第2章・悠里と辰哉
夜の商店街。
制服姿の悠里と辰哉。
辰哉、ケバブ屋の外国人に向かい、
「だからちょろまかした分を寄こすか金を返せって言ってんだろ」
「わたし言葉わからない」
辰哉、屋台の脚を蹴り折ると、
「てめーら調子よすぎねえか」
辰哉を制止して悠里が口を開く。
「もういいよ、上と話しさせて」
怯えた顔を見せる外国人に向かい更に言葉を続ける。
「携帯あんだろ、あんたのボスを喚んでよ」
ポケットから携帯を取り出して話し始める外国人の様子を見ながら辰哉が悠里に言う。
「おい、上って…」
「客商売なんだから当然だろ」
ケバブ屋の男が前を指差して言う。
「そこ左の道に来て言ってる」
歩きだす2人。
緊張した面持ちの辰哉。
平然と歩き続ける悠里。
街灯のない路地裏にたどり着く。
辰哉が言う。
「どうすんだよ、囲まれたら…」
「大丈夫。あいつらは見栄が命だからそんなことしないよ。そこがいわゆる…」
悠里、辰哉に笑顔を見せ、
「つけこむ隙ってヤツ」
しばらく待っているとジャージ姿の中年男が歩いてきた。
2人の前に立ち、
「なんか言いたいことがあるってのはオマエらか?なんだよガキじゃねえか」
悠里が言う。
「ただのガキじゃないですよ。上客かな」
男が笑いながら、
「度胸があるのかバカなのか…」
悠里、男の言葉をさえぎり、
「客だと言ってんだろ。草は枝ばっかだしアイスは混ざりもんだらけで紙は効かない。まともなものを渡すか返金してくれ」
笑い続ける男に向かい悠里が続ける。
「ヤクザが一般人騙してんじゃねえよ」
「あ?なに言ってんのかなぁ?」
「クレームだよ」
「ぼくちゃんはクレーマーですかぁ?」
笑みを浮かべたまま男が悠里に詰め寄る。
しかしその顔が苦痛にゆがむ。
男の横に立ち脇腹をナイフで刺している辰哉。
「ガキ!こらぁっ!」
悠里、目を逸らした男の鼻に向かって強烈な頭突きを叩き込むとよろめいた男の股関を膝で蹴りあげる。たまらず地面に膝をついた男の側頭部めがけてさらに蹴りを一撃。
仰向けに倒れている男の脇腹からナイフを抜き取る悠里。
辰哉に向かって差し出し、、
「ありがとな。これは持って帰って2度と使うな。死ぬまで引き出しの中な、約束だぞ」
辰哉、頷きながら、
「…そいつ死んだのか?」
「これぐらいじゃ死なねえよ」
悠里、男のポケットから財布を抜き出すと中身を確認して、
「まずは返金完了。あとこれは迷惑料ということで…」
ピストルを制服の中にしまい込む。
少し震えた声で辰哉が言う。
「殺したほうが安全じゃないのか?」
「いや、殺人だと警察も本気になるから。こんなウジ虫でも」
「でもオレら顔見られてるし」
「だからこうする」
男の両目に親指を突き刺す悠里。
眼窩をえぐる。
微かな呻き声が路地裏に響いた。
(第2章・悠里と辰哉・終わり)