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短編集

安倍晴明物語☆夢幻の月~安倍家の日常~

作者: 夢月みつき

エピソードタイトルは、陰陽師☆平安妖草紙番外編~安倍家の日常です。


ちょうど、十三話の事件が終わって、ひと段落ついた頃の話です。

橙とねずみは、安倍晴明と蘆屋道満の法術比べを参考にしています。


本編にはあまり、描かれない晴明や美夕達の日常を書いてみました。

番外編は出来るだけ、本編絡みじゃ無い話にしたいと思って書いています。

ここは、都の安倍晴明(あべのせいめい)(やしき)土御門邸(つちみかどてい)

ここには鬼と人の化生(けしょう)の美夕と

播磨(はりま)法師陰陽師(ほうしおんみょうじ)蘆屋道満(あしやどうまん)が共に住んでいた。

今日は早朝から、晴明が弟子の道満の霊力を高めるため。

修行を兼ねた法力くらべをしていた。



二人の青年、晴明と道満の前に木箱が二つ置かれている。

「道満。この木箱の中身は、何だと思う?」と晴明がすました顔で聞いた。

道満はにやりと笑い「(だいだい)だ! それしかないっ!」と自信満々でズバリと答えた。

扇でパタパタとあおぎながら、涼し気な紫の瞳で道満の顔を見つめる。

「……本当に橙か?」扇をパチンと閉じ、木箱を交互に扇の先で軽く叩く。

その何でも、知っている紫のまなざしに道満は焦り始め、冷や汗を流し始めた。

「じゃあ、晴明ちゃんはなんだって言うんだよ~っ!?」と彼は口をとがらせて晴明を見る。



紫と茶色の瞳が交差する。その瞬間。

カタカタッ!

二つの木箱が勢いよく開き、中からハツカネズミが飛び出した。

「あっ! ねずみ!!」

晴明は素早く術をかけ、ねずみを捕まえた。

先ほどまでは生き物の気配や精気は全く、感じられなかった。

中身は、橙そのものだったはずだ。


晴明が術で橙をねずみに変えたのだと、道満は悟り悔しさで

顔を真っ赤にして晴明を睨んだ。

「にゃろう~! 陰陽術を使ったな?」



「私は、勝負の厳しさを教えただけ…さあ、そろそろ朝餉の時刻だ。

美夕と白月を待たせては、悪いからな。ゆくぞ。道満」と晴明は音もなく静かに立ち上がり、きびすを返す。

「ちぇっ! 解ったよ。美夕ちゃんと白月ちゃんを待たせちゃ悪いからね。行くよ!」

とまだまだ、諦めきれない様子で道満は晴明を横目で見ながら、

食事をする部屋へと向かった。



部屋の障子を開けると、美夕と鬼神の式神、白月(はくづき)が四つの箱膳を並べていた。

「晴明様、道満様。どうぞ。今日はお休みですので、たくさん卵を買いましたよ。」

と美夕はにこやかに言った。

「私は、黒月黒月(こくづき)兄様と一緒に食べます。ご主人様、美夕ちゃん。蘆屋様どうぞごゆっくり。」

と白月は、自分の箱膳を持ってすうっと姿を消した。


「白月ちゃんもいても良いのに。」と道満が言うと。

「そうだな、しかし。白月なりの私達への配慮なのだろう。」

と晴明が、静かに言い箱膳の前に座った。



今日の朝餉は、強飯(こわいい)とあさりの汁物。きゅうりとかぶのぬか漬け、

川魚の焼き物、新鮮な産みたての卵だ。

「うまそ~! 美夕ちゃん。いつも、ありがとね! いっただきまーすっ!」

道満は先ほどの不機嫌さが吹き飛んでいて、にかーっと笑うと手を合わせて食べ始めた。

「いただきます。」と晴明と美夕も、手を合わせて朝餉が始まった。


道満は強飯に汁物をかけて、卵に魚醤(ぎょしょう)を加えて豪快にかっ込み、魚をぱくつく。

晴明はあさりを食べながら、汁を静かにすすり強飯を一口口に運ぶ。

美夕はその様子をいつものようにちらっと見て、漬物をかじりながら微笑んでいる。

そんな朝の平和な食事風景。



朝餉が終わり、美夕が食器を炊事場で洗っていると、道満が入って来て美夕に言った。

「美夕ちゃん。水冷たいでしょ。何か手伝うことない?」

美夕は微笑み「大丈夫ですよ。それに、殿方に炊事仕事をさせるわけにはいきませんから。」と道満に言う。

その瞬間、道満は美夕を大きな身体で後ろから、

抱きしめてあごを頭の上にのせた。

「――道満様っ? どうしたんですか。いきなり」と美夕が頬を赤く染めている。

彼女の小さな胸が、ドキドキと鼓動して脈を打っている。

「俺とだんご屋に行かない? うまいだんごなんだ。」と大男の道満はまるで、少年のような純真な笑顔を見せた。



「良いですよ。おだんご好きですし!晴明様と白月さんにも聞いてみましょうか?」

と美夕が微笑みながら言うと、道満はガク―ッとうなだれ、

思わず小柄な美夕に少し体重をかけた。

「お、重い…」と美夕が眉根を寄せ、少し身をよじる。


道満ははっと気がつくと「重くしてごめん。でもね、美夕ちゃん。

晴明ちゃんと白月ちゃんは、いいんだよ…俺が一緒に行きたいのは、

美夕ちゃんだけなんだ。」と頬を染めながら、美夕の頬にちゅうっと口づけをして。

まるで、大型犬のような潤んだつぶらな瞳で見つめて来た。



「ど、道満様。私は…!」

と道満の口づけと熱視線に美夕は、頬を染めて酷く動揺したが。

晴明のことが脳裏に浮かんで道満の気もちに気づかず困り、目を泳がせて困っていると。

何となく黒い霧がただよってくる気配がして、美夕と道満は横を見た。


すると、晴明が綺麗な微笑みを浮かべ、腕組みをして立っていた。

「道満。美夕に何をしているのだ?」

晴明は「ん?」と、道満に顔を近づけて見ている。

口元は笑っているが、目が全然笑っていない。

「せっ、晴明ちゃんには、美夕ちゃんは渡さないよ!?」

と少し震えながらさらに道満は、美夕を必死に抱きしめる。

晴明の左手が伸びてきて、道満の耳が強く引っ張られた。



「痛ててて! やめろ~!!」

抵抗するが、あえなく美夕から引きはがされた。

ガルルとうなる道満に「そら、あっちへ行け!」と軽くあしらい追い払うと。


「大丈夫か? 炊事場は冷えるだろう。火鉢(ひばち)を持ってきてやろうか」

「ほら、ここもこんなに冷えている。」と晴明は、片方の手のひらで、美夕の頬を軽くさすった。

「晴明様まで…お気遣い嬉しいです。でも、大丈夫ですよ。私のお仕事ですし」


とにっこり微笑み、頬をさらに赤く染めた。

ドキドキと胸が高鳴り、心が温かくなる。



晴明は穏やかに微笑むと、「美夕、終わったら火鉢で身体を温めるのだぞ?

だんご屋なら私が今度、もっとうまい店に連れて行ってやろう。」と言った。

「ありがとうございます。晴明様!」と美夕は花のように微笑みかけた。

美夕は、別々の日に晴明と道満に連れられて両方のだんご屋に行き、

美味しいだんごと茶を堪能(たんのう)した。

化け物とさげすまれて来た混血の自分でも、こんなに優しい方達に恵まれて。

とても、幸せだなあと美夕は今、身体中に幸福を感じているのだった。




(了)



☆・・☆・・☆よろしければ、本編もどうぞ☆・・☆・・☆

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