序章 幕外
キノコは湿っていればそれで幸せだった
大地を支配して気が向けばひょっこりと頭を出したり
土の中で隠棲する子もいるな
本当はみんな太陽が怖いんだ
陽キャラなんて嘘
湿っていればそれで幸せ
そんなキノコに私もなりたかった
幕外 神々の世界の終焉の始まり
そんなメモが一つ。髪が長く地味なブレザーを着た女子高生の遺体のそばにありました。
死因は服毒。白い天使と呼ばれる毒キノコを口に含んだのです。
言い忘れていましたが彼女は人間ではありません。神様たちの通う学園がありました。学園には一学級のみあり、四十人の生徒が通っています。
彼女草平しょうろは、学級の中でも目立たない女神さまでした。勉強はよくできましたがコミュニケーションの苦手な子だったですね。神が毒キノコで死ぬのですかって?
まあ、彼女はキノコの神様。彼女のキノコならきっと死ねるのではないでしょうか。
それより問題があります。
学級の女神様たちが犯人の追及を始めたのです。確かに理由もなく自殺なんてことをするはずもないのですが。
彼女らはやはり普段から素行の悪い奥菜麻辣君や戦場アレス君からやり玉に挙げていきます。全ての男子を疑ってそれでも犯人が見つからなかったならどうするんでしょうね。今度は女子を疑い始めるのでしょうか。いやあ、女って怖いですね。
おっと今度は男神側からの反撃です。といっても松田アフラ君が不良たちの弁護をしただけですけれど。松田君は女神様達の強硬な姿勢をたしなめながら、なぜそうなったのか理由があるはずだと彼女達に質問を投げかけます。
まあ、しかし人死にならぬ神死にが出ている以上、女神様達の態度も分かる気がするのですが。
なるほど。強硬な態度というのは男神ばかりを疑う態度のことを指していたのですね。それなら確かに納得です。
松田君が追及するたびに、戦城アテナさんの美しい顔がどんどん曇っていきます。とうとう反論も出来なくなり、戦城さんは黙りました。教室内は静寂に包まれます。
「乱暴されたのさ」
沈黙を破ったのは、テオトルさんでした。性や不浄を司る女神のこの発言は無視できない重みがありますね。
テオトルさんをキッと睨みつける戦城さん。なるほど、草平さんの名誉を守りたかったのでしょうね。
同時に乱暴となれば十中八九男神の仕業に違いないのでしょう。女神様達の頑なさもそこに起因するのでしょう。
「ガツン!!」
なんですか芝君殴らないでください。痛いなあ。
「何メモってんだ。お前はどっちにつくんだよ」
争いとなると芝君は容赦ありません。破壊神ですからねえ。
「なんですか。中立じゃまずいのですかね」
そんなにぽかんとした顔をしないでください芝君。
「言っておくがお前も疑われているんだぞ」
なんと私のことを心配してくれているのですね!
「うれしそうな顔するな。気持ち悪い!」
ああ、はい。私もイチャイチャする気持ちは毛頭ありませんので。
「女がこの手の気持ちを抱いたとき、どうなるか知ってるか?」
知りませんね。全てを見通すといっても見たまんましかわかりません。
「相手を破壊しつくしたいという渇望だ。たいていの女神は、そのための力を持たないから口だけで解決しようとするのさ」
破壊神さんには、その気持ちがわかるのでしょうかね。
「ああ」
肯定されてしまいました。しかし中立は貫きますよ。例えラグナロクが起ころうとも、ハルマゲドンが起ころうとも、太陽が代替わりしようとも、アスラ族が再起しようともです!
「アスラは見逃せねえがな。そうか、お前が俺たちのことを後の世に伝えてくれるならそれもいいか」
そういうと芝君は女神様達から私を守るように立ちはだかります。
現場は依然、緊迫した空気感に支配されています。今は口だけで言い合っている状態です。戦力的には男神の方が優勢なのでしょうが男神たちの中にも女神側を擁護する動きもあり先行きは不透明です。以上、リポーターは平夢ダルでした。