あまり話した事のない同期に、卒業パーティーに誘われた
騎士学校。
騎士を目指す子女の中でも、士官クラスを目指す一握りの者しか入学できない、エリート校。
厳しい訓練を耐え抜き、3年後の卒業を迎えられるのは、更にその5割から7割と言われている。
卒業生は例外なく王宮直属の騎士団に配属される。
3年間を耐え抜いた若き精鋭たちが、この時ばかりはと着飾って出席する卒業パーティーだ。
各騎士団の団長級も出席する晴れ舞台。
イルゼは騎士団養成学校が創設されて以来、初の女性首席として、その証である赤いバラを誇らしげに胸に飾り、人生最高の時を過ごしていた。
隣には同期のパートナー、ユージーン。
その胸には、次席の証である白いバラが挿されている。
3年間、首席を競い合ってきた学友だが、イルゼは今までユージーンと個人的に話したことはほとんどなかった。
というか、男子には遠巻きにされ、数少ない女子の輪にも入れず、3年間ほとんど1人でいたといっていい。
卒業パーティーは、男女比が偏りすぎている為パートナー必須ではない。
いつも通り1人で出席する予定が、何を思ったのか急に次席のユージーンが、イルゼにパートナーにならないかと声を掛けてきたのだ。
しかし、いざ当日になってみると、殆どの者がパートナーを連れてきている。
今日はパートナーと親族に限り、外部から招待することが認められていた。
士官クラスを育てる騎士学校には、貴族の子弟が多く通っている。
そのパートナーも当然、貴族の令嬢だろう。
小柄で華奢で、可愛らしいご令嬢たちが、色とりどりのドレスに身を包んでいる。
とても華やかで、見ていているだけで楽しませてくれる。
イルゼは今日、父親に買ってもらった唯一無二の、少し水色がかった清楚なドレスを着ていた。
イルゼにしてみたら目の飛び出るような値段のドレスだが、色とりどりの趣向を凝らしたドレスたちに比べたら、飾りも少ないし、シンプルで少し地味かもしれない。
でも・・・・・・。
「そのドレス、似合っているな。」
隣に立つユージーンが褒めてくれる。社交辞令だろうけれど。
「そうだろう?」
グッと背中を伸ばして、姿勢を正す。
日々鍛錬をしているイルゼがそうすると、ゆるぎなく大地に根を張るしなやかな若木のようで、周囲の者がホウッと感嘆の溜息をこぼした。
特に騎士団関係者からの視線が熱い。
「父上が、選んでくれたんだ。自慢のドレスだ。」
ニヤリとわらうイルゼに、ユージーンは軽く目を見開くと、今度は顔を伏せてしまった。
「・・・・・・ッ。」
「ユージーン?どうした、体調でも悪いのか。」
少し呻くような音を拾って、心配になってしまうイルゼ。
「・・・ふ・・・・・ふふ・・・ハハハハッ。」
驚いたことに、ユージーンが声を出して笑っていた。
3年間、共に時を過ごしてきたが、こんなに笑っているところは初めて見る。
「・・・・そんなに変か?」
さすがにそこまで笑われると、少々不安になってしまう。
イルゼは改めて自分のドレスを見下ろした。
「ふふっ、すまない。とても素敵だ。この会場中の誰よりも、お前が一番輝いている。」
普段笑わないユージーンが、まだ微笑んだままそんな風に褒めるものだから、イルゼは照れ臭くなってしまった。
「・・・・それはどうも。」
「ふふっ。お前意外と図太いよな。」
「ッ!ウルサイな。」
そんな話をしていたら、楽団の準備が整ったようだ。
曲の始まる合図があり、卒業生たちがホールの中心へ歩み出る。
「ほら、いくぞ。」
心なしか、まだ頬が緩んでいる気がするユージーンが、手を差し出してくる。
イルゼはその顔を一睨みしてから、手を重ねた。
騎士学校を卒業したら、準貴族となる。
授業では、一通りの貴族のマナーも受ける必要があった。
数少ない女生徒のイルゼは、男子生徒の相手で何度も踊らされたので、ダンスには少し自信がある。
まあ体を動かすと言う点では運動とさほど変わらない。
首席と次席のペアが歩いていくと、示し合わせたかのように、自然と他の生徒たちがスペースを空ける。そこは、一番目立つ中央だった。
音楽が始まる。
元々あまり緊張をする質ではないが、先ほどのやり取りで、すっかり緊張感は薄れてしまっていた。
せっかくなので、音楽に身を任せて楽しんで踊る事にする。
身体を動かすことは好きだった。
しばらく集中して楽しんで踊っていたが、気づくと何故だか会場中から視線が集中するのを感じた。
中には自分たちのダンスを止めて、イルゼ達を見ている者までいる。
「・・・私は何か間違った踊り方をしているだろうか?浮いているような気がする。」
「ふっ。動きのキレが良すぎて浮いてはいるな。」
楽しそうに微笑むユージーンに、まあマナー違反でないならいいか、とイルゼは思った。
実はイルゼの神経は本当に図太かった。
「それにしても、ドレスにして良かったかもしれない。騎士団の隊服と迷ったんだ。あれも正装だから。父上が、これを逃すと着る機会もないだろうから、せっかくだからドレスを着ておけって。」
「・・・・・それは・・・・・ローガン殿に感謝だな。」
赤バラを胸に挿した、燃えるような緋色の髪の女性と、白バラを胸に挿した美しい銀髪の二人は、まるで一対のようで。
完璧に息の合った二人の、しなやかで強靭なその素晴らしい動きは、誰にも真似できるものではなかった。
二人が踊り終えるまで、多くの者が、固唾をのんでその舞を見守っていた。