第4章・あいつならどうする?
グリーンハイツ内の小さな公園。
ベンチに座っている辰哉と女子高生。少女はギターを爪弾いている。
辰哉が言う。
「若いのにニルヴァーナ好きなんだ」
「いえ、好きというか…」
Smells Like Teen Spiritのリフを奏でながら少女が言葉を続ける。
「この曲ってコードが4つだけなんです。だからギター初心者向けとして有名なの」
「へえーオレも若くてニルヴァーナ好きだけど全然知らなかったよ」
少女、笑みを見せて、
「バンドとかやってないんですか?やってそうな雰囲気ありますけど」
「中学んときやろうかなと思って友だち誘ったことはあるんだけど、いわゆる音楽性の違いで…」
「どんな?」
「オレはそのときイエモンが大好きだったんだけど…」
「友だちは?」
「…ヴェルヴェット・アンダーグラウンド」
「え、中学生ですよね?」
「うん…1年生のとき、それも小学校出てすぐだよ」
黙り込むふたり。
しばらくして会話を続ける辰哉。
「そうなっちゃうよね。なにかにつけてあいつは渋いというか成熟してるというか…それもべつにカッコつけたり大人ぶったり気取ってもいなくて自然体で、オレなんかが太刀打ちできないレベルでさ」
辰哉を見て話を聞いている少女。
「だからさ、もうあいつに勝つのは無理だとしてもせめて差が拡がらないようにこう考えようとしてるんだ」
興味深げに辰哉を見つめている少女。
「あいつならどうする?…と、なにかことを始める前には必ずそう考えるんだよ」
少女が口を開き、
「いまはどうしたいの?」
「ホントはさ、キミをナンパして目の前の雑草を刈り取って…と思ってたんだけど…」
「だけど?」
「ちょっとそこでさ、なんかイヤなもん見ちゃってさ」
「それで?」
「あいつならきっとやることをする」
立ち上がる辰哉。
廃部屋に向かって歩きはじめた辰哉を目で追う少女。
窓ガラスもなく朽ち果てている部屋の前に立つ辰哉。
ドアを蹴り開けて言う。
「こらガキ、てめぇなにやってんだ?」
(第4章・あいつならどうする?・終わり)