いつも笑う君
僕の友人には素敵な人がいる。
どんなことにも前向きで明るく、そして僕が落ち込んでいる時励ましてくれる…そんな人だ。
彼女はいつも笑っていて、大抵何とかなるとよく口にしている。
「テストで点数悪かったの?この世には負けなんてない、あるのは勝つか学ぶかって言うし次は大丈夫だよ!」
「好きなキャラが当たらなかったの?来年復刻するから、その時まで二人で頑張ろう!」
「喧嘩しちゃったの?君は優しい人だから反省してるんでしょ?なら、あとは謝るだけ!きっと、仲直り出来るよ!」
僕が弱音を吐くたびに彼女は笑って、そして励ましてくれた。
しかし、少し疑問が湧いた。彼女は泣いたり怒ったり…笑顔以外の表情を持ち合わせているのかと。
僕がそんなことを考えていると、タイミングよく彼女から連絡が来た。
『今からゲームしよー』
僕はオッケーのスタンプを送り、ヘッドフォンをつけてパソコンの電源を入れる。部屋を暗くしてスタンドライトのみをつけ、彼女がゲームに入ってくるのを待った。
「おつかれ〜。お、準備が早いね」
「おつかれ、丁度暇だったんだ」
「さすが暇人」
「ほら、馬鹿にしてないでやるよ」
彼女ははーい、と言って僕が作ったルームに入ってくる。
「明日休みだし、今日は一位取るまでやるよ」
「僕を寝かせない気だね」
「あたりまえ〜」
彼女は楽しそうに鼻歌を歌いながらキャラクターを操作し、装備を集めている。僕は彼女に装備やアイテムの場所を伝えながら、自分も敵と戦う準備をする。
「35に敵…えーっと、2人かな」
僕の指示に彼女は了解、と言って敵を撃ち抜いていく。
相変わらずいつやってもこの人はものすごくゲームが上手で、僕と組まなくてもいいくらい強かった。
「やばい、撃たれてる」
彼女の声が聞こえると、いつの間にか二人とも負けていた。
「君〜余所見してたね」
「ごめん」
「仕方ない、許す!つぎつぎ〜」
楽しそうな彼女の声を聞いて、僕は一安心した後さっきまでの疑問が思い浮かんだ。
「少し訊きたいことがあるんだけど」
「ん?何?」
「君ってさ、何でいつも楽しそうなの?」
僕の質問に彼女はうーん、と唸った。そして、しばらく考え込んでから僕に言った。
「そんな事が知りたいの?…私はね、よく言えば前向きで明るい子、だけど悪く言えば物事に無関心なの。あ、125敵」
「了解…そんな風には見えないけど。割ったよ」
「おっけー。無関心であるが故に私は人生を謳歌しているように見せてるんだよ、賢いでしょ」
彼女は自信満々にそう言っていて、本当に無関心な人間には見えなかった。
というか、これを賢いと言うのか…?
「でもこんな私にも恐れていることがあります!140敵、145入れた」
「どんなこと?…ごめん、回復された」
「どんまいどんまい…人間関係が崩れることかな」
彼女の言葉に僕は思わず指の動きを止めてしまいそうになった。
自分自身が無関心であると述べた彼女が、まさか人間関係を恐れているとは思わなかった。
「君は私の言葉で救われているかもしれないけど」
「自分で言う?」
「いいじゃん。私が笑い明るくあることがいいことだって思わない人もいるの…馬鹿にされてるって感じる人もいる」
彼女の真剣な声色に、彼女は本当にそう感じているのだと思った。
「それに気付いてから、私は人と上手く関わる方法が分からなくなった」
彼女はそう呟いた。
「笑顔って大事なんだけどね〜。だからこそ、君と一緒にいるのは居心地がいいんだ。ほら、撃たれてるよ」
「本当だ…何で?」
「君が単純で素直だから!」
「それって、馬鹿ってこと?」
「違うよ、そう言うところが好きだってこと」
彼女がそう言った時、僕のパソコンの画面には一位と書かれたリザルトが映った。
「君がいてくれて助かってるよ、ありがとう」
「…こちらこそ」
なんだか気恥ずかしくなってしまった。彼女は無関心だからこんな事も平気で言えるのだろうか。
「これからも仲良くしてね」
「勿論だよ」
嬉しそうな声がヘッドフォン越しに聞こえてきて、なんだか僕も嬉しかった。
ふと時計に目をやると、とっくの昔に日を跨いでいた。
「一位取ったし寝る?もう一戦いっとく?」
「そうだね、もう遅いし…」
僕はそこまで言って少し考えてから、言った。
「いいや、もう一戦行こう」
「今日は交戦的だね」
「そう言う気分になったんだよ」
僕がそう言ったあと、彼女が笑う声がした。
今日はまだゲームをしてたい気分になったんだよ、君と。