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なにこれファンタジー

侯爵令嬢意中の人の正体は?

作者: 家紋 武範

異世界恋愛

パニック

ナニソレ


の流れになっております。

 私はビィルデアン侯爵家の三女、エルシア15歳。もうとっくに大人よ?

 父上は婚約しろ、婚約しろってうるさいけど私には心に決めた人が。


「エルシアさぁ~ん!」


 そうこの子。私より背が低くて華奢なブロンド男子。でも同級生よ。伯爵家の次男フィン。

 みんな弱虫フィンっていうけど、ほっとけない。守って上げたくなるのよね。


 手を上げて近付いてきたのはいいけど、案の定なにもないところにつまづいて、肘を机に打ち付けて泣きそうな顔をしてる。


「あらら。大丈夫?」

「えへ。どうってことないや」


「見せてみなさい」

「うん」


 フィンの肘を見てみると、服が少しだけ破けていた。


「あ、破けてる」

「ホントだ」


「脱いで。繕って上げる」

「え? エルシアさん、出来るの?」


「もちろん。女のたしなみよ」

「えへへ。じゃあお願いしようかな」


 フィンは破けた服を脱いで私に手渡す。薄いシャツは彼の体に貼り付いて、その肉体を想像させるため、私は少しだけ顔を赤くした。

 なだらかな時間が流れる。


「ほら。出来たわよ」

「ありがとう。エルシアさん!」


「こら。同級生なんだから“さん”付けはなし」

「え。だって、侯爵さまのご令嬢だし」


「この私が言ってるのよ。素直に聞き入れなさい」

「う、うん。え、エルシア」


 不器用そうに私の名前を呼ぶ彼は真っ赤になっていた。可愛い。


「エルシア。僕はキミを守れる男になる。僕はキミのことが──」


 そんなことをつぶやくフィン。私は、いつか彼がその言葉の続きを言ってくれるものだと待ち続けていた。




 しかし、それは訪れなかった。隣国から留学と言うことで、転校してきたマチルダ嬢が来てから変わったのだ。

 彼女のことは──。よく知らない。目立たなそうな服装。意地悪そうな顔立ちをしている。濃いブラウンの巻き毛は大人びた感じだ。同級生なのに、なんでも知っているような立ち居振る舞いがかんに障った。

 しかも、どうやらフィンは彼女に関心があるようだった。


 私は学園内で自分の机に座り、うつろな目をしてため息をつきながら悩んでいた。


「どうしたんだい? エルシア」


 そこに当の本人であるフィンはいつものように話し掛けてくる。


「べっつにぃ。このままじゃ、父にどこかの貴族に嫁に行けって言われそうで」


 その言葉にフィンは慌てふためいた。


「お、お、お。そんな、まだ早いんじゃないか?」

「どこが早いの? 花の命は短いの。どこかの誰かさんが貰ってくれないなら仕方ないでしょう?」


 フィンは赤い顔をして私の肩に手を置いた。彼の吐息が私の髪を揺らす。力強さを感じる。このままどこかに連れ去って欲しいのに。


「エルシア。いつか、いつかきっと言うよ。だから少し時間をくれ」


 私は彼の言葉に、黙って頷くしかできなかった。


「フィン?」


 私たちは声の方向を向くと、そこにはマチルダ嬢。フィンは焦った様子で彼女へと駈け寄った。


「な、なんでもないんだ。キミ。向こうに行こう」


 そういうとフィンはマチルダ嬢の背中に手を当てて、その場を去って行ってしまった。


 私の中に醜い感情がわき上がるのを覚えたが、はしたないとそれを抑えた。


「まったく。身の程も知らない小娘だわ。そう思いませんこと? エルシア様」


 声のほうを振り返ると、私の取り巻きの子爵令嬢、男爵令嬢が五人。柳眉を逆立ててマチルダ嬢が消えていった通路をにらみ据えながらこちらにやって来た。


「私たちが礼儀作法を教えてやったほうがいいかもしれません」

「隣国の文化程度も知れますわ。エルシア様のフィン様を横取りしようなどと」


 と私を煽ってくる。しかし私はそれを止めた。


「やめて。そんなことしてもフィンは喜ばないし、もしもフィンがマチルダ嬢を選ぶならそれは仕方がないことなんだわ」


 私の言葉に取り巻きたちは顔を見合わせてため息をついた。




 確かにフィンとマチルダ嬢のことは気になる。でもそれで自分を貶めるようなことはしてはいけないわ。


 その時──。教室の窓際で話をしていた男子生徒たちが声を上げた。


「あ、レッドン聖人(しょうにん)だ!」


 レッドン聖人は、レッドドラゴンを崇拝するという狂信者の親玉だ。レッドドラゴンの大型であるレッドンを神格化してやがてレッドンに世界は滅ぼされ、新世界がくると信じている。

 声につられて園庭を覗いてみると、なるほど白髪で長い白ひげ、ボロを纏ったレッドン聖人が、レッドンを空に向かって呼び続けている。


 四十メートルと噂されているレッドンをこんな王都の真ん中に呼ばれたらたまったものではない。


 万が一を考えてだろう。先生や用務員さんたち数人が、箒や長定規を手に持ってレッドン聖人を追い払いに行ったが聖人はどこうとしない。

 仕方なく用務員さんたちは箒でレッドン聖人を叩き出そうとしたが、細身の聖人はそれに耐えきれず、レッドンの名前を叫ぶとそこに倒れ込んだ。



 先ほどの太陽はどこへやら。にわかに園庭が曇る。先生や用務員さんたちは空を見上げて校舎の中に走り出した。

 その刹那、園庭に巨大なレッドドラゴン、「レッドン」が舞い降りたのだ。


 私と取り巻きたちは驚き、そこに立ち尽くしてしまったが、誰かが叫ぶ。


「地下室へ逃げるんだ!」


 叫び声を上げながら生徒たちは階段へ走り出す。私もそれに続こうと思ったが足がすくんだ。


「え、え、エルシア様、お逃げを……」


 取り巻きに声をかけられてハッとした。逃げなくては。レッドンの目が校舎のほうに向いた。グズグズしていられない。

 取り巻きたちは我先にと階段へ走る。だが私は足を止めた。


「フィ、フィンは!?」


 そう。フィンの姿が見えない。マチルダ嬢とどこかへ行ったままだ。

 私の取り巻きのひとりが声を発する。


「きっと、どこかに隠れておいでですわ。さぁお逃げを!」

「そんなことできない。きっとフィンのことよ! どこかでないてるのだわ!」


 私がフィンを捜して走り出すと、取り巻きたちは仕方なく地下室へ避難していくようだった。


「こら! 何をしている! 早く避難したまえ!」


 声のほうに振り向くと、先生が二人。私は訳を話した。


「なるほどフィンが。それは我々が捜そう。キミは逃げたまえ!」

「そういうわけには行きません!」


 私はドレスの裾を持ち上げて走り出すと、先生たちが追いかけてくる。あわや捕まるかと思ったとき、廊下の先にフィンを見つけた。ともにマチルダ嬢も。

 私は構わずフィンに向かって叫んだ。


「フィーーン!!」

「エ、エルシアーー!!」


 フィンは私の方に駆け出したところをマチルダ嬢に肩を掴まれる。しかし、それを振りほどいてこちらに来てくれた。私もフィンに向かって駆け出し、両手を広げた。


 しかしその時!

 私たちの目の前で通路が分断されたのだ。それはレッドンの尻尾が振り下ろされて破壊されてしまったためだ。レッドンの目が我々のほうを向いていた。


「エルシア」

「フィン!」


「キミを……愛していた」


 それは……。その声は覚悟のあるものの声だ。命をかけて守るものの言葉。それはあの弱虫フィンではなかった。

 それにマチルダ嬢が叫ぶ。


「やめなさいフィン!」

「いやだ。エルシアを守るためにはこれしかない」


 フィンは、胸のポケットの中から銀と赤のペンダントを取り出すと、空に掲げる。

 フィンの唇が「さようなら」と動いたことに気付いた。


 その瞬間、辺りは光に包まれたのだ。









「デャーーーー!」


 ズキューーン! キュンキュン。



「デヤ!」


 レッドンの前に立ちはだかる光の巨人。私は……。いえ、私たちはその者の名を知っていた。私はそれに叫んだのだ。


「エンゼルマン!」


 神から使わされたであろう巨大な英雄。私たちは誰言うとなく、そう名付けていた。

 まさか。まさかフィンが。私の叫んだ後に、後ろにいた先生からも声が聞こえた。


「やはりそうだったか」

「知っていたのか? ライディン先生」


「うむ。遠足の時に巨大猿人ゴリゴッリに襲われたとき。先月のヴアルテアン星人に襲われたときも、なぜかフィンだけいなかった。もしやと思っていたのだ」


 そうだわ。古代竜ドモリンの時も、四つのUFOが合体して出来る巨大ロボット、プリンス・ジョンの時もフィンはいなかった。すぐに逃げ隠れるからみんなから「弱虫フィン」と呼ばれていたけど、それは……。それは、フィンがそれらを倒した巨大ヒーロー、エンゼルマンだからだったんだわ!


 エンゼルマンの登場に校舎に残っていたものたちは歓声の声を上げる。


「エンゼルマン!」

「エンゼルマーーン!」


 声援を受けて、エンゼルマンは巨大恐竜レッドンへと肉弾戦を仕掛けた。激しい打撃にレッドンは一度揺らいだが、激怒してエンゼルマンへと猛攻を加える!


 危ない! エンゼルマン! エンゼルマンは片膝をついてしまった。

 レッドンは標的を変えて校舎のほうを向いて大きく息を吸い込んだ。


「まずい! 灼熱のブレスが来るぞ! みんな逃げるんだ!」


 そうライディン先生が叫ぶが間に合わない。足がもつれて転んでしまった。


 レッドンの口から、激しい灼熱のブレスが放出される。あわやこれまでと思ったその時!


「デャーーーー! グワ!」


 なんと、エンゼルマンが校舎の前に立ちはだかり、我々を守ってくれたのだ。しかし、レッドンの灼熱のブレスは一万八千度。それをモロに受けたエンゼルマンはその場に倒れてしまった。

 エンゼルマンの光る体が陰ってゆく。



 そう。エンゼルマンの体力は異世界では大きく削られてしまう。

 ここにいれるのは僅か三分ほど。

 あやうし、エンゼルマン!

 立って! エゼリウム光線よ!



「フィーーーン!!」


 私が彼の名を叫ぶと、エンゼルマンの目に光が戻った。彼は立ち上がる。しかしレッドンもさるもの、またしても灼熱のブレスの構え。大きく息を吸い込んだのだ。


 だがエンゼルマンは神に祈るように胸の前で手を合わせて握る。それをレッドンへと向けて前に突き出した。


 これぞエゼリウム光線!


 レッドンに直撃した光線は、彼の大怪獣を爆発させ、その肉体すら残さなかったのだ。




 エンゼルマンは校舎のほうへと向き直った。私は全てを理解した。


「フィン。いいえ、あなたはエンゼルマン。きっとフィンの肉体を依り代としてこの異世界の守護神でいてくれたのね。でも、同じ星からマチルダ嬢が迎えに来てあなたは遠い星に帰らなくてはいけないのだわ。それを正体がバレるまでとか、そんな理由で無理に留まっていてくれたのね?」


「デヤ!」


 エンゼルマンは大きく頷いた。そして空に向かって大きく手を伸ばし、飛び上がる。


「デヤ!」


 帰って行く。

 エンゼルマンが自分の星へ。

 その横をマチルダ嬢が運転するUFOが並走していった。



 




 エンゼルマンのお陰で異世界は救われた。私達は決してあなたのことを忘れないだろう。


 ありがとう、エンゼルマン。

 さらば、エンゼルマン。

 また会う日まで!



異世界公楽園ホールで、きっとまた会える!


【エンゼルマンショー】

異世界公楽園ホールでエンゼルマンと握手をしよう!

チケット 大人1500円、小人800円。

※コロナウィルス対策により、マスク着用をお願いいたします。(会場でも不織布使い捨てマスクを2000円で販売しております)

※コロナウィルス対策により、ゴム手袋(5000円)を購入して頂く必要があります。


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[一言] な、なんてこったい… 入場料よりもゴム手の方が高い…だと?
[一言] フィン:西の空に明けの明星が輝く頃…… エルシア:東の空を見るべきか宵の明星を見るべきか……
[一言] 何!チケットより…ゴム手袋の方が高い…だと!?
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