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針~君と刻む時~  作者: 渋谷幸芽
3/17

孤独な闘い

歩は、あても無く制服のまま街中を歩いて、目に止まった利用客が居ない公園に入ってブランコに腰掛け、何とか気持ちを落ち着けた。

「あれ、歩?」

勢いで飛び出したが、これからどうするべきか、考えていると、聞き覚えのある声に呼ばれた。

声が聞こえた公園の入り口に目線を走らせると心配そうに歩を見る大地が居た。

「お兄ちゃん・・・・・」

大地は高校の不良仲間2人と一緒だった。

2人は心配そうに公園に入っていく大地に続いて一緒に中に入ってきた。

「へぇ、時々話に聞いてたけど確かに良くも悪くも、あんま似てないのな」

唇と耳にピアスをした、茶髪をオールバックにした大河内健二(おおこうちけんじ)が、歩と大地を見比べ歩を見下ろした。

歩は素直な感想に失笑しながら、とりあえずブランコから立ち上がり友人2人に挨拶した。

「兄がお世話になります、初めまして、妹の歩です」

「いえ、こちらこそ、初めまして、大河内健二です、っていうか大地の妹、話には聞いてたけど本当にデカいな、びっくりした、俺ら決して小さくないのに3人とも身長負けてるんだけど」

もう1人の煙草を吸っていた少年も煙を吐き出しながら歩に近寄った。

「いや、身長だけじゃ無い、きっと成績も抜かれているだろう、それより学校どうしたの?」

歩は精一杯強がった。

「授業つまらなくて早引きしてきました」

「じゃあ、俺達と遊ぼう」

気さくに歩に近寄りながら吸っていた煙草をポイ捨てした。

「あ、ポイ捨て!街を汚した」

歩が真顔で指摘して露骨に不快感を露わにした。

思わず助けを求めるように少年は大地を振り返った。

「拾っておけ(まさる)

大地に促されバツが悪そうに、捨てた煙草を拾って携帯用の灰皿へと入れた。

「ハイ、拾ったから許して」

意見されると思っていなかったので驚いて見せながらも勝は素直に煙草を拾った。

「根は良い奴だから許してやれよ」

大地にフォローされた勝が、すかさず気を取り直して申し出た。

「じゃあ、改めて、俺は熊谷勝(くまがやまさる)!歩ちゃんみたいに白黒はっきり言える人、俺好きだわ!ダチになろう?」

申し出を笑顔で受け入れながら、何でも無いような、そんな会話が異様に温かく感じて堪え切れず涙が溢れた。

予想外の歩の反応に3人は驚くばかり。

「何、何で?どうした?!って言うか、どうすれば良い?大地」

「いや、俺に言われても・・・・」

困惑を深める3人を前に、歩は泣き続けた。

「遊ぼう!こういう時はカラオケが一番だ!何か分からないけど学校に行きたくないんだろう?あ、でも制服のままじゃ補導されそうだな、家に帰って着替えるか?」

「そうだね、お母さん、もう仕事行った筈だし・・・・・直ぐに着替えてくるから、お兄ちゃんたち、ここで待ってて」

「ああ」

家出して、学校にも行かず働きもせず、母親を困らせている大地だけど歩の事は何だかんだ言っても可愛く思っていたのだ。


 歩は家に戻って素早く着替えると大地達と合流して、一緒に、カラオケに行ったりゲーセンに行ったりして愉しんだ。

若干の罪悪感を覚えながら遊びまわっている間、とても楽しかった。

しっかりとリフレッシュした後、千春が夕方からの仕事に出かけた頃を見計らい、歩は大地達と別れ帰宅した。

「今日は色々、ありがとうございました」

「いえいえ、また遊ぼう!」

健二と勝が笑顔で歩と別れた。

大地も、歩を気に掛けながらも、友達と街中に消えていった。

3人の姿が見えなくなるまで公園で見送り、歩は一つ大きく深呼吸して、家路に着いた。

「・・・・・明日から頑張ろう!」



 家に帰ると、翔が玄関に居た。

「歩、今まで何処を行っていたんだよ!」

「ゴメン・・・・」

「いや、謝って貰う事は何もないけど・・・・・Å組の奴から歩は早退したって聞いてたし、病院でも行ってたのか?」

自分を心配してくれてる翔に本当の事を話す気になれず、誤魔化した。

「ちょっと体調悪かったんだけど思いのほか楽になったから図書館で勉強していたの」

言いながら歩は本当に体調の悪さを感じた。

冴えない顔色で、少しふらつきながら玄関のドアノブを握った。

「大丈夫かよ、図書館より病院に行った方が良かったんじゃないか?」

「大丈夫・・・・・それより、来てくれてありがとう、寄ってく?」

「いや、体調悪いんだろう、ゆっくり休めよ、また明日な」

そんな2人の親し気な姿を、病院に行く途中だった悠太に見られてしまっていた。

悠太は、思わず不愉快になりながら、空き缶を蹴り飛ばしながら病院に向かった。

クラスでは、歩をイジメようと、皆を煽り立てて、一方では学級委員をやっている悠太。

歩からしてみたら、一生許せない相手だけど悠太もまた、重い物を背負っていた。

悠太が小5の冬に悠太の父親が、車を運転中に人身事故を起こし、その罪を償う為に現在も服役中だった。

事件を機に両親は離婚して、名字が「高梨(たかなし)」から母の旧姓「甲本」に変わった。

取引先から掛かってきた電話に運転中に出てしまい、前方不注意で赤信号を見落として横断中の歩行者を撥ねた。

被害者は長く昏睡状態に陥った後、そのまま息を引き取った。

近所の目もあり、当時住んでいた埼玉を離れ小6の春、静岡の、この地に来た。

狭いアパートで2人、生活していたが。

悠太が中学に入って暫く、母親の悠子は腰痛や目眩等、体調を崩す事が多くなった。

それでも病院に行かずに、残業も頼まれるまま引き受け、小さな印刷工場で働き続けた。

だけど半月前、悠子は遂に職場で倒れて救急車で総合病院に運び込まれた。

過労の影響で腎臓が悪くなっていた。


 悠子の入院している病室に入ると、丁度先生が悠子の診察をしている最中だった。

カーテンの仕切の向こうから、微かに聞こえてくる明る目の声。

少しすると、カーテンが開いて、先生が出てきた。

「悠太君、来ていたのか、お母さん、少しずつ良くなっているからね、大丈夫だ」

「・・・・有り難うございます」

悠太は、先生が出て行くのを見届けると近くのパイプ椅子に座った。

「着替え、持ってきた」

「有り難う、悠太!ねぇ、ちゃんと食べているの?少し痩せた?」

悠子は着替えの入った紙袋を受け取り、心配そうに悠太の髪を撫でた。

「食べているよ!俺の方は心配しなくて大丈夫だから・・・ユックリ休んで?」

しかし、実は悠子が懸念したように、学校で出る給食以外、食事らしい食事を殆どしていなかった。

朝は野菜ジュースを一杯。

夜も面倒になると、抜いてしまったり、インスタントラーメンや給食で残したコッペパンを食べて済ませたりしていた。

肝心な時に傍に居てやる事も出来ず、今まで沢山の苦労をかけてきた息子に更に報告しないとならない事が有った悠子。

実は、日中、職場の社長、津田が来て、解雇を言い渡されたのだ。

君の代わりは幾らでも居る。

余りに情けなくて、子供に話せるような事ではないけれど・・・・・。

「ねぇ悠太、ここでは出来ない大切な話があるの、ディールームに行かない?」

言いながらベッドを降りた。

「別に良いけど動き回って体は平気なの?」

「ええ・・・・」


 病室を出て、フロアの突き当たりにあるディールームに移動した2人。

「で、話って何?」

「ゴメンネ悠太」

「え?」

唐突な謝罪に一瞬戸惑った。

「お母さん、実は、工場を辞めさせられちゃったの」

「・・・・そんな!何で母さんが、そんな目に!あんなに頑張っていたのに!」

「ごめんね、余計な心配ばかりかけて、大丈夫よ、直ぐに退院して今よりも、もっと良い所に就職してみせるわ!それでね、明日にでも私の代わりの人が来るらしくてロッカーを今日中に空けないとならないからって、悠太、悪いんだけど荷物、受け取ってきてくれない?」


 病院では、周りの目も有るので何とか自分を抑え付けていた悠太だったが。

病院を後にしたその足で、悠太は悠子の勤務していた印刷工場に向っていた。

従業員は既に全員帰った様子だったが、社長の津田は居た。

戸締りをしている社長に声を掛けた。

「あの、こちらの社長さんですか?僕、こちらで働いていた甲本悠子の息子です、いつも母がお世話になっています」

「ああ、ようやく来たか、荷物は事務所にまとめてある、こっちだ」

言いながら事務所に案内した。

従業員を全く大事にしない津田に、激しい怒りを覚えたけれど、悠太は、何とか怒りを押し殺して頼み込んだ。

「お願いします!母の解雇を取り消してください!」

「悪いが、もう新しい人を雇ったんだ、何カ月も休む人間を雇えるほど余裕が無いんだ」

それでも悠太は食い下がった。

(おっしゃ)る事はよく理解しています、でも入院費も工面しないとならないし自分も生きていかないとならない!家賃も払わないとならない!限度額申請が適応されても厳しい状況に変わりはありません!」

「何を大げさな!お父さんだって働いているだろう」

津田は悠太の訴えを真面目に聞こうともせず失笑して見せた。

「・・・・うちは母子家庭です!母一人子一人の母子家庭です、だから本当に大げさではなく困っています!どうか母の解雇を取り消して下さい」

「解った・・・・」

ため息交じりに、絞り出すように言われ、悠太は解雇を取り消してくれるのかと顔を上げた。

「ありがとうございます!」

「人の話を最後まで聞きなさい!さっきも言ったように雇用の継続は出来ない」

「・・・・え?」

「だが、そういう事情があるなら仕方ない、私も鬼じゃない!退職金を払うほど、何年も勤めてもらっては無いけど特別に明日にでも君のお母さんの口座に退職金を振り込んでおくから、入院費と家賃と生活費に充てなさい、色も付けておくから、そうすればアパートを追い出されずに済むだろう、親戚も居ないわけじゃないんだろう」

親戚など、頼れるはずが無かった。

事件の後、一方的に親戚からは絶縁状を突きつけられ、周りに味方など居なかった。

此処で母の仕事が無くなるのは、大袈裟ではなく本当に死活問題だった。

「頼れる親戚なんて居ません!どうか母の解雇を取り消してください!お願いします!」

「だから!もう明日から新しい人が来るんだ!義務も無いのに退職金払ってやるんだから納得してくれよ!閉めるから帰ってくれ!!」

全く取り合わない津田の対応に、遂に悠太の堪忍袋の緒が切れた。

「母さんは、どんなに体調が悪くても休まず残業も断らず働いてきた!あんたの下で働いてきたんだ!それを無理が祟って入院したら解雇するのか!ふざけるな!俺が何も知らないと思っているのか!残業代も殆ど払って貰えてないって暗い顔していたぞ!退職金だけじゃなくて未払いの残業代も払え!」

悠太は怒りの矛先を、だけど人に向ける事は何とか免れ、脇に設置されていた掃除用具入れのロッカーを力任せに殴った。

ベコン!

激しい痛みが、右手を襲った。

一瞬その音に怯んだ津田を一瞥して工場を出て行った。


 悠太は誰も居ない家に戻る気になれなくて活気付いている中心街を当ても無く歩いた。

駅前でストリートミュージシャン達が、好きな場所でギターを掻き鳴らして歌っていた。

どのグループも最近流行(はや)りの曲や、オリジナルの自分達の曲を演奏していた。

そんなミュージシャン達の前を感動する事も無く、立ち止まって聞く事も無く、駅前通りを歩いたが、不意に、とても耳に心地良いメロディを聞いた悠太。

最後まで聞きたくて思わず立ち止まったのは高校生位の3人のストリートミュージシャン達の前だった。

それは大地達のグループだった。

金髪で顔はピアスだらけで、カラーコンタクトまでして本当の顔が分らない程に手を加えられた3人の少年達の容姿はお世辞にも良い印象を覚えなかったが、音楽に込められた魂は本物で引き寄せられずに居られなかった。

世間の諸々の不満を叫び散らしたかった大地達はフリマでギター等、安い楽器を買って数ヶ月前から独学で音楽をやり始めた。

この日、大地達は、自信作のオリジナルの曲を演奏していた。

作詞は未曽有の大震災の風化を感じ始めた大地が手掛けていた。

作曲は当事者の大地の紡いだ詞に、思いに突き動かされた健二と勝が共同で手掛けた。

『何もない この地から 何を造れるの? 

それでも託されたよ 再建の火を

(ともしび)消えて 暗闇包み ()が続いてく

こんな日を生きて伝える これが役目かな

運命は残酷だね 全て奪い尽くして

支えも無く 死の誘惑 身に纏い彷徨う

過ぎていく時の中で 生きる理由を探す

知らない「誰か」も()ける(わだち)残そうか

過ぎ去る時の中で 色濃くなってくの

外野たちの冷めた目が 傷を広げる

同じ景色を分かち合えずに壁が隔てる

そう だからこの痛みを語り続けるの

運命に巻き込まれた (つるぎ)持たぬ戦士が

風化してく痛み唄う 君を守りたくて

一つずつ積み重ねたレンガで同じ物は創れない

だけどそれは立ち直りの証

この地に築く 揺るがぬ希望 共に広げよう

運命は残酷だね 全て奪い尽くして

支えも無く 死の誘惑 身に纏い彷徨う

過ぎていく時の中で 生きる理由見つけた

再建の明るい火で君の闇を照らす』

演奏を終えた大地が、悠太に声を掛けた。

「どうした?そんな、この世の終わりみたいな顔して」

指摘され悠太は咄嗟に笑顔を作ろうとした。

結果、全然うまくいかなかったが大地たちは、そこには触れず歓迎して見せた。

「俺達、毎日、此処で歌っているから気が向いたら、また聞きに来い」

その何でもないような言葉に遂に堰を切った様に悠太は泣き出した。

3人、一様に驚いて見せたが、悠太が落ち着きを取り戻すのを待った。

ほどなく少しバツが悪そうに、けれど幾分、すっきりした様子で悠太が感想を述べた。

「・・・・・なんか3.11を彷彿とさせる感じの歌でしたね」

「そうなんだよ!コレ、3.11をテーマに作ったんだよ!あ、もしかして、お前も被災者か?」

「いえ・・・・」

「そうか、まぁ良いや」

「あの・・・・・お言葉に甘えて明日も来て良いですか?」

「ああ、待ってるぞ!」


 翌日、いつも以上に学校へ行くのを拒否する身体に逆らって、それでも歩は学校へ足を運んだ。

とにかく、母親に心配掛けたくない。

1日でも休んだら、ズルズル、登校拒否に陥るから絶対に休まないと歩は決めていた。

そして必死に自分に言い聞かせる。

大丈夫、限界は、まだ越えてない!

自分は、まだ学校に通えているし、人を好きで居られる。

自分の教室の前で大きく深呼吸してドアに手を伸ばした瞬間、ドアが中から開けられた。

立っていたのは隣のクラスの真希だ。

思わず2人で驚いて、だけど真希は歩に体当たりして一瞥して教室を出て行った。

「待って!真希とちゃんと話したい」

「話す事なんてない!付き纏わないで!!」

歩は真希を必死で追いかけて何とか体育館の裏で追いついた。

「もう、しつこいな!早く話してよ!」

思わず2人で息を切らせながら冷たく対峙した。

歩は軽く息を整えた後、単刀直入に聞いた。

「・・・・・・あの日記、どういうつもりなのか説明して、私の何が気に入らないの?」

「どういうつもりも何も、書いた通りだよ!何もかも気に入らない!友達面して隠し事する所とか本当に虫唾(むしず)が走る!!」

「私の態度で、真希が何か、嫌な思いしたなら謝る、でも、隠し事って何?いつも真希には色々話してきたよ、友達だから、何か誤解してない?」

真希が冷たく失笑して見せた後、怒りをぶつけた。

「それがムカつくんだよ!一番肝心な事隠しておいて、よく友達なんて言えるね!?あんた翔君と付き合っているんでしょう!私だって中学に入学した時から好きだったのに!」

真希が一気に捲くし立てた。

思いもしない所に、真希が腹を立てていた現実に歩は一瞬何も言えなかった。

確かに悪意は欠片も無いが翔と交際している事は話してない。

単純に真希との間で、これまで恋愛の話題が出なかったし、聞かれなかったから話さなかっただけなのだが。

「隠そうとしても無駄だよ!うちの部の1年が翔君と、あんたが本屋で待ち合わせて帰るところを見ているの、せっかく大会にも選んで貰っているのに、あんな良い先生に抗議するとか理由つけて部活サボって、陰でコソコソ恋愛楽しんで!あんたのそういう行動が不愉快で仕方ないの!」

自分の行動が真希を不快にさせていた事を思い知らされ、謝るしかなかった。

「翔の事を話さなかった事は謝るよ、でも目を覚まして!両角は決して良い先生じゃないんだよ!お兄ちゃんから聞いた、あいつドーピングやっているんだよ」

「呆れた!よくそんな嘘つけるね!ちょっと自分への指導が厳しいからって嘘つかないでよ!」

「嘘じゃない!両角の所為でお兄ちゃんの彼女は人生を滅茶苦茶にされたんだよ!」

「・・・・・だったら歩は何で、そんなとんでもない顧問が居る陸上部に入ったの?!入部する前から不信感を抱いていたなら入部しなければ良かったのに!」

詰め寄られて歩は流石に言い(よど)んだ。

歩は中学に上がる際の大地との会話を回顧した。

陸上部に入るなら両角の不正には充分に気を付けるように忠告されていた。

そして可能ならドーピングの決定的な証拠を押さえてほしいと言われた。

「・・・・・人を信じる事は悪い事じゃない!でも信じて良い人間と、そうじゃない人間が居るんだよ!お願い!あいつに騙されないで!」

「そんなの答えになってないでしょう!納得できる答え聞かせてよ!無理やり話しをすり替えないでよ!」

一層詰め寄られて距離を確保して当たり障りのない動機を口にした。

「純粋に走るのが好きだからだよ、足にも自信あるし・・・・・・」

「そんなの建前でしょう!判るよ!あんたの魂胆(こんたん)は見え見えだよ!!両角先生を(おとしい)れようとしているんでしょう!あんたが、お兄さんから何を吹き込まれたか知らないけど、これ以上、両角先生に迷惑かけないで!」

冷たく対峙する2人を遮る様に予鈴が大きく鳴り響いた。

「陥れられたのは、お兄ちゃんの彼女の方だけどね」

「まだ言うの?!本当に最低だね歩!」

走って教室に戻る真希の後ろ姿を、立ち尽し見つめていた。

鳴り響くチャイムが気を重くした。

それでも自分を必死に奮い立たせ授業に出続けて3時間目の調理実習の時間で焼きそばを作った。

ここでも悠太は歩に幼稚な悪戯をした。

雑談ばかりで手先が動いてない皆と違い班活動から完全に孤立していた歩は黙々と調理を進め、いよいよ最後の仕上げ、味つけの時に悠太が幼稚なイタズラを仕掛けて来た。

色んな調味料を投入してきた。

周りは、ただ笑っているだけ。

「オレが味付けしてやるよ」

酢や砂糖までドバドバ入れて面白がる悠太を一瞥して、歩はイタズラに夢中になっている間に悠太の焼きそばの材料も、そのフライパンの中に入れて炒めた。

「あんたの分も炒めてあげる、おいしく味付けしてくれたお礼に」

歩は一対一のケンカには負けていなかった。

試食の時、仕上がった焼きそばは健康を害するレベルの不味さで2人は殆ど食べられず皿を見下ろしていた。

「そこの2人、残さず食べなさい!」

食の進まない2人を、家庭科教師の内田が注意しながら近付いてきた。

「・・・・ちょっと、美味しく無くて」

悠太が目を泳がせながら答えた。

「そんな食べられない程、不味い物が出来る筈無いわよ?このレシピ通り作ったら」

言いながら、黒板を振り返った。

そして、明らかに色が違う2人の麺を見て首を傾げ歩の紙皿を取り、怖々と試食して眉間に皺を寄せた。

思わずティッシュの中に吐き出し、一気に水を飲み干し眉間に皺を寄せたまま、2人に問い詰めた。

「・・・何したら、こんな味に出来るの?」

「甲本君が、私が味付けしている時にふざけて塩コショウや、お酢や醤油やソースや砂糖まで大量に入れてきたんです」

内田は極端に減っている調味料に気付いた。

「これは、他の皆も使う物よ!」

内田は一度、授業を終了させ、2人だけを残した。

「罰として、甲本君には後片付けをやってもらいます!」

「えっ?1人で片付けるんですか?」

「食べ物を粗末にした罰です、次の授業が始まる前に早くやりなさい」

内田に監視され、仕方なく黙々と、手を動かした悠太。

「終りました」

何とか次の授業が始まる前に終った。

「ご苦労様、甲本君、ここの調味料は皆で使うものなのよ、それをあんな使い方して食べれないものを作ったりしたら駄目でしょう、今後2度と食材を無駄にするような悪ふざけはしないでね?」

「はい」

「良いわ・・・・教室に戻りなさい」

悠太に続き、歩も出て行こうとしたが。

「待って、貴女にも話が有るの、鏑木さん」

「はい?」

「言いたくないけど、いじめられる方にも原因が有る場合があるわ、班活動からも孤立しているけど、仲良くする努力も大切よ?」

「・・・・私だって、仲良くしたくて歩み寄りました!でも毎日の様に物を隠されたり無視されたり」

校舎に本鈴が鳴り響いた。

「貴女が、もっと心を開いて歩み寄って行けば味方に成ってくれる人は居る筈よ」

「・・・・私が悪いの?意固地に無視を決め込んでいるのは皆の方です」

「そういう物の言い方も嫌われる原因よ?」

自分が何を言っても(とが)められると判り調理室を飛び出した。

けれど、次の授業に出る気になれなくて歩は屋上で1人ボンヤリしていた。

ベンチに仰向けになり、曇天を見つめた。

どうせ自分が1人、授業に出なくても先生は心配もしないだろう。

そんな事をボンヤリ思いながら、静寂を満喫している時、屋上に続く階段を上がってくる足音が聞こえてきた。

ギィ・・・・・。

重い鉄の扉が軋みながら開いた。

一瞬、教師が来たのかと構えたが、そこに居たのは校内一の強面(こわもて)で有名の用務の高浜だった。

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