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 蘇我駅前から出ている無料バスに乗り、わたしたちは温泉施設を目指した。バスは、わたしたちと同じような高校生か中学生のグループで溢れていた。家族で行く時は、車で行くのが普通らしい。だから無料バスは学生が多くなる。


「タカシさー、練習試合行かなかったの? 昴大は今日、柏まで行くって言ってたよ」

「んー。行くかもしれなかったけど、昨日練習してみて、三年にぼくと同じポジションで総体まで出る先輩いるから、とりあえずぼくはいいって事になった」

「そっか。まあさすがのタカシでも、三年の先輩にはかなわないよね」


 真由と隆子が、バスケ部のことを話している。隆子はどこか浮かない顔だった。


「えっと、バスケ部って毎日練習しなくて大丈夫なの? 身体がなまったりしないの?」


 運動部未経験のわたしは、素人のふりをして質問した。わたしの前世の知識からすれば、運動部は毎日練習しているものだと思っていた。


「ん。そりゃ毎日練習したほうがいいに決まってるけどさ」

「タカシは天才だから。毎日練習しなくても、普通にレギュラー入れるくらい動けるよ!」

「そういうものなんだ」


 やはり隆子の答えは、歯切れが悪かった。経済的な理由だというから、本当は、毎日練習できないことにもどかしさを感じているのだろうか。

 そうこうしているうちに、バスは温浴施設へ到着した。さっそく三人で岩盤浴の受付へ向かう。


「二千円かあ。タカシ、大丈夫?」

「いいよ、別に」

「よっしゃ。じゃあ岩盤浴、いってみよー」


 真由にリードされ、受付を済まし、更衣室で専用の湯着に着替えてから再度集合する。半袖のゆったりした服で、たしかにこれなら恥ずかしくなかった。下着も脱いでしまったので、ちょっと落ち着かない感じはするが。


「ぎゃーっ、タカシの生乳! 久しぶりに見た!」

「生じゃないし。おさわり禁止な」

「ぎゃー」


 先に着替えていた真由が、隆子の胸に頭から飛び込もうとして、隆子に頭を押さえつけられていた。

 隆子を見ると、胸がひとまわり大きくなっているように見えた。もともと大きめだったのだが、胸の周りが遠慮なくぼふっ、と膨れているように見える。


「あ、みゆきちは見たことなかったっけ。タカシ、本当はFカップなんだよ。動きにくいから小さく見えるブラつけてるんだって」

「そ、そうなんだ、大きいね」

「みゆきちは……今後に期待?」

 

 わたしはこの三人の仲で一番胸が小さかった。前世と同じだとすればBカップか。


「別に、大きくならなくていいよ」

「えー? 大きい方が絶対モテるよ」

「わたしは別にいいかな。動きやすいし」

「ふーん。ねえタカシ、ちょっと分けてあげなよ」

「できるか」

「ぎゃー」


 また、真由が隆子に頭をつかまれている。その様子がおかしくて、わたしは笑ってしまった。

 三人で、岩盤浴を始めた。とても熱くなっている石の床に、仰向けになって寝る。これで徐々に身体を温めるわけだ。


「ほえー」

「ふー」


 真由と隆子は、おっさんのような声を出してくつろいでいた。わたしも、初めて体験する身体の芯が温まっていく感触に身を任せ、力を抜いた。

悪くなかった。もっと早く知っていたら、仕事の疲れを癒すために毎週通ってもいいくらいだ。でも前世のわたしは、このような娯楽があること自体知らなかった。

今のわたしのように、ある程度仲のよい友だちがいなければ、新しい娯楽を知ることもないのだ。そういう意味で今のわたしは、『そうひどくない人生』を謳歌していると言っていいのだろう。

三十分くらい滞在して、三人とも満足したので岩盤浴を終えた。


「うへえー! 汗びっしょびしょ!」


 真由が、急にわたしに抱きついてきた。この子、タカシや他の女子にもこういう激しいスキンシップを遠慮なくするので、時々驚いてしまう。


「ひゃん」

「おさわり禁止、って言ってるだろ」


 わたしが困っていたら、隆子が真由を引き剥がしてくれた。


「いいじゃん、ちょっとくらい」

「今汗でベトベトなんだからそんな近づくなよ」

「えー? みゆきちの汗いい匂いだったよ」

「……」


隆子は呆れてものも言えない、という顔で真由を見つめていた。

ちょうどお昼時だったので、近くにあったハンバーガー店で昼食をとった。


「ねえ、タカシさあ、この前告白されたC組の植田君への返事どうしたの?」


 食事をしながら、真由がちょっと控えめな感じで聞いた。どう考えてもデリケートな話題で、さすがの真由も気が引けるのだろうか。


「え、普通に断ったけど」

「なんて言って断ったの?」

「別にあなたのこと好きじゃないです、って」

「うひょー。スッパリ切っちゃったね」

「変に期待持たれても困るし。みゆきちはどうなの?」

「えっ、わたし?」


 話を振られるとは思っておらず、わたしは驚いてしまった。


「高校入ってから、誰かに告白されてない?」

「されてない、と思うけど」

「ぷっ。何それ」


 入学から今までの記憶がないからそう言っているだけなのだが、ちょっと不審に思われてしまった。笑い話で済んだから、まあいいか。


「中学の時とかは? 告白された事ないの?」

「うん。ないと思う。誰かと付き合った事もない」

「意外だよねー。みゆきち美人だし絶対モテるもん。実際、うちのクラスの男子でみゆきちの事、狙ってる子いるし」

「そ、そうなんだ……いつも寝てばかりだから、モテないと思うけど」

「そんな事ないよ」

「もし困ったら、大先輩の私が相談にのるよ!」


 真由が割って入ってきたが、頬にケチャップがついていて、とても頼りない大先輩に見えた。わたしが拭いてあげると、「あうー、ありがとう」と言って照れていた。

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