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ドワーフの力試し

「素晴らしい。すげえもんだこれは」


 鍛冶ギルドを出て、ディエンが大きなハンマーを手で撫でながら見つめていた。指の関節で軽く叩くとコツコツと鈍くも小気味のいい音が鳴る。


「ありがとう。たけえ金だったのにこんなもんを買ってくれてよ」


 ディエンがみんなの方を見て心底からの感謝の意を示した。


「これから一生使う武器なんだろう? そんなものにお金を惜しむわけはないよ」


 セヴァンが笑顔で言う。


「その通りですね。魔王を倒す武器なら」


「ああ、ありがとう」


「一般に開放されているらしい訓練場があるって言ってたけど、そこで試してみるかい?」


 セヴァンが先程受付嬢にもらった都市の地図を開いて、その場所を指で示した。


「そいつはありがたいが……いいのか? 俺にそんな時間を使って」


「どっちかというと、僕が気になるだけかな。そんなすごそうな武器を凄腕のディエンが振るとどうなるかって」


 セヴァンは相変わらずの素敵な笑みを浮かべる。


「みんなはどうかな?」


「私は構いませんよ」


「私もちょっと興味あるかな」


「構いません」


 僧侶、魔法使い、レンジャーが順に答える。


「満場一致だね。じゃあ、行こうか」




 十数分歩いたところ、都市のはずれ、広い敷地に広い訓練場があった。


 広い体育館のような施設で、中には様々な設備やサービスがある。この施設は昔ここが兵士養成所だった頃の名残だという。


 そんな歴史ある建造物の一角、人々が剣を打ち合ったり、組み合いをしたりしている広い中庭で、轟音が鳴り響いた。


 遠くにいるものはそれが青天の霹靂であると勘違いし、近くにいるものはそれが鬼の降臨であると勘違いした。


 数秒前、その中庭には一体の試し打ち用の鎧人形があった。金属製で地面に固定された丈夫なものであった。


 数秒後、全てがひしゃげていた。もはやただのスクラップだった。


 全方向に飛び散った鉄くずは、その衝撃が真上より放たれたことを意味していた。


 被害はそれだけではなかった。


 中庭の地面に、真四角の穴が開いていた。その穴にはひしゃげた鎧兜と少しの破片。そしてそれを中心として地面周辺にひびが入っていた。


 池に石が投じられた後かのように静まり返っていた。全ての人間の視線がそこに固定されていた。


 視線の向こうにあるのは、持ち手と槌頭がアンバランスな戦槌をもつ小柄な男。


 全ての原因であるその男は、時間が止まったかのようなその場所で、ゆっくりとハンマーを上げた。


「こいつぁいい」


 そして優しくハンマーを一撫でする。


「俺の全力を受け止められる。俺の家族の逸品。これ以上に素晴らしいもんはない」


 鬼と見紛うほどの力で、雷と見間違うほどの一撃を繰り出したドワーフの戦士ディエンは、心の底から新しい武器を喜んでいた。


 少しずつざわめきが起こる。


「なんだ今のは。雷が落ちたのかと思ったぞ」


「あれをあいつがやったのか。信じられん」


「ていうかあれ、金属製の鎧人形じゃねえか。あんな残骸になって……一撃であそこまでグチャグチャになるなんて、初めて見たぞ。賞金いくらになるんだ?」


 などという具合であった。


 すぐ近くでその様子を見ていた勇者パーティーは、ルチフ除く全ての者が驚きまくっていた。


 セヴァンは体をのけぞらせ、テルンは尻餅をつき、レーゼンは反射的に腕で防御をしていた。ルチフは少し目を見開いて、直立不動でそれを見ていた。


 魔王とて驚かないわけはなかったが、驚いたのはディエンの実力であり、その技の威力に対してではない。結果的に他三人よりは反応が薄かった。


「こ……これは……」


 近くで見ていた、鎧人形を用意してくれた女性のギルド職員が、他の誰とも同じリアクションを取った。


「す……すぐに賞金をお持ちいたします!」


 と言って奥に引っ込んで行った。


 賞金とは、この訓練所独自に設けられた、一つの制度であった。


 頑丈な鉄鎧人形を規定の回数で破壊することができれば、それに応じた賞金がもらえる、といった感じである。


 破壊する箇所によっても賞金は変動するが、今回の場合はその中でも最上位の「一撃全破壊」であった。


 これを利用する際に、安くはない挑戦費を払った。しかし「一撃全破壊」はお釣りが三十倍ぐらい来る賞金価格であった。


 そもそも本来こんな事態は想定していなかったのであろう。鍛えたがりの男たちに夢を見させるためのよくある手法のはずが、その夢に軽々と手が届いたものがいるとは、この制度の発案者は夢にも思わなかっただろう。


「こちらです。どうぞ」


 飛んで戻ってきたギルド職員が、ずしりと重いかねの入った袋をディエンに手渡した。


 後で確認してみたところ、ディエンのハンマーの値段の少し下ぐらいの量であった。これをちゃんと払うとは随分な太っ腹である。


「これでお返しとは言わんが……早速このハンマーで役に立てたな」


「さすがだ、ディエン。 君の全力がここまでとは思わなかった」


 セヴァンが言った。


「みんなでこのお金で、この先の旅に向けてしっかりと準備しよう。装備は惜しまない方がいいってわかったしね。じゃあ、行こうか」

Good, very good day

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