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 ちょっと読んだらノリでバレバレだとは思いますが、アメリカ映画を意識して書き始めました。

 最近面白いアメリカ映画を観た記憶がないので、それなら自分が作っちゃる! みたいな感じで(無謀)。

 ちなみに『羊たちの沈黙』のパクり……ではありません(断言)。

 今まで観た色んな映画を混ぜ合わせたオリジナル作品です(それオリジナルって言うか??)。


 スプラッターやグロはない予定で、幽霊なども出て来ないサイコホラーです。一番怖いのは人間、みたいなやつ。

 気が変わって流血描写入っちゃったらすみません(´・c_・`)


 ちなみに作者に娘は、います。

 高台から見下ろす夜の町は人工の明かりに包まれ、それがかえって寂しげに見えた。

 誰もが闇を恐れ、ほんとうは闇に包まれている現実を色とりどりの賑やかな光で覆い隠し、恐怖や不安から目をそらしている。そんなように感じてしまったのだ。

 見渡せる家の窓の明かりの1つ1つに、その中にはそれぞれの孤独があるように見えた。

 月は乾いた頭蓋骨のように、何もない夜空にただ浮かんでいた。


 ノイチは疎らな街灯だけが照らす暗い丘の上の道を車を走らせた。

 彼女にはこの世に2つだけ、ほんとうの明かりと言えるものがあった。

 1つは職場の研究室にあった。そしてもう1つはこれから帰る家に待っている。

 未舗装の道路に食料の詰まった買い物袋を揺らし、トマトが潰れたり卵が割れたりしないように、なるべくゆっくり車を走らせながら、明るい笑顔の待つ家へと急いだ。


 ママ、お帰り!


 そんな元気な声とともに奥の部屋から駆け出して来て自分を迎える小さな掌。それを頭に浮かべると、ノイチは思わず顔が優しく笑ってしまう。



 我が家が見えて来た。赤い屋根に白い壁の、可愛らしい外見だが母と娘が二人で住むには広すぎる家だ。しかし五歳で元気盛りの娘はそれでも狭すぎるとばかりにいつもすべての部屋と庭中まで駆け回った。今日は珍しく仕事が遅くなる予定になっていたので、1人で先に幼稚園から帰り、ママの帰りを待っている。


『いい子にしてるかしら』

 ノイチは車を車庫に入れると、耳を澄ました。


 車の走行音が消えて、彼女の耳にさまざまな物音が聞こえはじめる。

 家の中に誰もいる気配がない。

 ……おかしい。


 門扉脇の郵便受けに手紙が差し込まれていた。

 明らかに郵便屋が入れたものではない。訪問営業が差し込んだチラシの類いでもない。

 まるでラブレターのようにその黒い封筒は、今すぐ開けて読むことを促すように、ノイチの思考を誘導する。

 おそるおそる開いてみると、ロボットが書いたような文字が飛び込んで来る。


   『娘は預かった 返してほしければ今夜23時 1人でこの場所へ来い』


 手紙を読み終えたノイチは怒りに頭髪の毛先から靴の爪先までが震え出した。

 差出人の名前はなかったが、確信していた。

 手紙の最後には手書きで指定場所の地図が書いてあったが、構わず破り捨てる。


 家に入るとバタバタと足音を立てて自分を迎えに現れる小さな笑顔は、なかった。

 歯軋りを部屋に響かせ、無理やり口だけを笑わせると、時計を見た。まだ20時。しかし彼女は買い物袋をその場に放り出すと、今入って来たばかりの玄関の扉を開け、外へ飛び出した。


 車よりも速く駆けた。指定場所は建設中のビルの3階だった。

 ノイチは一度見たものは一瞬で記憶出来るよう、改造を施されている。迷うことなく真っ直ぐそこに辿り着き、踏み込むと、まだ誰もいない。


教授(プロフェッサー)! 来たわよ!」

 ノイチは剥き出しの鉄骨に声を響かせた。

「来たわよ! 出て来なさい!」


 まだ時間は20時7分だった。早すぎるのはわかっていた。

 出直すしかなかった。

 去り際に娘の名前を叫ばずにはいられなかった。


「アイシャ!」


 返事はなかった。



 町をうろつき回って時間を潰した。何も手になどつくわけがない。

 夜の町を早足で切り刻むように歩く彼女を人々は珍しそうに見た。中には彼女を知っている人もいた。

 ノイチの耳は改造され、高性能になっている。それは遠くの小さな音も敏感にとらえ、聞きたくない人々のヒソヒソ話の声さえ聞こえて来た。


「おい、あれ……」

「ブラック・ノイチだよな?」


「いい女だ、ヤリてぇ」

「強そうなケツしてんな」


 どうでもいい。

 どうでもいい。

 早く23時にならないのか?


 苛々しながら歩いていると、ショーウィンドウに自分の姿が映った。

 ウェーブした金髪の美女が、白い研究員服の上に黒いビニールコートを一枚羽織って、恐ろしい顔をしていた。青い目には隠す気など一切なく殺気がメラメラと燃えている。


『いけない……』ノイチは心を落ち着けようと努力した。

 悪と戦い、町の安全を守るブラック・ノイチがこんな顔をして衆人の中を歩いていては、彼らに不安を与えてしまう。

 何よりも彼女は感情的になると、いつも失敗していた。力の加減がわからなくなり、周囲を巻き込んでしまっていた。


 彼女は自分を落ち着けようと努力した。怒りと焦りに自分を忘れるところだった。

 相手のことを舐めすぎている。改めて怒りに囚われていた自分のことを叱った。こんな手の込んだことをして来たのだ、何か用意周到な策を企んでいるに違いない。用心しなければ、と己を嗜める。


 懐からスマートフォンを取り出し、助けを求めるように電話帳を開く。

 画面に大きく1つの名前が浮かび上がる。


 マイキー


「だめよ」

 ノイチは(かぶり)を振った。

「1人で行かなければ……。アイシャが何をされるか……」



 気が狂いそうな2時間弱をやり過ごし、ようやく彼女は23時に辿り着いた。

 1時間前からずっと指定場所に座っていた。

 何もない作りかけのコンクリートに囲まれた部屋で、アグラと呼ばれる座り方をしながら、両手の力を完全に抜いて膝に置き、無の中に身を浸そうとしていた。

 しかし、駄目だった。どうしても頭に娘の姿が浮かんでしまう。

 どうしても、感情が揺れ動いてしまう。

 ガラスのまだ嵌め込まれていない窓から差し込む月明かりが、彼女の苦しそうな横顔を半分照らしていた。


 23時を1分過ぎても誰も現れなかった。

 ノイチは耳を澄ます。

 あまりに多くの物音が聞こえて来ないよう、建設中のビルを取り巻く半径30mに聴覚を絞る。


 捕らえた。


 それは迎撃に向かうまでもなく、時速62kmの速さでこちらへ近づいていた。

 待ってやることに決める。


 それはスピードを落としながら、ノイチの待つ部屋に入って来た。


「ママ!」


 黄色い小型のUFOのような乗り物のハッチが開くなり、アイシャの泣きそうな顔が現れた。

 何もされてはいないようだ。今朝、幼稚園に着て行ったままの服を、綺麗なまま着ている。

 その姿を認めてほっと笑うと、すぐにノイチは歯を食いしばり、娘の背後に立つ男を睨みつけ、素早く飛んだ。


「おいおい」

 男は呑気に言った。

「私はお前の娘を返しに来ただけだ。あまり手荒な真似は……」


 ノイチは男の胸ぐらを掴むと4階上まで一瞬で跳び上がった。

 壁を垂直に駆け、床だけにコンクリートが張られている空間を見つけると、床に男を叩きつけた。


「手荒な真似はしないでくれるかね」

 男は顔色ひとつ変えず、喋りながらも口が動いていなかった。

 どうせそんなことだろうとは思ったが、本人そっくりのロボットだ。


教授(プロフェッサー)!」

 ノイチは爆発しそうになる感情をなんとか抑えながら、モニター越しに見ている相手に質問した。

「どうやって私の家を知った?」


「私にその程度の情報が容易く解除できないとでも思ったかね?」

 教授そっくりのロボットは、丸い眼鏡の奥の目を少しも動かさず、言った。

「私は君のすべてを知っているよ」


「アイシャに何かしたか?」

 4階下にいる当人に聞こえないように、ひそめた声でノイチは詰問した。


「娘に直接聞きたまえ」

 そう言うとロボットの白髪が風もないのに揺れた。皺を刻んだ顔の皮膚がギギと音を立て、愉快そうな笑顔を作る。

「君の娘が教えてくれるよ」


 ノイチは掌に衝撃波を一瞬にして発生させると、教授型のロボットの顔面めがけて叩きつけた。

 人間の皮膚そっくりの素材で出来た外皮が波打ち、膨れ上がり、破裂すると、既に破壊されていた中身の機械が飛び散った。


 娘のアイシャは不安そうに胸の前で小さな両手を握り合わせ、母の帰りを待っていた。ノイチはふわりと音を立てずに娘の前に着地した。

 別れた父親に似た黒髪のショートカット、そばかすだらけの白い顔、泣いたり笑ったり忙しい大きな目。無事だった。無事に自分の元に帰って来た。

 ノイチは娘の小さな体を抱き締めると頬擦りし、黒髪を撫でながら、言った。

「怖くなかった? 何もされなかった? ごめんね、ママが……」


「ママ、気をつけて」

 アイシャは教授から教えられ練習していた台詞を読むように、たどたどしい喋り方で言った。

「あたしそっくりの『さつじんへいき』をおじちゃんがママのところに送りこむんだって。気をつけて、ね?」


「アイシャに……そっくりの?」


「うん、そうなんだって。気をつけて」


 ノイチは暫くその意味を考えながら黙っていたが、やがて娘を安心させるように笑った。

「大丈夫よ。ママがあなたを見間違えると思う? 私の子供がもしもそっくりな双子だったとしても、見分けてみせる自信があるもん」

 そして娘の黒髪をくしゃくしゃと撫で、ノイチは言った。

「ましてや殺人兵器なんかとあなたをママが見間違うと思う?」




 翌朝、ノイチは娘を連れて研究室のドアを開けた。

 中には4人の同僚が既に来ており、驚いた顔をこちらに向けた。


「あら、アイシャじゃない!」

 眼鏡をかけた女性の同僚が笑いかける。

「どうしたの? 今日は幼稚園は?」


教授(プロフェッサー)に私の家がバレたの」

 ノイチは深刻な顔で言った。

「娘がいることも知ってたのよ。……助けてほしい」


「なんだって?」

 奥にいた髭を蓄えた男の同僚が、手に持っていた試験管を急いで置くと、こちらへ出て来た。

「君の個人情報は特別プログラムでこの上なく厳重に守られているんだぞ?」


「あの男ならハッキングしてもそれほど驚かないわ」

 赤毛の女性の同僚が言った。

「あるいはノイチの後を尾けたか」


「彼女を尾行なんて出来るわけがないだろう」

 髭の男がまた言った。

「一匹の蚊がずっと後を尾けて来てたって、彼女にはわかっちまうのに!」


「ノイチ」

 黒い髪を綺麗にまとめた背の高い男が彼女に歩み寄り、優しく手を差し伸べた。

「僕らが何とかしよう。アイシャが安心して幼稚園に行けるように」


「ああ……マイキー」

 ノイチは崩れるようにその胸にもたれかかった。

「お願い。私達を助けて」




 アイシャは自宅の広い部屋の中を、ジャンプしたり短く駆け出したりしながら、退屈そうに遊んでいる。


「ママー、お外にいっちゃ、だめ?」


「後でね」

 ノイチは優しい笑顔で娘を宥める。

「ママとマイキーと一緒になら、出掛けてもいいわよ」


 ノイチがテーブルの上に差し出してくれた紅茶をマイキーは一口飲むと、アイシャに言った。

「ちょっとママと僕はお話があるからね。それが済んだら外に出よう」


「つまんなーい、今すぐいきたーい」

 そう繰り返しながらアイシャはプラスチックの滑り台を何度も登り、何度も滑り降りた。


「ごめんなさいね、マイキー」

 ノイチは彼の隣のソファーに腰を下ろすと、言った。

「仕事を早退けさせちゃって……」


「あそこには子供がいられる場所がないからね」

 マイキーは彼女を安心させるように寛いでクッキーを口に放り込むと、笑った。

「何よりここが……君の家がアイシャにとって一番安全だ」


「あの娘から目が離せないわ」

 ノイチは項垂れる。

「バスに乗せて幼稚園になんか行かせられない」


「力になるよ」

 マイキーは自信たっぷりの顔をして見せる。

「僕のロボットを警護につける。警察なんかよりよっぽど優秀だ」


「ありがとう……マイキー」

 ノイチは疲れたように彼に身を預けた。

「愛してるわ」


「僕もだ」


 二人は短くキスを交わした。


 暫く労り合うように、互いの体を撫で回していたが、やがてマイキーが気づいて、言った。

「アイシャが大人しくなったね?」


「隣の部屋で寝転んで絵本を読んでるわ」

 ノイチは耳でそれを察知し、クスッと笑った。

「あ。起き上がった。もう飽きちゃったのかしら? こっちへ来るわよ」


 ノイチが言った通り、隣の部屋からアイシャの姿が現れた。


「ママー……」


「何? 絵本、もう飽きちゃったの?」


「こっち来てー」


「今、マイキーとお話中なの。後でね」


「こっちー」


「仕方ないわねぇ」

 ノイチはソファーから立ち上がると、娘に近づいた。

「なあに? どうしたの?」


 近づくと、アイシャは何も言わず、甘えるように抱きついて来た。

 我が娘のあまりの可愛さに、ノイチは思わず声を漏らして吹き出す。


「おい!?」

 マイキーが声を上げた。


「何?」

 ノイチは不思議そうな顔を彼のほうへ向ける。

「とうしたの?」


 そしてマイキーが愕然とした顔で見つめている方向へ、彼女も視線を向けた。


 キッチンカウンターの下から出て来たアイシャがそこに立って、びっくりしたようにこっちを見ていた。


「えっ……?」

 ノイチはそっちのアイシャを見てから、自分に抱きついているほうのアイシャの顔を見た。


 アイシャが二人、そこにいた。


 腕の中で自分を見つめ返すほうの娘の顔が、波を打った。それは見る間に膨れ上がり、内側から裂けた。

 裂け目から発生した閃光がノイチの目を焼く。

 それは愛娘ではなく、爆弾だった。

 抱き締めていた爆弾の爆発を受け、ノイチの体は爆風とともに飛び散った。



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