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対戦

入隊から二週間が過ぎた。

新兵の20人のうち、なんと既に5人が姿を見かけなくなってしまった。


まだ新兵は、付いていくのにやっとで、・・・・いや、リタイアしないだけで精いっぱいで、任務に就くどころか実技訓練すら行っていない。

先輩騎士達が実技訓練をしている時間は、ひたすら体力づくりか、素振り、型をなぞったりしていた。




「ユージーン・フェルクス。イルゼ・シュナイツ。2人は今日から実技訓練にも混ざるように。」


よし!


イルゼは内心で叫んだ。

体力づくりの基礎訓練は、イルゼに少々不利だった。まあだからこそ、逆に訓練が必要であることは、分かっていたが。

イルゼの本領が一番発揮されるのは、その剣技だった。


物心つくまえから、父と打ち合いをしていたのだ。

それが父との唯一の遊んだ記憶。

・・・・遊びだか訓練だか分からないほど激しかったらしいが。



歩くのや走るのと変わらないくらい、体に馴染んでいる。

少なくとも同年代には、負けた事がない。



この2週間、基礎訓練だけでさすがに参りかけていたイルゼは、思いっきり鬱屈を晴らすべく、練習用の刃の潰した剣を受け取った。




「順番に並べ。笛が鳴ったら、次の相手と交代するように。それでは始め!!」


5分毎に相手を変えて、順番に打ち合いをしていくらしい。

訓練の打ち合いで、当然体には当てない。打って良いのは相手の剣だけ。その条件であっても、騎士団に入るような実力者同士だと、勝敗は自分たちで分かる。



――――この人は少し背筋が弱い。打ち合った時、もう一押しすればバランスを崩す。


――――この人は左利きか。活かしきれていないな、もったいない。


――――勝ち気が足りない。お上品な、試合会場じゃ、ないんだぞ!!!!





「――――ッ!そ、そこまで!!!」



あれ。もう終わりか。

打ち合ったのは8人。一人5分で、交代と交代の間が2分だったので、1時間弱。あっと言う間に過ぎ去っていった。


この集中した時間が、なんとも言えず、イルゼは好きだった。





ユージーンとの順番は回ってこなかった。残念だ。

騎士学校に通っていた時は、実力順で必ず相手していたのに。



「8戦全勝した者だけ立て。」


部隊長の言葉に、殆どの者が座る。


立っている人物を見て、訓練場に驚愕が広がった。


訓練する者と、職務に就くもので分かれているので、今日の実技訓練に参加しているのは、イルゼとユージーンを加えて20人。

そのうち、全勝したのは、イルゼを含め2人。



もう1人は、ユージーンだ。






――――おいおい、マジかよ。卒業したばかりのひよっこだぞ。

アレフのやつ、2敗してたぞ。

マジかよ。

俺は負けてないね。

お前、ラッキーで当たらなかっただけだろ!





「静かに。それでは立っている2人は前に出ろ。せっかくだ。白黒つけておけ。」


「「はい!!」」


部隊長の言葉に、ユージーンと向き合う。

鋭く冷たい目が、イルゼを射抜く。


これだ。これがイルゼの知っているユージーンだ。


ここ2~3週間のユージーンの言動で、もしかしたら何かと中身が入れ替わっているのかと、本気で考え始めていたイルゼだった。



変わっていない。

女だからと手加減する気など一切ない、好敵手と認めた相手を食い殺す勢いの目。


この目と対戦することが嬉しくて、イルゼは笑った。

獲物を見つけた狼のように。





――――体中、素晴らしい筋肉が付いている。


――――バランスが良い。ここ2週間だけで大分変った。


――――気力も申し分ない。負ける事など微塵も考えていないな。




では、この相手にどうしたら勝てるだろうか。

とうに5分は過ぎているが、笛はならなかった。





―――――そんなの決まっている。技で、実力で、押して、押して、押して、押して、押して、押して、押しまくる!!!!!!!






「そこまでぇ!!勝負あり!勝者イルゼーーーー!!!!!」



うおおおおおおぉぉぉぉーーーーーーーーーーー!!!!




固唾をのんで見守っていた隊員たちが、興奮して雄たけびの声をあげる。

気が付けば他の団の者も集まってきていた。


何かの大会の決勝戦が行われたのかと勘違いするほどの歓声の中、座り込んでいるユージーンに手を貸すイルゼ。



「・・・・・・恐ろしい女だな。」

「誉め言葉だ。」





素直にイルゼの手を取る負けたユージーンの顔は、悔しさを感じさせずさっぱりとしたものだった。




次は、勝つ。それだけのことだ。








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