幕外その二 神々のホームルーム
幕外その二 神々のホームルーム
「全員、座って。芝君、武器の持ち込むは禁止ですよ。今なら見逃してあげるから、しまいなさい」
この教室の担任Xが高らかに声をあげました。あ、実況は引き続き平夢ダルです。
「事情は伺いました。皆は誰が悪いと思いますか」
Xの号令を皮切りに、論戦が、いえこれは罪の意識の擦り付け合いが始まりました。
「がやがやくどくど」
ちょっとこの情報量の多さには閉口します。後で書き起こすと致しましょう。
「静かに!」
担任Xは大きな声でみんなを黙らせました。彼なのか彼女なのかわかりませんけど、この先生は宇宙初めの文明の神だそうです。見た所宇宙人にしか見えません。宇宙人の神なのでしょうね。いわゆるグレイですかあれそのものにしか見えませんけれどね。
「平夢君!」
あれ? 私が先生に呼ばれたのは初めてかもしれない! そう思った私はバネのように立ち上がりました。
「ハイ!」
いえ、冷静になってみると点呼がありますね。反応してから気づきました。
「君なら過去を見ることができるんじゃないかね」
いやまあ確かにそうなのですが。
「そういった事なら私より得意な人がいるじゃないですか。アカシックレコードを読んだりした方が絶対早いですから!」
ぶっちゃけ疲れるんですよ、あれ。ディスクというよりビデオカセットに近い感じですね。お目当てのものを見つけるまで早送りをして探らないといけないのです。
「確かに君の力は、物事の表層面しか見ることができなかったり他の生徒と比べると劣っているところもある」
ほら、そうでしょう! って私、けなされている!?
「あ、はい」
ちょっと消沈しながらも相槌。
「しかしその場合その方がいいのです!」
お、そうなのですか。今度こそ褒められているのですよね。一旦落とされているので疑心暗鬼な私です。
「あなたは自分が浅薄だとか落ち込む必要はないのです。例えば人間には物事の表層しか見えません。しかし思考や観察をすることによりそれを突き止めることができます。しかし君のまっすぐな性格のせいで人間ですらやるような事も貴方はできない」
ああ、私はどうせ成績も悪いですし。いくらでもけなしてください。
「だが、それがいい!」
今更何ですか。私なんか都市の辺縁で体育座りしたままぼうっと外を眺めているのがお似合いですからね!
「そう落ち込むことはありません。すべての人間が、神や宗教が陥った認知バイアスの罠。彼等はものの内部を解析する時、己の思想に引きずられてしまうのです。平夢君。きみが学級新聞に興味があるのは大変結構で有意義なこと。人の世のマスコミを御覧なさい。宗教人種思想国家に染まり切っています。先生はあなたに期待しているのです!」
座ったままでもあらゆる出来事を把握できる私にとっては、楽だなあとぐらいにしか思っていなかったのですが。驚いたことに先生は本当に私に期待してくれているのですか!
「しかし、私の流す情報なんてものは、本当に表層的なものですよ?」
先生のおっしゃることは分からないでもないですが、自信がありません。
「真実である事の重要性に比べれば、何の問題もありません。貴方には浅薄なアレンジをしないという才能がある!」
才能! ああ、何と甘美な響き!
「時間を遡るとすれば、かなりの疲労を感じると思うのですが。やり切る自信はありませんね」
もっと! くだらない、つまらない、取るに足らない俗物の私を称賛して下さい!
「少し待ってくれないか、担任X」
私の欲望に水を差したのは他ならぬ松田アフラ君でした。
「なんでしょうか?」
担任Xは感情の読めない仮面のような顔をアフラ君の方へと向けました。
「時間を遡って観るとして、ダルの疲労は癒しの得意な者に任せるのだろう。だが、癒し手はしょうろさんを蘇らせる事も可能だろう?」
ああ、確かに。
「ええ、その通りです。しかし真実を知ってからでも遅くはないでしょう」
担任のこの言葉には女子からの不満の声が漏れました。
「そうか、そこまで考えているのなら、俺は担任に賛同する」
この鶴の一声で私は時の旅へと出向くことになったのです。