こたえ
それほど危機的な状況ではなく、敵の規模が大きいので増援に呼ばれたのだと、イルゼは馬上でカミュに聞いた。
少しだけ安心するが、それでも心配なのには違いない。
第4騎士団の伝令によれば、敵は盗賊のフリをして第4騎士団をおびき出してきたが、ローガンと副長のオーランドは最初から怪しいと睨んでいたらしい。
案の定、敵は格好だけは盗賊っぽいが、服の下に鎧を着こんでおり、剣の心得もある。どこかの私設騎士団か何かのようだとの報告だ。
数もかなり多いが、第4騎士団だけで壊滅できなくもない。
第1騎士団が到着すれば、何の問題もないだろう。
――――でもなぜだろう。イヤな予感がする。
イルゼは思った。
ただの正面からの対決になるのか?そんなに単純なものなのだろうか。
「お前たち2人に、話しておくことがある。」
途中スピードを緩めて、カミュはイルゼとユージーンの新人コンビの馬と並走した。
当然新人で今回の救援に参加するのは、この2人だけである。
「これは毎回、必ず初出動の新人に言っている事だが・・・・今回の任務は第4騎士団の救援だ。私たちには、お前たちを守ってやる余計な戦力はない。」
「はい。」
「当然です。」
それはそうだ。助けに向かったはずなのに、同じ隊の新人を助けることに力を割いていては、意味はない。
「だが新人をいつまでも王都に置いていくわけにもいかない。それでは後継が育たないからな。だから、お前たちは余計な行動はするな。人を助けようだなんて考えるな。自分自身を守って帰ってくることが、お前たちの今回の任務だ。逃げても許す。自分自身を守れて、生きて帰れたら、今回のお前たちの任務達成だ。」
「「はい!!」」
*****
「いたぞ!あそこだ。」
第1騎士団が緊急時に通ると定めている大通りを、最速で駆け抜けて、あっという間に、敵と戦う第4騎士団の姿が見えてきた。
カミュ団長が、スピードを上げる。
これまで他の団員たちに合わせていたようだ。
「・・・・・く。」
イルゼもついて行こうとするが、とてもカミュには及ばない。
「イルゼ、無理をするな。ここまで来たら、急いでも大して変わらない。」
「分かっている!」
ユージーンへ答える声が、ついとげとげしいものになってしまう。
「・・・・・ごめん。ありがとう。」
「大丈夫だ。分かっている。」
ユージーンがいて良かった。こんなにも心強い。
イルゼは心からそう思った。
さすがに精鋭の第1騎士団である。
イルゼとユージーンが到着したときには、既に半分以上が到着して、敵は逃げ出す寸前だった。
その為今から到着する者達は、それを見越して、敵の逃げ出す方向へ行き先を変えていた。
「とくに問題なさそうだな。」
警戒は解かないまでも、少し安心した様な声のユージーン。
「・・・・父上の姿がない。」
イルゼが不安を押し殺した声でつぶやいた。
「これだけの混戦だ。見つからなくても・・・・・。」
「戦いの場で、父上が埋没するわけない。いない。」
戦場で、ローガンが目立たない訳がない。
パッと見ていないなら、この場にいない。
その時である。
「よし!この場は大丈夫だ。俺は団長を助けに行く!誰かついてこい!!」
短い黒の巻き毛の、妙に可愛らしい男が叫んだのが聞こえた。
一瞬でイルゼの全身の毛が逆立つ。
「団長がどうしたんですか!?」
「先遣隊として囮になってる!!」
それだけ言って、男はもう行ってしまう。話す暇などないとばかりに。
イルゼが追いかけようとしたその時。
『お前たちは余計な行動はするな。人を助けようだなんて考えるな。自分自身を守って帰ってくることが、お前たちの今回の任務だ。』
カミュの声が頭に響いて、一瞬迷いが生じる。
カミュはどこだろう。許可を求めた方が・・・ああ、あの男が行ってしまう。
固まるイルゼの横を、誰かが風のように通り過ぎた。
「ユージーン!?」
「遅いぞイルゼ!先に行く!!」
イルゼが我に返った時には、ユージーンは先ほどの男に追いついていた。
「あいつ・・・・見かけによらず無鉄砲すぎるだろう。」
呆れるイルゼ。しかしその顔には、笑みが浮かんでいた。
*****
馬を下り、パラパラと襲ってくる敵を倒しながら、山道を登っていく。
武力だけなら第1騎士団の中でも最高峰の新人2人は、いつの間にか第4騎士団の騎士たちの先頭に立っていた。
「次こっち!!」
黒い巻き毛の男が、道案内をする。
途中で気が付いたが、確か第4騎士団の副長だ。
「父上!」
「おうイルゼ!助かったぜ。戦力差がありすぎたからな。こうやって潜伏しながら、ちょっとずつ数を減らしていってたんだ。」
しばらくすると、向こうからも敵を倒しながら来るローガンと、数人の騎士達に行き会った。
目立たないように顔に泥を塗ったローガンの姿は、盗賊団のフリをしている敵の誰よりも盗賊っぽかった。
ローガン達の背後には、無数の敵が倒れている。
安心のせいで、体中の力が抜けそうだ。
「父上って・・・団長のお嬢さんっすか?」
「おーう。可愛いだろ。」
「ホントに可愛かったんですね。・・・酔っ払いの戯言かと・・・。」
「あー?お前ちょっと面貸せオーランド。」
父はどうやら、第4騎士団で楽しくやっているようだ。
*****
「ユージーン。今日はありがとう。」
もう遅かったので、一泊野営してから帰ることになった。
第4騎士団の選んだ見通しの良い平地で、無駄のない訓練された動きでテントを張り、夕食の支度をする。
新人は率先して動き、やる事はたくさんあった。
先輩全ての配膳を終えた頃には、既に大半の者が食事を片づけ始めていた。
お陰で場所が空いていて、椅子代わりの良い木箱に座って、ゆっくり食べられそうだ。
「ああ。」
「でも、私の為に、あまり危ない真似はしないでほしい。」
2人の独断行動は、カミュにしっかりと注意された。
長々と厳しく注意された後、最後は「まあ判断としては悪くない。」と言って、笑ってくれた。
第4騎士団の副長、オーランドが一緒に来て、事情を説明してくれたおかげもあるかもしれない。
何と言うか、貴族なのに面倒見がよく、随分苦労症の人のようだ。
「言っただろう。俺がやりたくてやっているだけだ。何かで返せなどと言う気もない。求婚も、3か月一緒に行動して判断して、本当に断りたかったら断ってくれても、構わない。」
断られても、諦めるとは言っていないが。と、ユージーンは心の中だけでつぶやいた。
「ずるい。」
「・・・は?」
イルゼの言葉に聞き返すユージーン。別に聞き取れなかった訳ではない。
さすがにこの状況で、「ずるい」と言われる心当たりがないだけだ。
「ずるいと言ったんだ。ずるい!ユージーンはずるい!」
「意味が分からないのだが。恩に着ろとは言わないが、ずるいとまで言われる覚えは・・・。」
「ずるい!断ってくれていいってそんな・・・・こんなの、断れるわけない。好きにならないわけないじゃないか!!」
イルゼの言葉に、固まるユージーン。その言葉の意味をゆっくり、ゆっくり理解し、次第に頬が緩む。
「格好良すぎるだろう。ずるい。こんなの、断れる奴いないだろ。もうやめてくれ。これ以上私は・・・・・。」
真っ赤になって言い募るイルゼに近づき、ユージーンはそっと抱きしめた。
嫌がられないのを確認したら。ギュッと少しだけ、力を込める。
「・・・・・ずるい。」
「・・・ああ、そうだな。」
「もう危ない真似は止めてくれ。」
「・・・・・・・善処する。」




