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王国の守護神

待ちに待った入隊式の日は、イルゼ達新人を歓迎するかのように、抜けるような青空だった。



整然と並んだ騎士達と、緊張した面持ちの新人騎士達。

騎士学校卒業生で第1騎士団に配属されたのは、イルゼとユージーンの二人だけだった。

新人組には他に、従騎士からたたき上げで騎士と認められた者、他の隊から移動してきた者など、20人ほどがいた。



第1騎士団は王国の守護神と呼ばれていて、人気が高い。

中でも人気のある騎士数人は、なんと市井に絵姿まで出回っているので、イルゼも見た事のある顔がいくつもある。


第1騎士団唯一の女性騎士アマンダ。俊足のガイに、剛腕のデイモン。



そして第1騎士団が守護神と呼ばれる由縁。国一番の騎士と誉高い、第1騎士団長。


守護神、黒騎士カミュ。




「諸君たちの入団を歓迎する。」


大きく声を張り上げているのでもないのに、その声はどこまでも響き渡った。

新人たちの緊張感も、浮ついた雰囲気も、瞬時に消え失せる。

本物のリーダーがそこにいた。



「第1騎士団は、王都の守護が中心とされていて、王族や賓客の警護が中心だ。式典の警護などもするため、平民、貴族を問わず人気も高い。」



カミュの声を一言も聞き漏らすまいと、全員が全身で集中している。

この人に従いたい。いつまでも付いていきたい。



―――――――いや違う。この人を、越えたい。



イルゼはグッと気持ちを入れ替えて、話の続きを聞いた。


カミュが少し、こちらの方を見て笑った気がした。



「しかし、そんな任務は所詮はお飾りであり、第1騎士団の本当の仕事でないことは、諸君らは既に知っていると思う。第1騎士団は、平時は王都で常に厳しい訓練をしている。」



普通の一般人や、貴族のご婦人たちにとっては、絵姿を買ったり、花形役者のような扱いの第1騎士団だが、本当の仕事が別にあることを、イルゼはローガンに聞いて幼いころから知っていた。

それを知っていて、ずっとこの隊に憧れていたのだ。



「第1騎士団の仕事は常にその刃を研ぎ澄ませていること。そして、有事の際、他の団からの応援要請に応え、どこへでも救援に行くことだ。どこへでもだ。救援要請が掛かる時は、当然例外なく深刻な事態ということだ。そこへいち早く駆け付けて、他の兵たちが準備をして、隊を整えて、ゆっくり辿り着くまで何としても守り抜く。・・・・・・・・・・覚悟はあるな?」


「「「「はい!!」」」」


練習などしていないのに、新人騎士達全員の声が重なる。

カミュの言葉に操られているかのように。



「いいだろう。それにしても、今年の新人は良いな。すごい目で見つめてくるのが二人もいる。俺を食い殺しそうな目で見てくるような奴は、久しぶりだ。」


間違いようもなくはっきりと、イルゼのいる辺りを見て、カミュが言った。

二人のうちの一人はイルゼだろう。自覚があった。

あとの一人は、どうせ隣に立つ同期なことは、確認しなくても分かっていた。




「ではこれから副長より、部隊長以上の人事の発表とこれからの説明がある。心して聞くように。」

「「「「はい!!」」」」



それだけ言うと、カミュを始め何人かの隊員は、去って行った。



副長のサミュエルも有名人だ。

貴族出身で、一見優美な優男だが、よく見るとものすごく鍛え抜かれている。

極限まで鍛え抜かれた鋼のようだ。


「それでは、まず人事から発表します。今回は隊長の交代があります。第4騎士団長、ハリー・ヘッツェンが諸般の事情で退団するにあたり、第2騎士団副長のローガン・シュナイツがその任に就きます。」




ザワザワザワ。



平民出身のローガンが、ついに騎士団長に任命された。歴史的な瞬間だった。

先ほどまで全身で集中していた新兵たちが、ざわつきだす。

カミュがいなくなって、緊張が切れたのかもしれない。



一番驚いたのはイルゼだった。父はそんなそぶりを一切見せなかった。

話せる事は全部話してくれるけれど、話してはいけない話は絶対もらさない父だった。



「続いて、第2騎士団副長に、第2騎士団の・・・・・。」



サミュエルの声が頭を通り過ぎていく。


第4騎士団。

それは、地方の治安維持を主な任務とする騎士団だ。

数か月、数年単位で王都を離れることも珍しくない。



今までも忙しい父だったが。これからはイルゼも忙しくなるので、増々会える時間が減るとは思っていたが。

それでも同じ王都にいて、すぐそばにいると感じられていたのに。




――――――そう考えたのは一瞬だった。



もうイルゼ自身が、栄えある王国騎士団の一員なのだ。

守られる側ではなく、守る側。



甘い考えは一瞬で消し去り、サミュエルの説明に集中しなおす。





「――――それでは、訓練着に着替えて、1時間後に集合してください。解散。」

「「「「はい!!」」」」





話が終わり、慌ただしく移動する新兵たち。1時間後と言ってもあっという間だろう。

少し急ぎ足で移動していると、他団の新兵たちもちょうど移動しているのが見える。


あれは、第4騎士団だ。



立ち止まって、ある人物を探す。

他の新兵たちが、次々とイルゼの横を通り過ぎて抜かしていく。



――――いた。ローガンだ。



準備時間はわずかしかない。イルゼはローガンの元へ駆け寄った。



「父上!」

「よっ、イルゼ。その様子だと、人事の事、聞いたな?」

「はい。」



駆け寄ったものの、何を話せばよいのか決めていなかった。



「・・・・・・・・・・・第4騎士団長就任、おめでとうございます。」

「ああ、ありがとう。」



それから、それから――――――――


何を伝えれば良いのだろう。




「イルゼ、隊服が似合っている。立派になったな。もう一人でも大丈夫だな?」

「はい。」


間髪入れずに答えた。覚悟は出来ている。


「心配には及びません。イルゼの事は、何があっても私が守ります。」

「ユージーン!?」


突然後ろから掛けられた声に、驚くイルゼ。


「いつの間に・・・。」

「ずっといたぞ。」

「ずっといたな。」


何をいまさらと言いたげなユージーンの言葉に同意する父。

どうやら動揺しすぎていたようだ。修行が足りない。



「何を言っているんだユージーン!私は守られるような、ひ弱ではないぞ。」


そう言うイルゼの頭をポンポンと優しく叩いて、ローガンは真剣で、優しい眼差しでユージーンを見た。


「・・・・ユージーン君、頼んでいいな?」

「任せて下さい。」

一瞬の迷いも見せず、答えるユージーン。


「父上?」

「イルゼ。お前はまだ経験がないだろうが、平民出の騎士に対しての風当たりは、お前が思っているより強いぞ。俺にも今まで色んな嫌がらせがあったもんだ。まあ全部返り討ちにしてやったがな!」


父は仕事の事は、機密以外は何でも話してくれていたはずだったのに、そんな話は初めて聞いた。



「・・・お前はガキの頃は平民の中で育ったし、騎士学校では優秀な先生方がしっかりと規律を守らせていたんだろう。お前自身の実力も、まあちょっとは俺の威光もあったかもしれない・・・だがな。俺にも勝てないものもある。」


「・・・・・なんですか。」

平民出身で、たたき上げで騎士団に入り、ペイジ、従騎士から団長にまで上り詰めたローガンに敵わないものとはなんだろう。

第1騎士団長のカミュ殿だろうか。




「それはな、権力だ。権力の前には俺なんざ一たまりもない。今俺が騎士団で活躍出来ているのは、平民でも頑張りによっては出世できるぞーっていう、平民へのパフォーマンスみたいなもんだな。ちょうどよくそのポジションに収まってる。でももし、高位貴族にでも睨まれようもんなら、明日にでも罪を捏造されて、幽閉されたっておかしくはない。」

「そんな・・・・・。」



何があっても倒れない、折れない、揺るぐことがないと思ってきた父のそんな言葉に、驚くイルゼ。

きっとイルゼを一人前と認めてくれたから、話してくれているのだろう。





「ま、そんなこた、そうそうないと思うがなー。そこのユージーン君は、幸い侯爵家だ。せっかく守ってくれるってんだから、いざとなったらありがたく守られとけ。」




そう言うと、ローガンは第4騎士団の新しい仲間たちの方へと歩いて行った。









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― 新着の感想 ―
[一言] 別世界線の話とはいえ、冤罪で3年も父を虐げた上に王妃がいなきゃ再調査しなかった偉そうなだけの王族の警護とか価値あるの?って感じ まあ憧れの職業に就いたらそこはゴミだったなんて現実でもよくある…
2023/09/04 12:42 退会済み
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