2.部長の話
部長は俺の顔を見て大きなため息をつく。
「まぁまぁ、彼女まだ新人なんだからお手柔らかに頼むよ。最近はパワハラだのセクハラだのうるさいしさぁ」
「お騒がせして申し訳ありません。怒られてるっていうのにニタニタ笑ってたものですから、つい」
俺の言葉に部長は目を丸くした。
「は? 笑ってたって?」
「そうなんです。ちょっと異常ですよね」
さすがに同意してくれるだろうと思ったのに部長は「いやいや」と首を横に振る。
「僕の位置からも彼女の顔は見えてたけどずっと項垂れて神妙な顔してたじゃないか。嘘はいかんよ、嘘は」
「えっ……」
俺は絶句した。神妙な顔をしていただって? まさか、あり得ない。呆然としている俺を他所に部長は話を続ける。
「それにさ、ミスばかりしてるって君は言うけどね。彼女、ミスなんかほとんどしてないと思うよ? 僕のとこにもよく資料持ってきてくれるけど不備があったことなんてないし。新人なのによくやってる方だと思うんだが」
どうにも話が噛み合わない。これ以上言い募ってもいいことはないだろう。俺は謝罪し適当に話を合わせてその場を後にした。
(あの女、俺にだけ嫌がらせしてるってことか?)
思えば最初の挨拶からして様子がおかしかった。着任初日、山本はフロアの中央に立ち短く自己紹介をしたのだがその間中ずっと俺の顔を見ていた。勘違いなんかじゃない。知り合いか? と首を傾げたぐらいだ。もちろん会ったことなどない。
(まぁ、いい。どうせあと二か月ちょっとの辛抱だ)
短期派遣のため山本は三か月だけの契約だ。もうあんまり考えないようにしよう、そう思い帰宅した。