第6章・黒い天使の死の歌
悠里の部屋に差し込む夕焼けが訪問者の顔を真っ赤に染めている。
スピーカーから流れるのはヴェルヴェット・アンダーグラウンドの「The Black Angel's Death Song」。
訪問者が拳銃を差しだしながら言う。
「これはオマケ。おまえの持ってるのはノリンコのコピーだからこっちがグロックのオリジナル。弾がそれだけあっても壊れたらおしまいだろ。志那の仕事はそんな信用できないし」
「ありがとう」
「いやいや、こちらこそ。最近ヤクザがあまり買ってくれねーんだわ。平和だから。だからこういう大口は大歓迎」
訪問者に向かい頭を下げる悠里。
男が言葉を続ける。
「商売だからあまりこういうことは聞かねーんだけどかなりヤバいトラブルみてえだな。相手は誰なんだ?」
暫しの沈黙のあとで、
「…怪物たち」
悠里の背後を見ながら男が言う。
「あれやった奴らだろ、どうすんだ?」
「駆逐する。一匹残らず」
「そうか。だろうな…まぁ、死ぬなよ。オレおまえのことは好きだからさ。客とか関係なく勝手に友だちと思ってるんだからさ」
再び頭を下げる悠里。
不意にこぼれ落ちるひと粒の涙。
男、悠里の頭を軽く叩き、
「うん、じゃ行くわ。ぜってー死ぬんじゃねーぞ」
男が去った部屋。
振り返る悠里。
窓ガラスが割れて床に転がる辰哉の首。
テーブルに置かれている様々な武器。
部屋の中で悪魔の囀りの如く響きわたるバイオリン。
悠里がつぶやく。
「Choose to goだな」
(第6章・黒い天使の死の歌・終わり)