は硬い。しかし、鱗に白い線が入っていた。


 そして斬りかかったセヴァンに呼応するように、ディエンは龍の上へと跳び上がっていた。


 龍が炎を止めた頃にはもう遅かった。ウーツ鋼のハンマーが、ドワーフの万力によって、雷の如き威力で龍の背を殴りつけた。


 落雷のような轟音が轟く。龍は抵抗する間もなく地面に叩きつけられていた。


 チャンスだ。ここを逃せば龍を仕留める機会はないだろう。


「〚聖域展開〛!!」


 テルンの声とともに、龍の巨体を包み込むほどの半円球が展開される。


「テルン!」


「龍を抑えます! 今のうちに!」


 聖域には魔物魔族由来の魔力を抑える能力も備わっている。この龍は体の機能の殆どを魔力に頼っているため、それを抑えられれば動くのは簡単ではない。


 しかしこれほどの聖域をこの範囲で展開するのは、テルンも簡単ではないはずだ。


「ゴオ……オォ゙……」


 龍が立ち上がろうとするも、体にうまく力が入らないようだ。


 その頭部に、ディエンがハンマーを振り上げ叩きつける。衝撃で龍の顎が地面に埋まる。


「セヴァン! 剣を!」


 ディエンが呼び、跳び退く。


 そしてディエンが立っていた龍の頭部へセヴァンが立つ。


 そこにはディエンが渾身の力でつけたハンマーの跡。その部分はそのまま龍の弱点となる。


 剣を逆手に、大きく振りかぶる。


 渾身の力で、剣を頭に差し込んだ。


 龍の体が大きくのたうつ。


「ぐっ……!」


 しかしセヴァンは剣を離さなかった。剣に更に体重をかけ、奥へと押し込む。


 龍が叫ぶ。これまでにないほど、耳をつんざく大音量だった。レーゼンは思わず耳をふさいでいた(耳が大きいので塞ぎきれていない)。


「おおおおおっ!」


 勇者の剣が、大きく奥へと動く。


 その瞬間、龍の体が一瞬大きく痙攣する。


 そして、二度と動くことは無かった。


 あとには静寂と、龍の亡骸と、それにトドメを指した勇者だけが残った。


「はあっ、はあっ、はあっ」


 セヴァンが剣を握りしめながら、息を切らして龍の上で膝をついていた。


「セヴァン」


 レーゼンが大きな声で言う。


 セヴァンの顔がそちらに向く。


「龍は死んだ。よくやった」


 セヴァンの目が少し見開かれ、その体から力が抜ける。


「セヴァン!」


 龍の体から転げ落ちるのを、ディエンが優しく両手で受け止めた。


「何が……」


 セヴァンがうめくように言う。


「龍は倒せた。よくやった」


「よかった…………」


「お前こそどうした。龍の頭に剣を差し込むだけでそんなに疲れたのか」


「分からない……ただ……力が入らない」


 龍の体が末端から少しずつほどけ、そこから霧散していく。しかしこれだけの巨体なため時間がかかるだろう。


 ルチフが龍のそばに立ってそれを見届けていた。


 ディエンの両腕に少しセヴァンは大きすぎた。代わりにテルンがセヴァンを背負う。


「レーゼン、何をしているんだ」


 ディエンが龍のそばで何かコソコソしているレーゼンに言う。


 レーゼンはどこからか取り出したナイフのようなものを手に作業しながら答える。


「この鱗、ちょっと気になってね。消えないうちにいくらか採取したいなって」


 魔物や魔族の体は死ねば消えるが、死ぬもしくは完全に崩壊する前に体から切り離された部位は消えないことがある。


 具体的に言えば肉や血は切り離されてもほとんどの場合消えるが、爪や鱗、角や骨などの部位は残る場合が多い。


 原理的にはよく動く肉や血はよく魔力を使って動かしているため、本人の魔力に要素がよっていることが多く、本人の魔力の崩壊とともに壊れていく。


 しかし角や鱗などの部位はあまり動かすこともないため、それほど魔力の要素によっておらず、崩壊とともにほどけていくことが少ない。


 しかしこの鱗はすでに龍の魔力が染み込んでいる。切り離したとしても保存は難しいだろう。


「あ〜……だめか」


 そもそも強靭な龍の鱗を切り離せず、採取しようとしていた鱗は消えてしまった。


 もうほとんど外側は崩壊しかかっている。内部はすでにただの魔力の塊になり、あとは外側が崩壊して霧散するのを待つばかりだろう。


「ルチフ」


 ほどけていく龍の肉体に足をかけたルチフをレーゼンが呼びかける。


「剣を取ろうと思いまして」


 ルチフがレーゼンの方に顔を向ける。


「そう」


 レーゼンはそっけなく返事をして踵を返した。


 勇者の剣はほどけていく龍の頭部だった場所に沈みかけていた。


 柄に手をかけて拾い上げる。


 それを目の高さに水平に持ち上げた。


 女神の祝福を受けた、聖剣とでも呼べるもの。


 白銀の両刃の刀身。中心に赤い宝石がはめ込まれた、赤い装飾の施された鍔。赤い素材で作られた握。柄頭には鍔と似たような赤い宝石がはめ込まれている。


「君はそこにはいないか」


 魔王はもの言わぬ聖剣に、誰にもそれとわからないほどに小さくつぶやいた。


 もうほとんど原型をとどめていない魔力の塊である龍の亡骸から飛び降りて、魔法陣を展開する。


「〚リムホーク〛」


 龍の体は次々に中和されて消えていく。数秒後にはもう何も残らなかった。


「暇があれば話でもしたかったんだがな」


 テルンはすでにセヴァンを背負って町に向かって歩いていた。レーゼンも同様。ディエンだけがルチフのそばで待っていた。


「龍と話ができるのか」


 低い声でディエンが聞く。


「龍は賢い生き物です。簡単な会話は造作もありません。人間よりも正直で、何なら会話しやすいほどです。それに知られていないことですが、彼らも独自の言葉のようなものを持っている」


「戦っている時、龍は何て言っていたんだ」


 ルチフは少しためらってからこう言った。


「この龍からは怒りと疑問だけが聞こえました。ずっと必死に何かを探しているようでした」


 ディエンは少し眉をひそめた。


「何かを探していた?」


「私の考察ですが、かつてこの場所にあったものかと。……そうですね。あの町の場所からは、千年以上前の龍の魔力の残穢を感じました」


「千年以上前? あの龍は千年以上前から生きていたのか」


 ルチフは一瞬の間を開けた。


「そうです。しかしあそこに感じた魔力の残穢は二種類ありました」


「千年以上前は二匹の理由があの町を襲っていたということか?」


「違います。おそらく千年以上前はあの町は存在しなかった。あの町の外れにはひどく壊された銅像がありました。そこには六百年ほど前の年月と、『龍殺しの勇者』という文言が刻まれていました」


「つまりあの町は六百年ほど前に、一匹龍が殺されていたのか。しかし何が違うんだ?」


「あの町があった場所は、もともと二匹の龍の親子が住んでいた場所でした。その親は六百年前の勇者によって殺され、その子供ははるか西の地と飛んで逃げた。そしてそこにあの町の人々の祖先が住み着いたのです。龍の魔力の残穢のおかげで、他の魔物は寄ってこない」


 ディエンは少し衝撃を受け、返答に窮した。それはルチフの洞察力の高さと、龍の過去を知ってのものだった。


「だったら何で今更戻ってきたんだ? 復讐のためか?」


「違います」


 ルチフは即座に答えた。


「何があったにせよ、巣立った龍は二度と戻ってこない。それに六百年も経ってわざわざ復讐に来る意味もない」


「だったらなんでだ?」


「龍の寿命はおよそ千年。あの龍の鱗には千年で自分の魔力が染み込み、赤黒くなった。目はすでに見えなくなり、体の大部分は魔力に頼って生きていかねばならくなった」


 ルチフはすっかり暗くなった雲から舞い落ちる雪を見上げた。


「あの龍の叫び声は幼すぎた。あの龍は親と自分の家を探していた。あの龍の脳はもう限界でした。意識は混濁し、記憶もまともに思い出せなかった」


 ルチフは大きく息を吸って、顔に冷たい雪を感じながら、静かに言った。


「あの龍は限界でした」


 ルチフは目線をディエンに戻す。


「それだけのことです」

日本語は喋れます。

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